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第百七話

「エマ、残ってもらって悪いな」

今までほぼ話しかけなかったミスティから話を切り出す。


「い、いえ」

エマはおどおどと話す。


「アルージェのことで少し話をしたい。私はアルージェに命を助けてもらっただけでなく、立場も守ってもらって、誇張抜きに地獄の底から私を救い出してくれた。だから私はアルージェに何があっても味方でいるつもりだ」

ミスティは持っていた紅茶を机に置いてエマをジッと睨みつける。


「エマがアルージェにどういう気持ちを抱いているのかはわからないが、もしも危害を加えるというのなら、私は持てる全てを使って、君を潰すことになるだろう。これは脅しではない本気だ」

ミスティがエマに圧力をかける。



エマはミスティの圧力に一瞬怯んだが、

「ミスティさんにどういう過去があるのかはわからないです。私もアルージェ君に救われました。他人には興味ありませんみたいな雰囲気出してるのに、他人の為に本気になれる。そんなアルージェ君だから仲良くしたいって思ったんです。だから危害を加える気はありません」

先ほどまでのオドオドした雰囲気はなく、ミスティの圧力にも屈しない強い気持ちを感じた


「ふふふ、そうか。なら私たちは仲良く出来そうだ。先に言っておくが私はアルージェに惚れている。簡単に渡すつもりはないぞ」

ミスティは圧力をかけるのをやめて柔らかな雰囲気に変わる。


「わ、わたしだって負けません」

エマはミスティに向かって意志を伝える。


「マイア、紅茶を頼めるか」

ミスティは紅茶を飲み干し、マイアにもう一杯頼む。


「はい、もちろんです」


「マイア、エマにも紅茶を。エマ、紅茶の好き嫌いはあるか?」


「甘い物は苦手なので抜いてもらえると助かります」


「なに、甘いものダメなのか珍しいな」


意気投合した二人は自分達の過去のこと、これまでどういう風に過ごしてきたか、それとアルージェの良いところを話始めていた。


その頃アルージェは行き場が無くどうしたものかと途方に暮れていたが「そうだ!久しぶりにコルクス教授に会いに行こう」と思いつき、向かっている最中だった。

「ウェックシュン」と突然くしゃみをする。


「ワウ?」

ルーネが心配して声を掛けてくれる。


「あぁ、大丈夫だよ。鼻がムズムズしただけだけだから。ん?あれ?そういえばこの世界に来て風邪引いたことないかも」

アルージェはどうでも良いことを考えながら、扉をノックする。


「誰かと思ったら、なんでお前がここにいる。教えることはもう無いと言ったはずだが?」

コルクスは部屋に来たアルージェをシッシッと追い払い部屋の中に戻ろうとする。


「お願いします、教授!鐘が鳴ったら帰るのでほんとお願いします!お願いします!」

アルージェは全力でコルクスにお願いする。


舌打ちをするが、なんやかんやで部屋に入れてくれる。

「絶対に俺の邪魔をするな」


そういって、コルクスは研究机に戻る。


「ありがとうございます!」

アルージェは感謝を述べて邪魔にならないよう、勉強を教えてもらっていた机に座る。


「せっかくだし何か出来ることないかなぁ」

アルージェは何か暇つぶしがないかとアイテムボックスをガサゴソと探る。


「そういえば」

アルージェはミスティを助けた時に取った表紙が真っ白な本を取り出す。


本を取り出すと、また以前のように小刻みに震え出す。


「えっ?」

取り出すまでは震えていなかったが、急に震え始めたので驚き声が出る。


研究机の近くの壁に立てかけていたコルクスの杖が倒れる。

倒れた杖を見ると、杖も震えている。


コルクスは倒れた杖を見る。

「教授」とアルージェが声をかける。


コルクスがアルージェの方を見ると、アルージェが白い本を手に持っていることが分かる。


「杖と共鳴しているみたいなんですが・・・」

アルージェが話しかけるとコルクスは舌打ちをする。


「はぁ、色の書か」

コルクスが立ち上がり倒れた杖を取ってから、アルージェに近づく。


「単刀直入に聞くがお前、読み手ライブラリアンか?」

コルクスからその言葉が出るとは思わず、アルージェは驚く。


「えっ?ち、違います!」


「そうか、どおりであんな雑魚にも手間取るわけだ」

コルクスはアルージェが暴食スライムグラトニースライムすらも倒せないことに納得した。


「あんな雑魚?それはどういう・・・」


「お前、色の書に選ばれたんだろ?さっさとそれを読め」

アルージェの言葉に被せてコルクスが話す。


「読みたいんですけどね、読めないんですよね。開いても全然反応ないんですよ、ほらね」

アルージェが本を開いて見せるが、何の反応も無い。


「なるほど。本当みたいだな、少し見せてみろ」

アルージェは言われるがまま、コルクスに本を渡す。


コルクスは中を開き、色々と魔法を使ったりして反応を見ているがなんの反応もない。


突然本を上に放り投げて、魔法陣を展開し、魔法をぶちあてる。


「教授!?」

アルージェは驚きつい声をあげるが、本は汚れや傷ひとつもない状態で床に落ちる。


「色の書に間違いはなさそうだが」

といって本を拾い上げて、アルージェに返す。


「びっくりしたぁ」

アルージェは安堵して、本をアイテムボックスに片付ける。


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