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第百三話

暴食スライムグラトニースライムとの戦いの後、魔法学校の研究棟付近は酷い有様だった。

建物は崩壊し、石畳の道は剥がれて道はガタガタ、それと暴食スライムグラトニースライムが出てきた大穴なんてどうやって塞ぐんだろうか。


「あっ、そろそろ限界かも・・・」

体への負担は明らかに限界を迎えていた。

それでも今まで戦えていたのは、みんなを守らないといけないという使命感だった。


アルージェはその場に倒れ込み、朦朧とした意識の中でミスティとルーネがこちらに駆け寄ってくるのが見える。


「みんな無事だ、よかった」

アルージェは駆け寄ってくる二人に手を伸ばし、そのまま意識を失う。


「アルージェ!」

側まで駆け寄りミスティが名を呼ぶがアルージェは反応が無い。


「あぁ、どうしたらいい。何をすれば・・・」

いつも大人びているミスティが焦ってワタワタと動いている。


「お嬢様、大丈夫です。アルージェ様は寝ているだけのようです」

マイアがアルージェを持ち上げて、ルーネに乗せる。


「そ、そうか!寝ているだけならよかった。ルーネ、早く寮に連れて行こう」


ミスティの言葉にルーネは頷き、寮まで運びベッドに寝かせる。


それからは全身の痛みで起きてはまた眠ってを二日繰り返し、ようやくアルージェは目を覚ます。


「ここは・・・?」

少し痛む体を起こして辺りを見渡し、寮のベッドだと認識する。


「あぁ、僕の部屋か」

自分の部屋にいることに安心してもう一度体をベッドに預ける。


「そういえば、ルーネ達は?」

体を起こして、ベッドから立ち上がる。


皆がいつも集まっている部屋に移動すると、マイアが食事の準備をしていた。


「おはよう、マイアさん」

アルージェが声を掛けると、「おそようのまちがいでしょう」と指摘される。


アルージェは「あはは、ご迷惑おかけしました」と頭を掻いてから、

「ミスティさんとルーネはどこに?」と確認する。


「お嬢様はアルージェ様のためにお薬を、犬こ・・・、ルーネはさっきまで草の束を持ってアルージェ様に擦ったりしていましたが、先ほど出て行きました」


「草の束?なんだろう、体の傷に効く薬草とかかな?」

アルージェは少し考えるが答えは見つかりそうにないので、とりあえず風呂に入ることにする。


マイアさんが湯船に水を溜めてくれようとしていたが、「自分でやるからいいですよ」と断り魔法で湯船に水を溜めて、お湯にする。


湯船に浸かりながら暴食スライムグラトニースライムとの戦いを思い出す。


自身の弱点が浮き彫りになった戦いだった。


そもそも遠距離に対して明らかに無力で、あのままだと空に居た暴食スライムグラトニースライムに一方的にやられていたかもしれない。


魔法を使えばもう少し状況は変わっていたかもしれないが、

正直、アルージェは魔法についてはからっきしでどんな魔法を使えばあの高さまで攻撃ができていたのか想像もできない。


付与魔法だけでももう少し上手く立ち回れたのでは無いかと考え始めるが、

色々と考えるが、なかなかはっきりとしたヴィジョンが思い浮かばない


「もっと、知識をつけないとな」

武器の知識はかなり豊富になったと自負していたが、魔法も使えないと話にならないとはっきりとわかったのはいいことだった。


「それにしても、あの流れ星なんて魔法なんだろ。すごかったな」

暴食スライムグラトニースライムを一方的に倒した魔法。

空にはアルージェが見たこともないような大きな魔法陣が出来ていた。


「魔法ってあんなことも出来るんだね。想像も出来なかったや」

アルージェが湯船に浸かってのんびりしていると部屋の方が騒がしくなる。


「マ、マ、マイア!アルージェ居ないぞ!どうなってるんだ!」

ミスティの声が風呂場にまで聞こえてくる。


「アルージェ様なら風呂場に・・・」

マイアがミスティにアルージェの場所を教えるとドタドタと足音が近づいてくる。


そしてバァンと勢いよく扉が開き、「アルージェ!」とミスティが風呂場に入ってくる。


「よかった!ようやく起きたんだな!本当に心配したぞ!」

ミスティは湯船にいるアルージェに着衣したまま飛びつき、抱きつく。


「ミスティさん、その節はご迷惑をおかけしました」

アルージェは平然と対応しているが、裸の状態でミスティに抱きつかれていることにドギマギしている。


「迷惑なもんか!アルージェはこの学校のヒーローだぞ?みんな言ってる!」

ミスティはアルージェの肩を持ちまじまじとアルージェの顔を見つめる。


「私はそんな君を誇らしく思っているよ。あと、何事も無く生きててくれてありがとう」

ミスティはアルージェをギュッと抱きしめる。


「あははは、ミスティさん達が居てくれたから僕も頑張れました。こちらこそありがとうございます」

ミスティに笑顔で話しているが、アルージェは全裸。

真っ裸である。


「うんうん、本当によかった!」

ミスティは頷くが全く出ていく気配がない。


「あ、あの!ミスティさん!で、出来ればなんですけど」

アルージェが少し恥ずかしそうにモジモジする。


「ん?どうした?アルージェの頼みならなんでも叶えてやるぞ!なんたって私はアルージェの側付きだからな!」

ミスティは胸を張り誇らしげに話す。


「なら、すいません。まだ入浴中なので一旦出てもらえると助かります!」

アルージェがそういうとミスティは今の状況をようやく理解したようで、

「ば、ばかもの!なんで風呂場だと言わないんだ!」と顔を赤くして風呂場からそそくさと退場する。


「マイアさん風呂場って言ってたけどなぁ・・・」

アルージェは減った風呂場の水をまた溜めながら呟く。



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