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第204話 見返り

努力のすえに手にれたのだから

しかるべき報酬ほうしゅうがあってもいいだろう


困難を克服して獲得かくとくしたんだよ?

見返りを期待してしまう


最初そんなつもり全然なかった

けど


タイムイズマネー時は金なりていうんだっけ?




試練を乗り越えてつかみとったんだもの

褒美ほうびの ひとつやふたつ なあ?


無理だと感じることがあって

途中こっそり逃げ出したりして

そんなの見破みやぶられていたけど

見逃みのがしてくれてたのかな

どうだったのかな 終わりよければ


すべてよし?



それとも


見逃みのがすことで向こうもとくがあって

ゼロよりまし みたいな



最初そんなつもり全然なかったんじゃないのかな

って今でも思うことがある


時はかねなり

世間じゃ時給じきゅうで働けるらしいよ?

何時間

そこでは成果せいかを問われることなく


うらやましくない?


嘘だろそんなの夢みたいだ

何時間

あそこで成果を出せなきゃボロクソだったじゃん

なに

時間

  時間で

     その経過だけで

            報酬もらえるって?

意味わかんない

うらやましいんだよ




いったい何時間

どれだけ勉強して


いや

わかる


『おまえの将来のため』


『お金のために勉強するだとか言うな、あさましいぞ』


父の機嫌きげんそこねてみたり

母にうらみツラミ言われて

目で姉に助けを求めれば



『ふぁぃとっ!』


と無言ではげまされはなたれたまま

ひとり


ああ


ひとり



なんて心地のいい孤独こどく




あれしなさい

ああしなさい

これしなさい

それはダメと

徹底的な干渉かんしょうを受けてもなお

おれは目を開けたままの旅



ここにいながら

それを聞きつつ

あれを強いられ

気持ちぐんにゃりさせられようとも なお

おれは自由をすぐそばに感じた



あるわけないけど

否定しきれないよ

ほら


きっと誰にも見えないし

ゆえに誰にも証明できず

おれだけが感じ取ってる


ほんとうの成果




いままでは父の解説が必要だった各種取扱説明書が

おれも読めるようになって

商店街の買物で予算も釣銭も計算できるさ

おそらくだけど

おれが勉強してきたことの成果って

こういうことな気がする

生き抜くための知恵そのもの

人生を大げさに遊びきるため

テーマパークの難解なルール

誰かと会話をはずませるために

すんなり理解できるってすご

これも報酬のひとつ

ほら

かねじゃないから税金かからないって

この体ひとつ

ふと思い立って

ふらり自由気ままに旅に出ても

おれなら見事に生き続けられる


そんな気がして


ならば報酬ほうしゅうこれはこれで



ま、いいか





空を目指してぐんぐん伸びて伸びて伸びゆくたけでも

ひとつひとつの節目ふしめを見れば

きっちり遮断されてるだろう?


こっちから そっち

そっちから あっち

いけないんだよ

そんな竹みたいに

おれも節目ふしめきざんでみようと思った


どんなに長く伸びても地中と宇宙はつなげられない

たとえば高さが届いたとしても

小刻こきざみなまりの節目ふしめたくさん



そういえば

あれ なんてったっけ



とても大切

しかも重要

まして自慢


なあ なんてったっけっか?




忘れていこう

忘れて進もう

忘れてもなお


身体は動く

頭脳が見抜く





なあ

入学気試験を突破したものどものナレノハテが集い

どうなることやらな気配けはいがするけど


父の予言じゃ

「もっと厳しくなるぞ」

おれ最下位さいかいらしい


母の見立みたてじゃ

「そりゃそうよ、できる子、できた子だけがはいるんですもの」

せいぜいついていきなさいと


おこっているのか

おどしているのか

あきれているのか

ふたりともへんな笑顔


うんざりなんだよ

でも

そんなもん

こんなもん

だよな?


と姉に視線ちらり


ちっともこっちを見ていなくて

かしかな

でもまあ

これくらいが

それくらいが


たけでしょうか


すっかりおれに興味を示さなくなった姉が


「そういえば」


めんどくさそうに放つ


「いよいよ明日から…大人だね」


ついでのように思い出したみたいに振り返って


「やったじゃん」


目を細めやがる




明日いよいよ入学式

おれが合格した中学の



おれにとってのご褒美ほうび


さあ大人の時間がはじまるよ






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