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第百四話

マイアさんが用意してくれた食事は美味だった。


朝から何やら巻き込まれてしまったが、気を取り直して暴食スライムグラトニースライムとの戦いで感じた自身の弱点などについて考える。


「武器で戦うことにばかり考えないで、選択肢を広げよう」

武器だとどうしても射程が限られるので、オールラウンドに戦うのは無理だ。


「もっと魔法についても勉強して、知識を増やそう」

今回は魔法を使用する許可が出てなかったので使えなかったが、

きっと近いうちにコルクス教授から使用許可が出るはずだ。

それに備えて現存する魔法を知っておくのは間違いなくプラスになる。


「あと思ったのは、意外と簡易付与テンポラリーの使い勝手が良かった」

腰を据えてしっかりと付与するなら、今主流の刻印やら、魔力を馴染ませる魔法で付与する方法が間違いなくいい。

刻印したものなら少しの魔力で何度でも同じことができるし、馴染ませたものは常に付与魔法が発動しているからだ。


しかも、付与魔法師なら誰もが通る道なので、技術が安定していて、体系も整えられている。


だけど、それはあくまで事前準備の段階で行うことであり、戦闘中そんなゆっくりと付与魔法をさせてくれる人なんていない。


たまたま読んでいた“簡易付与魔法”の本に助けられた。

教授からの説明にもあった『物の性質を一時的に変化させて効果を付与する』付与魔法だ。

そんなことをしてなんの意味があるのかと最初は疑問だったが、


実際に武器を持って戦う僕とは相性がいいように感じる。


「もっと簡易付与テンポラリーを上手く扱えるように訓練しとこう!」

これはきっと僕の力になる。

それと変わり種の付与魔法をもう少し学んでみるのも面白いかもしれないので、今日は図書館に行こうかと考える。


「ルーネ、今日は図書館行くけど一緒にいく?」


「ワウッ!」

ルーネからの賛同も得られたので、図書館で決定だ。


「私は授業があるから、一緒には行けないがしっかりと勉学に励んでくるといい」

ミスティからも図書館に行くことをおすすめされた。


「建物とか暴食スライムグラトニースライムの被害があったのに、授業はあるんですねぇ」

青空教室でも授業出来るんだなぁと思っていたが、ミスティはキョトンとする。

「被害?あぁアルージェは寝込んでいたから知らないか」

アルージェが寝込んでいたことを思い出し、ミスティは納得する。


「えっ?どういうことですか?」


「あぁ、建物への被害は翌日には綺麗さっぱり直っていたよ。コルクスという教授が何かしたと学園長が言っていたが」


「コルクス教授が!?」


「む?コルクス教授を知っているのか?」


「あぁ、言ってなかったでしたっけ?コルクス教授はこの間まで僕に教鞭を取ってくれていた方ですよ」


「なるほど、そうだったのか。すごい人に教えてもらっているんだな」


「あはは、確かにすごいですけど、かなり変な人です」


「ま、まぁ天才は自分独自のルールがあったりして、変人であることが多いらしいからな」


「お嬢様、そろそろ向かいませんと授業に遅れてしまいます」

マイアがミスティを急かす。


「ほんとか!アルージェ私たちは先に行くとするよ!」

ミスティは慌てて授業に向かう。


「はい、いってらっしゃい!」

アルージェは手を振りミスティを見送る。


「なんだか、今日のミスティさんはいつもと違って騒がしかったね」

ルーネを撫でながらアルージェは呟く。


「ワゥ?」

ルーネはわからんと首を傾げる。


「ルーネにはわからないか!なら僕達も図書館にいこ!」

ルーネを撫でるのをやめて立ち上がり、玄関に向かうとルーネもすぐ後ろからついてくる。


図書館に向かう途中「あ、アルージェ君!」と声をかけられる。


アルージェが振り向くとエマの姿があった。


「エマの方から声を掛けてくれるなんて珍しいね」

笑顔でエマに答えると「あ、あのね」アルージェはいきなり大きな声を出されたので驚いたが次の句を待つ。


「まも、まも、守って・・・、守ってくれてありがとう!」

明らかに近くにいる時に出す声量では無いが、アルージェは構わずに返事する。

「気にしないで、エマが無事なら良かったよ」


そのまま図書館へ向かおうとしたが、

エマが「ま、待って」とアルージェを引き止める。


「わ、私ね、む、昔にね、りょ、両親を事故で・・・、そ、それで、もう寂しい思いをしたく無いからって、誰とも関わらないようにしてたの。だから、その、し、失礼な態度をとってしまって、本当にごめんなさい」

エマはアルージェに頭を下げる。


「そうだったんだね。辛い思い出話してくれてありがとう。僕もエマのことよく知らないのにズケズケと関わろうとしてごめんね」

アルージェもエマに謝る。


「ち、違うんです!感謝してるんです!そ、そんな私にも普通に接してくれて、暴食スライムグラトニースライムに怯える私を守るように狼さんに言ってくれて、それで、私だけじゃなく、あそこにいた皆を守って、それで今こうして生きてる。すごく、か、か、か、かっこよかった」

エマは照れながらもしっかりと彼女なりに伝えてくれて嬉しかった。


「あはは、ありがとう。そんなふうに言ってもらえて嬉しいよ」

アルージェは少し恥ずかしくなり頬を掻く。


「わ、私ね、あ、アルージェ君と友達になりたいです。もっとアルージェ君を知りたいです!」


面と向かって友達になりたいなんて言われたことなかったので、どうしたいいのかわからなかったけど、「なら、まずは一緒に図書館で勉強しようか」と提案する。


エマは破顔し、「はい!」と返事をする。


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