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第九十話

「それにしても、ニツールか懐かしいの」


「学園長はニツールに来たことあるんですか?」


「あるぞ、ニツールから見える大きな樹があるじゃろ、あそこに行く用事が有って少し寄った程度じゃが」


「あそこって有名な場所なんですか?マナスポットとか?」

村の近くに有った小高い丘から見える大きな樹、村の近くから見てもあれだけ大きく見えたのだ、

実際はどれほどまでに大きいのか想像もできない観光地になっていてもおかしくないだろう。


「有名といえば有名じゃな、あそこには遠い昔に調査で行ったんじゃよ。

だがそうじゃ、あそこはアルージェのいう通りマナスポットじゃよ、よくわかったの、よく学んどるな」

マナスポットについて知っているのかと少し驚く学園長。


「たまたまですよ。村にいるときはわからなかったですが、以前にヴァプンコヌングル遺跡に行ったことがあって、今更ですけどちょっと雰囲気が似てるなって思って」

アルージェは学園長に褒められ、少し恥ずかしくなる。


「その感覚は大事にするんじゃぞ」

そういって、クレープが入っていた皿を回収して、シュークリームを差し出す。


シュークリームを見たルーネの目が輝き、尻尾も先ほどよりも強い力でぶんぶんと振って少し風が起きていた。


「あはは、すいません、ルーネはシュークリームが好きなんです」

アルージェは軽く謝罪をする。


「そうかそうかルーネはシュークリームが好きか、ならたくさん食べると良い」

学園長は山盛りに盛られたシュークリームをルーネに渡す。


学園長はこれを一人で食べるつもりだったのか?と疑問に思っていると、

「アルージェも食べるとよいぞ」

ルーネの皿よりかなりお上品に盛られたカヌレが出てくる。


「ありがとうございます」

カヌレをモヒモヒと食べ始める。


「アルージェはコルクスから離れた後どうするか決めているのか?」


「離れた後ですか?」

カヌレを食べながら学園長に返事する。


「あぁ、そうじゃ、いつになるかはわからんがコルクスの手から離れる時が来るだろう。

その時にどこかの派閥に入るのかあるいは一人で進むのか考えといたほうが良いぞ。

もし派閥に入るなら儂から少しは推薦してやれるが、あくまで推薦できるだけじゃからな」


「派閥っていうのは?」

学園長が当たり前のように言っていてなんとなく意味は分かるが念のために詳しく聞くことにする。


「おぉ、派閥について知らんかったか、そうじゃな派閥というのは考え方や、研究内容が似ている者同士で集まり出来た組織じゃ。

はじめはそんな大きなものではなかった。

仲の良いもの数人程度で集まり、ただ一緒に研究したり進捗を報告したりしていたんじゃが、

それが学園が歴史を重ねるごとに大きくなり力をつけ始めたんじゃ

それが派閥の始まりで今でも新興の派閥が力をつけて古い派閥を追い抜いたり、逆に古くからある派閥が衰退したりしておってな

今主に残っているのは三つじゃがいつまでこの三つが残っているかはわからん」

学園長が続けて有名な派閥の説明を始める。


星々の観測者スターゲイザー

良いことも悪いことも全て星の動き決められていると信じている者が多い派閥で考え方も保守的な人が多い。

使用する魔法は天体魔法と呼ばれる何人もの魔術師が一緒に詠唱をして発動する規模の大きな魔法を得意とするものが多い。

専攻は主に星の動きや天体の動きを研究しており、宇宙についても研究している者もいる。


自然と共に歩むものエレメンタラー

すべては自然のままが一番であると考えている派閥で物事はなるようになると思っている人が多い。

また、エルフ、獣人などの人たちが多いからか植物魔法や、地属性魔法等を使うものが多い

専攻は知属性魔法や植物の成長を促し、作物を育てて人の暮らしを豊かにする。

地属性魔法を土木工事や建築に利用するなど多岐に渡る


真なる魔法使いジェネシス

体内保有魔力が多ければ多いほど素晴らしい魔法使いであると主張する派閥で人至上主義。

組織には人族の貴族しかおらず、皆魔法は派手で攻撃的な魔法を使用するものばかりである。

だが、戦いになると右に出る派閥はない。

戦争などにも参加することもあるため、上下関係はしっかりとしており、礼儀を重んじる。


「まぁ、ざっとまとめるとこんな感じかの、もちろん有名なところ以外にも派閥はあるから考え方が合わなかったりすれば無理に入る必要はないぞ」

説明が終わるころには、テーブルのスイーツは全てなくなっていた。


「ふぅ、よう食べたな、儂は満腹じゃ、こりゃお昼はいらんな」

学園長は少し苦しそうに話す。


「僕もちょっとお昼は食べられそうにないです、ウプッ」

アルージェは学園長から勧められるがまま食べてしまったので、明らかに食べすぎであった。

それもこれも学園長が、これもあるぞ、ほらまだこんなのもあるぞと孫を可愛がるおじいちゃんムーブをしていたからである。


「ワウゥ」

ルーネも甘いもので満腹になり満足そうに床に寝ころび始める。


「あぁ、ルーネこんなところで寝たらだめだよ!」

アルージェが無理やり立たせると、ルーネはいやいやお座りを始める。


「フォッフォッフォ、ならそろそろ用件を聞こうかの」

学園長がいつもの荘厳な雰囲気に戻る。


「はい!コルクス教授からもしかしたら聞いてるかもですが、付与魔法練習してたら手持ちの武器がなくなったので、鍛冶場を借りたいのと、

あとできれば素材の手配とかもお願いしたくて、鉄鉱石さえあれば僕のほうで鍛造できるので、インゴットじゃなくても大丈夫です!インゴットのほうが楽ですけど」


「ふむ」

学園長は顎髭を触りながら何かを考えて、学園長の何もない空間に魔法陣が浮かび上がる。

中から便箋と封書とペンを取り出して、ペンが勝手に動き出し便箋に文字を書き始める。

カリカリカリとリズムよく動いていたペンが止まると封書に便箋が勝手に入り、最後に封蝋が施される。


学園長が封書を手に取り、アルージェに渡す。

「鍛冶場の使用許可と素材の手配について記載したから、これを事務室に持っていきなさい」


「あ、ありがとうございます!」

アルージェが立ち上がり、すぐに事務所に向かおうとすると、

「すまんのアルージェ、最後に少しだけ老人の戯言を聞いてくれぬか」

学園長が杖で行く手を遮る。


アルージェが急に出された杖に驚き「わわっ」と声を出し何とか動きを止めて学園長のほうを向く。


「お主はきっと、国を、いや世界すらも変えてしまう大物になると儂は確信しておる。

だからこそアルージェはその優しさをいつまでも大事にしてほしい」


「優しさ?」

アルージェが首を傾げる。


「フォッフォッフォ、わからんならそれでよい」


学園長はルーネに目を向ける

「ルーネもアルージェはこういうやつじゃからしっかりと頼むぞ」


「バウッ!」

ルーネは学園長からの言葉に返事をする。


「さぁ、引き留めてしまって悪かった、今日は本当に楽しかったわい」


「また、時間が合えば一緒にスイーツ食べましょう!紅茶ありがとうございました!では!」

アルージェが事務室に向かって走り始めて、ルーネが軽く会釈してアルージェの後を追いかける。


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