☆第五十四章 わたしの大切な友人。
わたしはスマホを手にしたまま、また迷っていた。薮内さんに環名ちゃんが入院している旨を伝えて、お見舞いに行ってもらえたら、彼女が喜ぶに違いない。なんて考えて、でも花火大会の日、薮内さんは環名ちゃんと二人で行くことを断った。
迷惑だろう。結局、そう結論づけて、スマホをテーブルに置いた。
環名ちゃんがいない間、わたしはいつも以上に、動画の編集作業に打ち込んでいた。
彼女が帰ってきた時に、さらにパワーアップしているように。
しかし、わたしはそのことに気を取られていて、大切な友人の変化に気づかなかった。あとから思えばそういうことなのだろう。
金曜の夜、いつものように、麗奈と星弥くんと杏と四人で食卓を囲む。
「琴ちゃん、明日悪いんだけれど星弥を預かってくれないかな?」
「え、いいよ。どっか行くの」
「うん、ちょっと……あ、お昼の時間帯ね。ちょっと悩んでいる友人と会うから昼は外で食べてくるね」
珍しいなと思った。でも、麗奈の友人関係をわたしはすべて把握しているわけではない。保健師さんたちにも付き合いがあるのかもだし、看護師時代の友達も、もちろんいるかもしれない。
「わかった、ゆっくりしてきてね」
「ありがとう」
翌日の土曜日は、台風が近づいてきているせいもあって、風が強かったが、天気はそこまで悪くなかった。
夏の間は暑くて、子どもたちをなかなか、公園にも連れていけない。
「海か琵琶湖に泳ぎに行く?」
そんな話はしているが、具体的な予定はまだ決まっていない。
ベランダに子ども用のビニールプールを出すと星弥くんがおおはしゃぎで飛び込み、杏もそろりそろりと水につかる。
子どもたちは水が大好きだ。シャワーを水道栓につないで、雨をふらせてあげると大喜びする。さらにシャボン玉もやってみたけれど風が強いから一気に飛んでいった。
プールに入ったあと、二人はつかれたのか昼寝。わたしも暑さでぐったりしていたので、隣でゴロゴロしていたら眠ってしまっていた。
「ママあ!」
星弥くんの声ではっと起きる。
「ただいまー!」
麗奈が帰ってきた。その時、前と同じように違和感のようなもの覚えた。なんだろう? ふと、前に彼女が言っていたことを思い出す。
「告られた」
も、もしかして、今日はその人と会っていたのかな? わたしはあることに気づいてしまった。それが違和感の正体か。
麗奈は出かける時に髪をきれいに編み込んでいた。なのに帰ってきたら、髪をおろしている。おや……。これはつっこんでいいのかダメなのか。
黙っておくことにした。麗奈には麗奈の人生がある。もしかしたらそのうち話してくれるかもしれないから、その時を待つ。