☆第百二十三章 本当の勝負はここから。
重い。眠いを通り超えて、重いが勝つようになっていた。まだ妊娠七ヶ月だっていうのに、お腹が随分とでてきた。
性別は……産まれるまで内緒でと言ってあるのでわたしもどちらが産まれるのかしらない。一卵性だから、男男、女女のどちらかである。
双子ってベビーベッド2ついるのかな?
「前田さん、働くの辞めたらどうですか?」
また安藤がいろいろ突っ込んでくる。
「お腹重いでしょう。無理しないで家で休んだら」
「双子の育児って大変だって聞きますよ」
「自然分娩で産むんですか?」
館長のキタムラさんがいないときに聞いてくる。キタムラとカタカナ表記しているのは、
外国産まれの外国育ちだからだ。オランダ産まれのポーランド育ち。出で立ちは貴婦人というところだろうか。クリスチャンでもある。
一方の安藤は、日本のどこにでもいるサラリーマン風のハゲ親父だ。
マタハラもあるが、カスハラもある。
カスハラとはカスタマーハラスメントの略で、お店にて顧客が大きな態度をとったり無理難題を押し付けたりすることだ。
というのも、どんぐり保育園で久しぶりに鈴木さんと再会した。隼くんが、杏と同じクラスに入ってきたので、話を聞いているとコンビニでパートタイムで働きはじめたのだが、変なお客さんに悩まされているという。
世の中はハラスメントだらけだ。
安藤は正直うざい。でも、お腹の我が子と素敵な旦那とかわいい娘がいるから、昔に比べてへこたれなくなっていた。
困った人がいても「世の中にはこんな人もいるんだなあ」と客観視できるようになったのだ。
ただ、安藤の言うとおり、お腹が重いのは実際そのとおりで、あとどれくらい働けるのかわからなくなってきた。