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第八十一話

「ま、待ってくれ!アルージェは転生者なのか!?」

ミスティが転生者という言葉に驚き、席を立ちあがる。


「こっちの世界でも転生者という言葉あるんですね」


「転生者、そうだな、古い書物を読んだ時にその言葉を見たことがある。

過去に実在した勇者も転生者と書かれていたが定かではない」

ミスティは色の書を探していた時に読んでいた書物に書かれていたことを思い出していた。


「なるほど、なら他にもこの世界にいるかもしれないですね」


「そうだな、すまない、話を逸らしてしまった、続けてくれ」

立ち上がっていたが、椅子に座りなおして、紅茶を飲んで心を落ち着かせる。


「はい、話を戻しますね。

僕、前世で死んでて神様にたまたま目をつけてもらって記憶を一時的に消されてこの世界に転生してきたんですけど、

どうやらそれが神様達の中では良くないことだったみたいで、えらい神様が聖国の神子に僕を殺すように神託をだしたみたいです。


「す、すまない、突拍子ない話に少し困惑気味なんだが、つまりアルージェは聖国に命を狙われるということか?」


「そういうことですね、それでここからがお話したいことです」

アルージェは息を整える。


「僕と一緒にいると、おそらく聖国と戦うことになると思います」


「あぁ、そうだろうな、本当に神託を出したなら聖国は最大戦力を投入してでも少年を殺しに来るだろう、あちらには神託という大義名分があるからたとえこの国と戦争になったとしても遂行させるだろう」


「だから、ミスティさんとマイアさんは僕からできるだけ離れてほしいんです。僕と一緒にいたら戦いに身を投じることになるので、ルーネも群れに戻って欲しい、僕の知り合い誰も巻き込みたくないんだ」


アルージェの言葉で沈黙が生じる。

皆、思い思いに何かを考えているようだった。


「アルージェ」

まず沈黙を破ったのはミスティだった。


「私は、君と一緒に居るよ。戦争になるのであればフォルスタに戻ろうが辺境伯家の娘だから戦争に身を投じることになるだろうし、どうせ死ぬなら少年の腕の中で死にたいからな。

マイアはどうする?今なら別に側付きやめても構わないぞ」

ミスティはマイアに確認する。


「お嬢様の気まぐれで今の私があります、最後まで傍におります」

普段と変わらず凛とした態度で答えるマイア。


「そんなことも有ったな、なら決まりだな、私達は最後までアルージェの傍にいよう」

ミスティは少し嬉しそうに話す。


「そんなの駄目ですよ・・・、相手は色の書を読んで特別な力を手にした人、読み手ライブラリアンです。もう人と言っていいのかもわかりません、そんなのと戦ったらただでは済まない可能性だってあります、本当にどうなるかわからないんです。だから・・・だから・・・」

アルージェはついてくることを止めようとするが、ルーネが「バウッ!」元気よく吠える。


「何があっても一緒だ」と脳内に伝わってくるルーネの想い。


「ルーネもダメだよ・・・」

何とかして皆を巻き込まないようにできないか考えるが、

「残念だったな少年、私達は覚悟を決めたんだ、最後まで共にいくと、後は少年だけだ」

ミスティが考える時間を与えない。


「わかりました、けど一つお願いがあります。

僕はこんなとことで死ぬつもりはありません。

神様に読み手ライブラリアンを倒すと宣言しました。

だからみんなも絶対に死なないでください、本当にお願いします。

みんなを失いたくないんです」


「マ、マイア!今のはアルージェからの・・・」

ミスティは興奮気味にマイアに話しかけるが、

「お嬢様、今くらいはアルージェ様の話聞いてあげてください」

と一蹴される。


「あははは・・・」

僕は切羽詰まってたのにミスティはいつも通りだなぁと乾いた笑いが出る。


「む、そうだな、それなら少し私からも提案というか今後の話をしていいか?アルージェの話を聞いて少し考えたことがあるんだが」

ミスティは真面目な顔で話を始める。


「聞かせてほしいです」


「まず、一つ目は学園長に話しておいたほうがいいだろうということだ、この学校に入学早々問題を持ち込んだことを謝罪して学園長の指示を仰ごう。

次にパパ・・・父にも話しておいた方が良いと思う、いつ聖国との戦いが始まるかわからない以上、攻め込まれたてまず対応するのは辺境伯になるからな、事前に知れたのは幸運だ。

最後に私達も可能な限りこの学校で力を蓄える必要があると思う。

それは自分の技術の向上、戦い方の確立はもちろんだが、仲間になる人を探してみたりするのもありかもしれない。」


「そうですね、なら学園長には明日僕から話してみます」


「あぁ、そうだな、私は父に早急に連絡する

その他思い当たることはないか?できることはやっておきたい」

ミスティが顔を見渡し、確認する。


「無いみたいだな、ならこの話はこれで終わりだ。

はぁ、せっかく私が入学試験に合格したから、今夜はちょっと贅沢な食事にしようかと相談しようと思ったらこれだ」

ミスティは少し怒り気味に話す。


「すいません・・・」

アルージェは俯きミスティに謝る。


「アルージェが謝る必要はないぞ、突拍子もない話だったが私も興味深い話が聞けたからな。

それに自身の事を打ち明けてくれたんだ、少年から信頼されたということだろう?今回はそれで良しとしよう。

ただ、明日は必ず少し豪勢な食事にするぞ!」

ミスティの掛け声に、ルーネも「ワウッ!ワウッ!」と喜んでいる。


「ありがとう、ミスティさん、マイアさん、ルーネ、おかげ様で心が軽くなったよ」

問題が解決したわけではないが、一人で背負う重荷がなくなって少し気が楽になった気がした。

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