☆第百二十二章 ありがとうを五十本のひまわりにのせて。
わたしがそのことを思い出したのは電車の中だった。思わず「ああああっ!」って言ってしまって周りの人に驚かれてしまったが、そういえば自分の夫の誕生日をすっかり忘れていた。
わたしは杏の誕生日とはいえ、エンゲージリングをもらったのになんてこった!
洸稀さんの誕生日は六月の二十六日だ。そして今日は夏祭りの一日前の七月二十六日。
まるまる一ヶ月忘れていた。サイアクすぎる。
彼はいつもニコニコしている。機嫌が悪いところは一度ケンカしたっきり見たことがない。でもふと思い出したことがある。
六月の末日にお腹がいたいと言って寝込んでたことがある……いや、さすがに誕生日忘れてお腹が痛くなるのだろうか。
あたふたしながら電車を降りて、全速力ダッシュで、商店街に向かった。花屋で山のようなひまわりを花束にして、帰宅する。
今日は早番で家についたのは四時ごろ、杏のお迎えに行く前にあわててあちこち飾り付けをして彼の帰りを待つ。
帰ってきた杏がいつもと違う様子の家の中に目をぱちくりさせている。
六時、帰宅。 わたしは玄関で土下座した。
「ごめんごめん、本当にすみません。一ヶ月遅れました!!」
と彼にバースデーカードを差し出すと、洸稀さんは目がテンになっていた。
「あ、ああびっくりした」
そしていつものように笑う。「ありがとう」と目をくしゃっとさせる。
「まぁ、忘れられているなぁとは思っていたよ。でも色々大変なときだからさ」
「妊娠してても新米で働いていても忘れてはいけないものってあると思って」
洸稀さんがわたしを立たせた。ありがとうって言って玄関でハグされる。
「いいなーわたしもわたしも!」
杏がわたしたちの間に入ってきた。
「家族っていいな」
彼がポツリと言った言葉が身にしみた。そうだ、彼にはずっと家族がいなかった。
「たくさん子どもがいても楽しいよね、賑やかな家庭で。だから双子でも三つ子でも、何人いてもいい」
三つ子はさすがに産める気がしないが、こうなったら、洸稀さんにたくさんの家族を作ってみよう。家のなかが毎日パーティーみたいになったら……。いいな。