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第九十三話

教授からの指導が終わり部屋に戻ると、いつも通りミスティさんは紅茶を飲んで優雅に過ごしていたが、

いつもと雰囲気が違った。


「あぁ、アルージェか何も言わずに一日外泊とはなかなかにいいご身分だな」


「あっ・・・」


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あれから3か月


後でマイアさんにこそっと聞いた話なのだが、ミスティさんは本当に心配していたらしく、

夜は寝ずにアルージェ達の帰りを待ち、翌日の授業も全て休んで何かあってもすぐに対応できるように待ってくれていたらしい。


それを聞いて、僕はシェリーの帰りをずっと待っていたあの時を思い出した。

あんな思い、親しい人にさせるもんじゃないと思って、もしも外泊する場合はどこに泊まるかなどを細かく報告すると約束した。


魔法についてはミッチリと修練を重ねた結果、新体系魔法の魔法は戦闘時に使えるレベルに

付与魔法は鉄の武器にでも三つの効果を付与できるようになっていた。


また、初めに教えてもらっていた、付与の方法の四つのうち

魔玉を使った方法以外の三つ


『物自体に魔力刻印を施し、魔力を注ぐことで効果を付与させる』


『物の性質を一時的に変化させて効果を付与する』


『効果を持った魔力を物に馴染ませて効果を付与する』


全てを実践レベルで使えるになった。


手持ちの薄い水色の鉱石ミスリルを混ぜて作ったものと誕生日に貰った特別な剣以外には、

汎用性の高い「耐久力増加」「鋭利化」の付与魔法が施されている。

槍などは投擲した際のことを考えて「貫通力増加」も付与しているので


基本は二つで状況に応じて追加で付与できるような状態にしている。


『物の性質を一時的に変化させて効果を付与する』については、

そこら辺に落ちているどんな武器でも瞬時に付与施せるように練習したので、

即席で「鋭利化」や炎を纏わせる「炎属性付与」なんかも可能だ。


炎属性付与については、あまりに高温にしすぎると鉄が柔らかくなり、

武器としてまともに機能しなくなるのできっと炎に強い鉱石なんかに付与するのだろうが、

いかんせん鉱石についてはほぼ知識がないので、単なる想像に過ぎない。


「なるほど鉄素材に三つの効果を付与できるようになったか、ならもう俺が教えられることはない、さっさと出ていけ」

コルクスがアルージェに告げる。


「えっ、でも新体系魔法は・・・」


「あほか、瞬時に魔法を出せるだけで十分だ、俺の仮説が正しかったと証明されたわけだしな」


「でも、まだ教授から学びたいことが・・・」


「俺が教えられることはもうない、新体系の魔法は想像力でどうとでも変化させられるし、付与魔法はもう俺の上をいってる、他に何を教えてほしいってんだ?」


「えーと・・・」

アルージェは言葉に詰まる。


「無いようだな、ならさっさと出てけ」


「で、でもこれからどうやって学んだら!」

そうアルージェはコルクスから学ぶ以外に学ぶ方法を知らないのだ。

何せ学校に入学してすぐにマンツーマンでここまでコルクスに教わったのだから。


「あぁ?んなもん図書館にでも行けばいいだろ、幾万と知識が蓄えられてる、どっかの派閥に入って誰かに聞くのもいいだろう、あっでもそうだ、お前は人前で魔法をまだ使えないのか、俺が許可を出してねぇから」


「ならもう許可を・・・!」


「いや、だめだ、まだ検証結果をまとめて学会に提出してねぇ、学会に提出したら、また連絡するからそれまでは大人しく図書館で勉強してろ」


「そ、そんな殺生な」

ついに人目があるところでも魔法を使える許可をもらえると思っていたが、まだ駄目だと聞いてがっかりする。


「まぁ、そういうことだ、俺は研究資料と検証結果まとめるからさっさとでていけよ」

コルクスはさっと振り返り、シッシと手を払う動作をして、いつもの研究机に戻っていく。


「ガキの子守からもようやく解放だ。やっと、研究結果をまとめる時間ができる」

とアルージェに聞こえる声でわざと呟く。


「はぁ、教授も、もう何も教えてくれなさそうだし、図書館探そうか、ルーネ」

がっくりと肩を落として、ルーネに声をかけてトボトボとコルクスの研究室を出る。


コルクスはその様子をちらりと見て、すぐに研究資料に目線を戻し続きをまとめ始める。


「ねぇ、ルーネ図書館ってどこあるかわかる?」

アルージェは魔法学校に入学して以来、コルクスの部屋と鍛冶場、自分の部屋を行き来していただけなので、

魔法学校の敷地内に何があるのかを全く把握していていないのである。


右も左もわからないまま、放り出された気分だった。


「バウゥ?」

ルーネも基本的にはアルージェと一緒に過ごしていたので、

さすがに図書館の場所を把握していていなかった。


「ならさ、今日はもう夕方だし部屋に帰って、ミスティさん達に場所聞いてみようよ、ミスティさんはきっと僕と違って普通に学生生活を送ってるはずだし」

本来であれば、一年目は全方向に広く浅くの授業を受けていき、

二年三年と年を重ねて、派閥に入ったり、課外学習に精を出したりと方向性を決めてより専門的な知識を学んでいくのが定石である。


アルージェの提案にルーネも「ワウ」と同意する。


ルーネの同意が得られたのでルーネに跨り、部屋に戻る。


「なんか僕ってすごい歪な形で成長してる気がするなぁ、まぁ楽しいからいいけど」



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