「うわぁ!思ってたより長居しちゃった!早く戻らないと」
ルーネに跨り、寮へ急ぐ。
「戻りましたー!」
アルージェが寮の扉から入ると、出る前の時とは打って変わって和気藹々とした雰囲気で、エマとミスティが話していた。
「えっ、なんか出ていった時と雰囲気全然違うくない・・・?」
エマとミスティは「そんなことない」と否定するが、それも息がピッタリでなんだか疎外感を覚えた。
「ま、まぁ仲良くなってもらえてよかったです。あっ、そうだ教授から攻撃魔法の授業に出ていいと言われたので、明日からミスティさんと一緒に授業出れますよ」
「おぉ!ほんとか!ようやくアルージェと一緒に授業に出れるんだな!」
ミスティは一緒に授業を出るのが待ち遠しかったようで、すごく喜んでいた。
「はい。図書館で付与魔法の勉強はしばらく休憩して、授業に出て見聞を広めようかと思います」
「な、なら、わ、私も授業に出ます!」
エマも突然授業に出ると宣言する。
「そういえば、エマって何学年なの?いつも図書館にいるけど出席とか大丈夫なの?」
「あ、あれ?言ってませんでしたっけ?私は1学年ですが特待生なので授業は免除されてるんですよ。学期末にレポートを出せば問題ないので」
「えっ?エマってかなり優秀だったんだね・・・・」
「ゆ、優秀かどうかはわからないですけど、この学校の授業で教えられることはすべて網羅できてると思います」
「あぁ、本物の天才なんだね・・・」
アルージェは遠い目をして、何もない場所を見つめる。
夜も深くなりのでエマはミスティに提案されて、今日はミスティの部屋に泊まっていくらしい。
何時間か前まで殺伐としていた雰囲気だったのに、いきなり距離感が縮まりすぎている気がする。
そして翌日、朝早めに起きて攻撃魔法の授業に出る準備をする。
「アルージェ!紙は持ったか?ペンは?触媒は?」
ミスティは心配性のお母さんのようにアルージェに何度も確認する。
「大丈夫ですよ!」
もう三回も聞かれているのでさすがに忘れ物はないはずだ。
ちなみにミスティがいう触媒とは杖のことである。
「よし!アルージェ!エマ!授業に向かおうか」
ミスティは先陣を切り、上機嫌に歩を進める。
その後ろをみんなでついていく。
「今日のミスティさん、なんだかすごく元気ですね」
アルージェはマイアにこそっと話しかける。
「えぇ、そうですね。昨晩もエマ様に何度もアルージェ様と授業に行けるぞと話しておられました。おそらく本当に嬉しいのだと思います」
マイアもこそっとアルージェに答える。
「あの後も話してたんですね。僕はすぐ寝ちゃったので知らなかったです」
攻撃魔法の授業をしている教室の扉をガラガラを開けて中に入る。
「席は自由だから隣同士で座ろうか」
ミスティは3人が座れる場所を見つけてそこに向かう。
「マイア、ここまで見送りありがとう。今から昼まで授業だから、それまで自由にしててくれ」
ミスティはマイアにもう離れても良いと指示を出す。
「かしこまりました。また授業終了間際にこちらに戻ってきます」
と言い残しそそくさとマイアは教室から立ち去る。
「授業の時はいつも別行動なんですか?」
アルージェがミスティに尋ねる。
「あぁ、そうだな。マイアも自分のやりたいことを見つけてからはこんな感じだ」
「そうなんですね。マイアさんのやりたいことって何だろう」
「ん?聞いていないのか?どうやら
「ぬいぐるみで起業・・・、なかなか面白そうですね」
アルージェも何か手伝えることがないか思考しようした時、声をかけられる。
「君は
声がする方に顔を向けると、いかにもいいところのお坊ちゃんという風貌の男子生徒がいた。
「あぁ、どうも」
アルージェは何を答えていいかわからず、とりあえず返事をする。
「僕は一年生ながら
なんでこの学校の貴族は何かを話す時、芝居ぽくなるんだろうかとアルージェは疑問に思う。
「すいません、せっかく誘ってもらったのですが今は派閥に所属する気はないです」
「そうだよね、やはり所属す・・・」
この男子生徒はまさか断られるとは思っていなかったようだ。
「何故だ!本来なら貴族ではない君が入ることはできないんだぞ?こんな名誉ある派閥に何故入らない!?君のような平民が貴族との繋がりを持つ最高の好機じゃないか!」
男子学生が五月雨にアルージェに問い詰める。
「すいません、あまり興味ないです」
アルージェが断ると、「何故だ!」「何故なんだ!」「理解できない!」と喚き散らす。
そこで教室のガラガラと扉が開く。
「あんたうるさいから減点ね」
声のする方へ視線を向けると、ニツール村でアルージェを助けてくれた、紫色髪で紫の目をした魔法使いの姿がそこにあった。