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第九十二話

翌日、ルーネにいつもの時間に起こしてもらった。


「んー!久しぶりに床で寝たから体がバキバキだー」

伸びをしたりして、体を解す。


とりあえず、水を出して、顔を洗ったり歯を磨いたりして

コルクス教授の元へ向かう。


「さすがに体も水できれいにしたほうがいいか」

水を出して、めんどくさいので、服のまま自分に水を纏い水の流れを作ってきれいにする。


昨日やった、服の水分を操作して全て取り出すといつも通りピカピカになった。


「これ、あったら旅に出ても苦労しなさそうだね!フフフ」

当分は魔法学園にいることになるだろうが、急に旅をしたくなるかもしれない。

ニツールに戻るだけでもここからならかなりの時間移動することになるだろうし、あって損はない。


ニツールのことを思い出すとふと、家族のことが頭に浮かぶ。

「父さんと母さん元気かな、マールも結構大きくなってるんじゃないだろうか、きっと"にいにい"とはもう呼んでくれないだろうな、ハハハ」


家族を思い出した後村のみんなのことを思い出して、シェリーのことを思い出す。


「神様はあぁ言ってたけど、どこにいるんだよシェリー、君に会いたいよ」

無意識のうちに手に力が入り、拳を握っていた。


「ワウ?」

心配になったルーネが首をかしげてアルージェを見ていた。


「あぁ、ごめんね、心配してくれたんだ」

そういってルーネを撫でると気持ちよさそうに撫でられる。


「ルーネは本当にいい子だね、さぁコルクス教授のところに行こうか、遅いとまた氷球アイスボールで狙われちゃうや」

鍜治場から外に出てルーネに跨り、コルクスの元へ向かい

ほんの数分で、コルクスの部屋に到着する。


「失礼しまーす」

いつも通り、部屋に入るとコルクスが扉の近くで待ち構えていた。


「どうやら、武器が無くて集中できない状態からは復活したみたいだな、さっさといつものやつ始めるぞ」

そういうと部屋の奥に進んでいく。


「はい!よろしくお願いします!」

アルージェは後ろからついていき、そのまま準備を始める。


そしていつも通り、魔法を瞬時に展開する練習と魔法発動後すぐに的に当てるルーチンをこなし、

いつも通りお昼ご飯を食べる。


どこからお昼御飯が用意されているのかはわからないが、

なぜかこのくらいの時間になると、食堂のご飯が3種類用意されている。


先にコルスクが食べたいものを選んで、アルージェとルーネは余ったものをどっちにするか相談して選ぶ。


昼ご飯を選んだコルクスはいつもは研究机の方に行って食べるのに、

なぜか今日はアルージェ達と同じ卓で食事を始める。


そして、いつもなら話しかけてこないコルクスが話しかけてくる。

「アルージェ、お前過去で一番辛かったことはなんだ?」


コルクスから話しかけられると思っていなかったので、とっさに返事ができなかった。

「えっ?」


「えっ、じゃねぇ、お前が今まで経験したことで一番辛かったことはなんだって聞いてんだ」


「辛かったこと・・・」

今朝思い出していた、シェリーのことが真っ先に浮かんだ。


「村にいた時のことなんですけど、すごく仲の良かった幼馴染を事故で失いました」

アルージェがぽつぽつと話し始める。


「そうかその時、お前は自分の非力を恨んだか?それともこの世界を壊してしまいたくなるほど恨んだか?」


「非力で何もできなかった自分と不条理なこの世界、どちらも恨んでいたかもしれないです」


「そうか、辛いことを思い出させたな」

コルクスはアルージェから顔を背けて研究机に向かう。


コルクスからそんな優しい言葉が聞けると思っておらず、アルージェは驚きルーネの方を見る。

だがアルージェは気付きもしない、コルクスはアルージェが持っていた本が色の書なのだと確信したことに。


「ここに来て、ようやく見つけた、お前は仲間だ」

コルクスはアルージェに聞こえない声で呟くが、ルーネはその声を聞き取っており、コルクスを睨む。


コルクスはこちらに振り向き。

「付与魔法の練習に移るか」

といつもの調子に戻る。


「はい!」

アルージェは昨日作った、紺碧色の鉱石を混ぜた武器をまず取り出し、付与魔法の準備をする。


コルクスはその武器を見て、「おい」と声をかける。


「えっ、なんですか?」


「お前のその武器ミスリルか何かを混ぜただろ」


「ミスリル?紺碧色の鉱石があったので少し混ぜましたが・・・」


「はぁ」とコルクスはため息をつき、

「あのな練習用にミスリルなんて馬鹿かお前は、大体ミスリル単体で作れよ、ちゃんと金属について学んでんだろうな?」


「えっ?ミスリルは単体で使うものなんですか?」


「通常は単体で使うことが多い、いや、だが、そうか」

そういって研究机に戻り何かを考え始める。


その後、何かを思い出したかのように顔を上げて、

「その武器は今は使うな、せめて鉄、鋼の武器に三つの効果を付与できるようになってから使え」


「わ、わかりました」

ミスリルと呼ばれる金属を混ぜた武器はアイテムボックスに片付けて、

いつも通り鋼の武器を複数用意して、付与魔法の練習を始める。


今はまだできても二つなので先は長くなりそうだ。

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