天文部部室で記念写真を撮り終えたあとのこと。黒咲ノアちゃんが村雨さんを横目で見た。
「村雨のあねご。さっき小説家とかノベリストとか言ってませんでしたか? いや、言っていた」【ノア言語では反語をよく用いる】
「あねご⁉ わたくしのことはパイセンではないのですか?」村雨さんが質疑した。
「トゥルー」【ノア言語で肯定】
「わたくしは小説家のヤロウとナクヨムにウェブ小説を投稿しています」
「トゥルー⁉」(本当に?)「すごいっす! グレートだね。天の才だね! 作品名とペンネームは?」
「セカイの終わりには黄昏こそが相応しいです。ペンネームはうお座の運命にあらがう女です。もう連載も終わりましたし、書籍化の話も来なかったですけどね」村雨さんは微苦笑した。
「そんなことないです。あねごは臆病な虎じゃない。めちゃくちゃ格好良い!」
「中島敦先生の『山月記』ですね。自分は天才だと思いながら作品を発表して切磋琢磨できなかった男が虎になるお話。黒咲さん、意外といっては失礼ですが、博識ですね」
「ボクはカフラマーンの騎士ですから」ノアちゃんが小さな胸を張る。
「……黒咲さんのお話を聞いていたら次回作のインスピレーションが湧いてきました。次回作は超伝記バイオレンス。光の宇宙意思と暗黒の集合無意識が地球を舞台にして、使命を持った人間同士を戦わせるストーリーです。前作は文字数への配慮や序盤の盛り上がりが欠けていましたが、今回はわたくしにできることすべてをつぎこみます」
「あねご! いと良きかな!」【ノア言語ですごくいいね】
村雨さんの新作発表は少しあとになるが、確実に作家として経験を積んでいく村雨さんは高校三年生のときに公募の一次選考を通過して、卒業後にプロ作家デビューすることになるのだ。
もっともそのとき姫川さん、折笠さんは卒業しているので物語のエピローグになるけどね。