「ねぇ、ルーネ本当にここに学園長いるの?」
ルーネの鼻を頼りに学園長の匂いがするところにきたのだが、ここは食堂。
確かにお昼ご飯の時間帯には教授達の姿もあるが、
まだお昼ご飯には早い、九時の鐘から一時間程しか経っていない。
「バウッ!」
ここにいる間違いないと自信満々に答えるのでルーネは確信を持っているようだ。
「でもまだお昼には早すぎるよ?」
アルージェがルーネにそういうがルーネはアルージェを無視して食堂の中に入っていく。
「あぁ、待ってよ!」
ルーネに駆け足でついていく。
まだお昼には早いので、食堂はガラガラでちらほら人がいる程度だった。
「この時間でもなんやかんやで人いるんだね」
ルーネの後についていくと見知った人がスイーツに目を輝かせて食している姿が見える。
「本当に学園長いるじゃん!ルーネすげぇ!ルーネいなかったら絶対わからなかったよ!」
ルーネを褒めて、めちゃくちゃに撫でると、ルーネは「バウッ!」と誇らしげに吠えて文句も言わず撫でられ続ける。
「コホン、何やら騒がしいと思えばアルージェか」
ルーネとじゃれていることで少し騒がしくしてしまったので、学園長がこちらに気付きいつもの荘厳な顔つきで話しかけてくる。
「プッ、ふふふ、ははは」
先ほどまでスイーツに目を輝かせていた学園長がいつもの雰囲気で話しかけてきて、アルージェはつい笑ってしまう。
学園長はアルージェに笑われて、少し恥ずかしくなる。
「えぇい、笑うでない!この年になると"すいーつ"を食べるのも人目を気にしてしまうんじゃ!悪いか!」
「いえ、なんか意外だなと思っただけです!なんか学園長は少し近寄りがたい雰囲気でしたけど、親近感湧きました!」
「ふむ、なら一緒に"すいーつ"でもどうじゃ?」
「えぇと、でも・・・」
一刻も早く鍛冶場を使用する許可が欲しかったが、
「まぁまぁ、時間は有限じゃが、時には無駄な時間を過ごすのも大事じゃよ。ほれ見ての通り"すいーつ"を頼みすぎてしまっての儂を助けると思って」
学園長が指を差す方を見ると、机いっぱいにスイーツが並べられていた。
「えぇ、あれ、一人で食べる予定だったんですか」
アルージェは机に置かれている量に驚き、ルーネはキラキラと目を光らせていた。
「昔はいけたが今はもう無理じゃ、年で食が細くなってきてな。
いろいろなものを食べたいんから一口ずつしか食べられないんじゃよ」
一口食べて残りはどうしてたんだろうと思いながら「ははは」と乾いた笑いが出る。
「ワウ!ワウ!」
ルーネはぶんぶんと尻尾を振りながらアルージェに早く早くと訴えかけている。
「ルーネからの圧がすごいのでご一緒させていただきます」
「おぉ、儂も助かるわい」
アルージェは学園長に連れられて席に着く。
ルーネはアルージェの横でおすわりして今か今かと待っている。
「なら、アルージェにはまずこれを」
そういってシフォンケーキをアルージェの前に置く。
そして、魔法陣を展開して、手を入れてポッドとティーカップをだして、紅茶を入れてくれた。
「おぉ!ありがとうございます!」
まず、紅茶で口の中を真っ白な状態にする。
「なんかこの紅茶おいしいです!」
「ほう、アルージェは紅茶の良さがわかるか、ならこれをやろう」
そういって、紅茶の茶葉を入っていた容器ごと渡される。
「えぇ、こんなに!?いいんですか?」
「よいよい、まだまだこの中にあるんじゃ」
そういって魔方陣を指さす。
アルージェは学園長が指さす魔法陣を見て
「それってなんなんですか?」と尋ねる。
「これはアイテムボックスみたいなもんじゃよ、魔法陣の中に空間を作って、中に物をためておけるんじゃ」
「魔法ってやっぱりすげぇ!」
アルージェは目をキラキラと輝かせて魔法陣を見る。
「アルージェもこのまま魔法を勉強していればいずれ仕組みが分かるようになるじゃろう、それよりほれ、ケーキを食べなさい」
学園長はシフォンケーキを一口も食べていないアルージェにケーキを勧める。
「あっ、ほんとだいただきます!」
もらった紅茶の容器をアイテムボックスに片付けて、フォークを手に取りシフォンケーキを食す。
「おいしい!」
ルーネはアルージェから回ってくるのをただ、待っていたが一向にルーネに回ってくる気配はなかったそれでも、
ただ尻尾を振って待っている。
「ルーネは我慢できて偉いのぉ、ほれこれをお食べなさい」
ルーネがアルージェのシフォンケーキから目を離さないのを見て、学園長はルーネにはクリームがたっぷり乗ったシフォンケーキを渡す。
「ワウッ!」
学園長からシフォンケーキを渡されて、ガツガツと食べ始める。
アルージェとルーネがシフォンケーキを食べているのを学園長は温かい目で見守る。
「それにしてもルーネからはアルージェに対する厚い信頼を感じるが、どこで出会ったんじゃ?」
「ルーネからですか?ルーネとは僕の故郷ニツールからフォルスタに行くまでの途中の森で会いました。
ルーネってそんじょそこらの魔物に負けないくらいかなり強いんですけど、多分数でアッとされて弱ってたんですよね。
そこにたまたま出くわした僕が決死の覚悟でルーネを助けてそれからはずっと一緒に旅してます」
「ふむ、なるほどのぉ、アルージェがルーネの命の恩人か、そりゃ信頼も厚いわけじゃ」
何か納得した様子でうんうんと学園長は唸っている。
「学園長には相棒みたいなのいないんですか?」
「相棒か」
そういって遠いところを見つめて何かを思い出していた。
その後ひょうひょうといつもの調子で話す。
「昔はいたが、今はもうおらんのぉ」
「死んじゃったとかですか・・・?」
アルージェが余計な聞いちゃったかなと俯く。
「いや死んではおらんぞ多分な。ただ離れてしまっただけじゃ」
「そうだったんですか・・・、なんかすいません」
「よいよい、それよりアルージェ、ケーキは食べ終わったみたいじゃが、クレープもあるぞ」
そういってクレープをアルージェの前に置き、
紅茶が入っていたカップも中身を見て、減っていた分少し注ぐ。