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第百六話

「アルージェ様、お話し中申し訳ありませんが少しよろしいでしょうか」

見かねたマイアが助け舟を出す。


「ん?どうしたんですか?」

ミスティとの話をやめて、マイアのほうを向く。


「最近どうやらアルージェ様は女学生と二人きりで勉学に励んでいるようですね?」


「あぁエマのことですか?確かに二人きりと言われたそうですが、ルーネも一緒ですよ」


「なるほど。ですが婚約前の男女が仲睦まじい姿を周囲に見せてしまってはどう思われるでしょう」


アルージェもマイアのいう通りだなと納得する。

「あぁ、確かにそうですね。そこまで考えてなかったです」


「流石アルージェ様、理解が早くて助かります。さてここから本題となります。そのエマという女学生が暴食スライムグラトニースライムを単騎で倒した英雄に対して、悪意を持って近寄ってきている可能性も無いとは言い切れません」


「あはは、マイアさんそれは考えすぎですよ」

アルージェは軽く受け流す。


「そうですね。考えすぎかもしれませんが、我々はそのエマという学生の人となりを全く知りません。ここは一つアルージェ様の側付きである我々にエマという女学生を紹介いただけないでしょうか」


マイアさんの言いたいことはよくわかる。

てかマイアさんも僕の側付きなんだろうか。

まぁ、その疑問は置いておこう。


「わかりました。明日の夕食一緒に食べないか誘ってみますね」


「アルージェ様、ありがとうございます。生意気なことを言ってしまって申し訳ございません。ですが、お嬢様はアルージェ様の事が気になって仕方ないのです。なにとぞ寛大な処置を。」


「あはは、マイアさんにそんなにかしこまられたら困りますよ。僕のためのことを思ってくれてだと分かってますから、気にしないでください!」


翌朝、図書館に向かう途中でエマと合流する。


「エマ、今日の夜暇?もし空いてるならご飯一緒に食べない?」

アルージェが尋ねると、エマの顔が緩み、「いつでも空いてます!」と返事をくれる。


「ほんと!ありがとう!寮で同室の人がいるんだけど少しエマと話したいらしくて連れてきてって、言われたんだよね」


アルージェの言葉にエマは俯く。

アルージェ以外の人と話せるか不安だったが、エマは覚悟を決める。


「わかりました」


「うん、ありがとね!ルーネ、ミスティさんたちの場所分かる?事前に知らせたほうがいいかなと思うから、伝えに行ってほしいんだけど」


「バウッ!」


「ありがと、ちょっと待ってね。紙に書くから」

ささっと紙に書いて、アイテムボックスから取り出したポーチを邪魔にならないように首にぶら下げてその中に紙を入れる。


「これミスティさんに渡してきて。んで戻ってきたら僕にいつもの念話飛ばしてきてよ。すぐに入口に迎えに来るからさ」


「ワウッ」

ルーネは頷き、走り始める。


「さぁ今日も勉強勉強!」

図書館に入り付与魔法の本を漁る。


そしてあっという間に図書館の閉館時間となり、エマと一緒にアルージェの寮へ向かう。


「僕の寮はここだよ」

エマに紹介してから部屋の中に入る。


中に入るとミスティさんが優雅に紅茶を飲みながらアルージェの帰宅を待っていた。


「戻りましたー」

アルージェが声をかけるとミスティがこちらに気付き紅茶を置く。


「すいません、お待たせしました。えと、こちらがいつも一緒に勉強してるエマです」

アルージェがミスティにエマのことを紹介する。


「エマ、こちらが同室のミスティさんだよ」

エマにミスティさんのことも紹介する。


エマはアルージェが寮で一緒に暮らしている人が女性だと思わなかった。


とりあえず、お互いに挨拶を交わし食事の席につく。


食事中いつも話しかけてくれるミスティは何故か今日は静かに食事をしている。

エマも何を話せばいいのか分からないようで無言だ。


先に沈黙を破ったのはエマだった。

「み、ミスティさんは貴族様か何かでしょうか?」


「貴族、そうだな父は辺境伯だが色々とあって、今はアルージェの側付きをしている」

ミスティはエマの方を見て話す。


「そういうエマは?」

ミスティがついでにエマに確認する。


「わ、わた、私はただの平民です。りょ、両親は研究者でしたが、その、じ、事故で他界してしまいました」

エマが答えた後、また沈黙が生まれる。


「僕はアルージェ、二ツール村出身です!」

アルージェは気まずくなって自己紹介をする小ボケをかますが空気は一向によくならない。

ルーネとマイアから冷たい視線が送られて、「あははは」と乾いた笑いが出る。


食事も終わり、いつもなら紅茶などを飲んでいつもならゆっくり過ごす時間だ。


「アルージェ、すまないが少し席を外してもらえないか」

ミスティがアルージェにお願いする。


「別に構わないですけど」

アルージェは立ち上がり外に出ようとするが、思い出したかのように振り返る。


「一人じゃさみしいから一緒についてきてほしいんだけど」

ルーネにお願いすると、ルーネはやれやれと立ち上がり、アルージェについていく。


「すまん、アルージェ、世話を掛けるな」

ミスティはアルージェに謝罪する。


「気にしないでください!んじゃルーネ行こうか!」

「ワウッ」

ルーネと外に出ていく。


部屋にはエマとミスティ、マイアの三人だけとなる。






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