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第60話 風が来た

追い込まれても気にしない

本当はビクビクしているけれど

たぶんこういうのって伝染するんだよ

おれがビクビクしちゃうのは

父がビクビクしてるから

いつもなにかに怯えていて

うしろゆびさされるのを恐れているから

だからって

追い込まなくてもいいじゃないか

どうして自分の息子を苦しめるのさ

けれどあれなのさ

おれが世間から うしろゆびさされると

父の立場と威厳がかすんでアイデンティティが崩壊するから

おれひとりの問題にできない

おれひとりで傷つきたくても

許してもらえないから

せっかくほとぼりさめたとしても

あたらしいニュースが

あたらしい不安を運んでくる

だから油断してるとぶちのめされるよ

おい おまえ 世間じゃな

こういうひどいやつが

あんなひどいことしたっていうじゃないか

で おまえばどうなんだ

で おまえはどうなんだ

たとえ おまえはよくても

おまえの友だちはどうなんだ

どうせろくなこと考えないんだ

友だちなんかと付き合うな

父上どうしてそんなに自分の息子を追い込むのですか

父上どうして顔も見せない書き手のニュースを鵜呑みにするくせに

目の前にいる息子を見ようともしないのさ



ひとにいえない なきごと


でもな


ひとにいえないから

誰にもいわずに

ひとり抱え込んできたんだけれど

それがよかったのかなって

ちょっと思う



カバンいっぱい詰め込むと

カバンのびちゃうことあるだろう

心も似てる

ひとり抱え込んでばかりだと

ちょっとづつ心のスペースが広がっていく


ある日なぜか突然ぶわっと視界が広がって

あいてるスペースに風が吹き込んでくる

いっぱい いっぱい いっぱいだった

いっぱい いっぱい いっぱいだから

もうなにも はいらないって諦めてたけど


風が来た

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