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第81話 初めての全身

がんじがらめの束縛ではなく

むしろ自由に行動できている

なのになぜ?

おれ自身が

おれを

こうしなければ

こうしなくては

自分の意志を抑えつけて

課せられた目的に従う


順番どおりにクリアしていけば

いつか自分の番がきて

おれが望むような自分で

ふるまえるといいのにな


それならそれでよかったのに


そうならなかったのがきつい

情けなくもあり

恨みがましくも

もしも反逆の狼煙のろしをあげても

実行犯は「おれ」だよな?

自分で自分を責めるのなんて

無駄で不毛


と気づいた時には

もはや荒野に立ち尽くす

あとの祭り


りんごあめ 味わえたかい

べっこうあめ おいしそうだった

夜店を眺めて歩いたけれど

なにひとつ手にできていない


ファンファーレが高らかに響く

ありとあらゆる卒業を祝して

記念撮影のためにだけ

おれときみが庭に並ぶ


きみの肩に手をまわして

わざとらしいポーズだけれど

陽射しを受けて髪が輝いた

思わず手を離しそうになって

セーラー服の生地の感触は

とても力強く思えたよ


こんなに細くて

ゆらゆらしそうで

チョコレートみたく溶けちゃいそうなのに

セーラー服のうえから眺めた

きみの命が呼吸している


ああ

そうか

そうだった

おれ

なにもわかっていなかった


なにひとつ手にできていないなんて思ってたけど

夜店を眺めて歩くときいつも

君の手をつかんでいたっけ

それならそれでじゅうぶんだよ

それならそれでじゅうぶんすぎる

ないものねだりが無意味なことくらい

予備校で思い知らされたじゃないか

すでにいま

手につかんでいるもの

そうだ

絶対に離すものか


混迷から抜けるために心を整理すれば

口数くちかずすく

どうして普段こんなこと思い出せなかったのか

きみがいる

呼吸している

これでいい

じゅうぶんだ


記念撮影では隣にいたから

ちゃんと眺めることができずに

おまけにおれは照れ屋だからさ

ちゃんと見せてと言えなかった


プリントされた写真で初めて

きみの全身を見た

セーラー服は漆黒に思えて

スカートのプリーツは舞台カーテンだ

どんな舞台ステージが用意されている

どんな台詞セリフが準備されている

あれもこれも成し遂げた顔で

おれだけ準備不足だった


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