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第百十話

「席について。とっとと授業始めるわよ」

カレンは黒板の前に立ち、生徒と一通り見渡し皆の魔力周波数を識別する。


「今日からの子もいるのね、なんでこんな変な時期に、君名前は?」

カレンがアルージェ見て、「ん?」と声を出す。


「アルージェ!?君、ニツール村にいたアルージェでしょ!?」

カレンはアルージェに近寄ってくる。


「絶対そうだ。懐かしー、大きくなったね。私のこと覚えてる?」



「もちろんです!カレン教授!」

アルージェもまさか覚えてもらえていると思っておらず、嬉しさで元気に返事する。


「その様子だと、あの時の記憶とは決別できたのかな?それで、ラーニャとアインにはもう会った?」


「いやー、それが王都に来て、すぐに冒険者ギルドに顔を出したんですけど、今はいないと言われて。それからは魔法学校でずっと勉強してたので会えてないんです」


学生たちはカレンが、こうやって学生と話している光景を見たことがなかったので、皆アルージェにくぎ付けになっている。


「ちょっと、待ってくれアルージェ。まさかカレン教授と知り合いなのか?」

ミスティがアルージェとカレンの話に割って入る。


「あれ?言ってませんでしたっけ?カレン教授は僕の命の恩人ですよ。小さい時、ニツールで狼に襲われて死にそうになってるところを助けてもらいました。それに魔法学校への入学を進めてくれたのもカレン教授です」


「まぁ、助けたのは私っていうよりアインだけどね。それにしても私たちがいなかった時期って結構前ね、それまで何してたの?」


「コルクス教授に魔法を教えてもらってました!」


「えっ?あいつ人に魔法教えれるの?プププ、めっちゃ面白いんですけど」

カレンはアルージェの予想外の言葉に驚き、そして笑い始める。


「いやー、違うの。アルージェの言葉で笑ったんじゃなくて、あいつに弟子入り志願した人みんなすぐに逃げ出してきて、二度とコルクス教授とは会いたくないっていうのに、君よく耐えられるわね」

笑いすぎて出てきた涙を払いながらカレンが話す。


「厳しいですけど、しっかりと助言くれます!」

アルージェがそういうとカレンがさらに笑い出す。


「あの唐変木が助言だなんて想像できないわ、プププ」

カレンは笑わないように我慢するが、それでも笑いがこみあげてくる様子だ。


「はぁ、笑った笑った。そろそろ授業しないとね。アルージェはラーニャとアインに会いなさい。二人とも会いたがってたわよ。どこにいるかわからないなら、日付教えてくれたら私から話しとくから」

そういって黒板の前まで戻っていき授業が始まる。


カレンさんが教鞭を取る、旧体系の魔法を実際に見てみると旧魔法体系のすごさがわかる。


魔力さえあれば誰でも使用できる詠唱を考えた人は、素直にすごいと感じた。


だが、詠唱を唱えないければならない旧体系の発動の遅さに驚いた。


コルクス教授は新魔法体系で魔法を発動し、一瞬で何百という魔法陣を展開していたことを思い出す。

もしもあれを旧魔法体系で実現するなら、おそらく言葉をできるだけ強くしていく必要があるのだろう。


何も言わずとも自身の想像力と魔力だけであの光景を作れる新体系は本当にすごい。

この旧魔法体系の授業では魔法の種類を知るだけにしようと決める。


学生がみな詠唱をして、得意な属性のスピア系魔法を発動し、的に当てる。


「さて、ならアルージェも魔法使ってみて。コルクスがどんなこと教えてたのか気になるし」


「わかりました」

昨日コルクスからの許可もでたので早速新魔法体系で魔法を発動する。

詠唱はせず、魔力を操作して思い通りの形を作る。


そしてアルージェの周りには炎、氷、岩でできたスピア系魔法が並ぶ。

そのまま的に寸分の狂いなくすべてを命中させる。

この間わずか三秒ほどである。


「三秒くらいか、最近付与魔法ばっかりやってたからちょっと遅くなってる。コルクス教授に知れたら1000本ランスさせられるよ・・・」

アルージェはコルクスの顔を思い浮かべてブルブルと震える。


「あいつ何考えてんのよ、ふざけてる!」

カレンはコルクスに対して明らかに怒りを露にして体を震えさせていた。


「カレン教授!もう少し的当てしてもいいですか?」

アルージェは手を挙げてカレンに確認する。


「別にいいわよ、できるならね」

カレンは少しきつい口調になる。

まだコルクスへの怒りを収められていなかった。


魔力を直接操って、魔法を発動する。

それ自体はまぐれでできることもある。

詠唱をしたときに動く魔力と同じように魔力を動かせば発動するのだ。


それゆえに魔法使いの間では、もうどうしようもすることが出来ないときに、博打として使うものだという認識がある。

何度も連続で出すことはほぼ不可能なはずなのだが、アルージェは何度も何度も的に向かって、魔力を操作して魔法を放つ。


「あいつ、一体何を教えてるのよ・・・」

カレンはアルージェの魔法発動が失敗しないことを見て、次は呆れる。


「カレン教授、先ほどからアルージェ君は無詠唱で魔法を放っているように見えますが、我々にもできるのでしょうか」

アルージェの魔法を見た学生がカレンに尋ねる。


「はぁ、君たちはやめときなさい。今まで積み重ねたものを全部捨てる覚悟があるなら、やり方教えるけどね」

カレンはため息をついて学生にいうと、誰もやりたいとは言い出さなくなった。


アルージェは何度も何度もランス系魔法を出し、的に当ててを繰り返している。

今のところ一度も魔法行使を失敗した様子はない。


「はぁ、あの唐変木。もしアルージェが魔法使えなくなってたらどうするつもりよ。あそこまで魔力総量が多い子見たことなかったんだからね」

カレンは頭を抱えながら、ため息を付き呟く。


だがカレンは少し考えてから

「魔力総量があそこまであって無詠唱で休みなく魔法を行使するおかしいやつ、戦いたくないわ・・・。まさかこれを見越して!?そんなわけないか。どうせ研究対象とか言ってニヤニヤしながら面白半分でしたんでしょうね」

コルクスがそこまで考えているとは思わなかったので、気持ちを切り替えて授業に戻る。

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