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第百十七話

アルージェは貴族の後ろを大人しくついていく。

ルーネはいつでもやれるとこちらに念を飛ばしてくれるが、

「大丈夫、今は何もしないでいいよ」と念を飛ばし、ルーネはそれに従う。


「この犬よくみたら綺麗な毛皮じゃね?剥いでコートにしません?そこそこ体もデカいですし!」

取り巻きの一人が言うと周りもゲラゲラと笑いながら同意する。


「そりゃいい」

食堂で絡んできた偉そうな貴族もそれに同意する。


そして、ようやく建物の裏につく。


「その犬をよこせ、それでさっきの言葉を許してやる」

貴族は不遜な態度で言う。


「犬じゃなくて狼ですよ。あとちゃんとルーネっていう名前も有ります」

アルージェが反論すると、貴族はその態度に苛立ち詠唱を始める。


「大いなる日輪」


詠唱の入りが非常に強い言葉なのでかなりの威力だろう、カレン教授の授業で習ったことがこんなところで役に立つとは思わな買った。

恐らくはカカシ人形相手に放ったあの魔法を行使するつもりだろう。



取り巻きは大丈夫なのかと思いながら、魔法を受け止めることができないかを考える。


「数多を燃やし、灰燼と化せ」



「守りといえば」

アルージェはエマの障壁を思い出す。

両親が自身が持っている魔力だけでなく命までを捧げて発動したあの魔法。


何度か障壁をみさせてもらったが、恐らく僕の魔力があれば命を捧げずとも発動できるだろう。


「死火、無窮、不死鳥をも喰らう火輪の焔」


実際に発動できるか試したことのない魔法だが、付与魔法の勉強の為とエマのペンダントを見て魔力の動きやら構造は理解している。


また発動した際の魔力の動きも知っているので、おそらく問題なく行使できるだろう。

いや、行使できなければ死ぬ。


アルージェは魔法陣を両手に展開する。

そしてエマの障壁魔法をイメージしながら魔力を紡ぎ、急いで魔法を構築し始める。


「顕れよ」

貴族の詠唱が終わり魔法が行使される。


悉くを燃やす焔インフィニット・プロミネンス


魔法が放たれた途端、辺り一体に焔の嵐が吹き荒れる。

そして地面、建物、窓ガラス、何もかもを燃やし溶かす。


耐えきれなくなった建物が崩落し、砂煙が舞い上がる。


「謝れば死なずに死んだものを」

貴族がニヤニヤと笑いながら砂煙がなくなるのを待っている。

どうやら、取り巻きには守りの効果が付与されていた指輪を渡していたようで、取り巻きも無傷でニヤニヤと笑って砂埃がなくなるのも見つめていた。


煙が晴れて段々と視界が良くなる。


「さて死に顔でも見てやるか、おっと体溶けてなくなってるかもしれないな」

貴族がそういうと取り巻きがゲラゲラと笑う。


煙が晴れて行くにつれて、ハニカム構造の障壁が表れる。


「馬鹿みたいに長い詠唱で助かったよ。新魔法体系だから何とかなったけど、あんなの普通なら死んでもおかしくないよ」


ハニカム構造の障壁を解くと、アルージェとルーネは無傷で立っていた。


「相手を殺す気で魔法を打ったんだ。もちろん君も死ぬ覚悟が出来てるんだよね?」

アルージェは貴族を睨みつけて、アイテムボックスから剣を二本取り出す。


取り巻きの一人が思い出したかのように叫ぶ。

「お、思い出しました。こ、こいつ暴食スライムを単騎で倒したアル・・・」


突然声が聞こえなくなり貴族は取り巻きを見ると全員血を流し地に伏せていた。


「あ・・・あぁ・・・・」

そしてアルージェが両手に持っている血が滴る剣を見て、貴族が尻餅を突き後ろに這うように移動する。


立ち上がり走って逃げようとしたがルーネが行く手を邪魔する。


「そういえば、ルーネも殺して毛皮をコートにしようとか言ってたなぁ」

アルージェがジリジリと貴族に近付く。


「あ、あれは取り巻きが勝手に言っただけだ!ぼ、ぼ、ぼ僕は何も言っていない!そ、それに僕を殺したら、きっとパパが黙ってないぞ!パパは貴族だ!お前みたいな平民、一瞬で終わらせることが出来るんだからな!ハハハハハハハ」

貴族は命乞いのつもりか、何かを喚いている。


アルージェは両手に持っていた剣の血を払いアイテムボックスにしまう。

そしてアイテムボックスから暴食スライムグラトニースライムを倒した時に使った一番大きな剣を取り出す。

身体強化魔法を全身に施す。


「さて、なら殺すか」

大剣を振りかぶり、思いっきり叩きつける。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

貴族のズボンにはシミが出来て、気を失った。


貴族が開いていた足の間に大剣が叩きつけられる。

「なーんてね」


アイテムボックスに大剣をしまう。


「殺すわけないじゃん。漏らすなんて情けないなぁ・・・」

アルージェが辺りを見渡す。


剣で切り付けたり剣を突き立てたりしたが急所を外している。

演出の為に少し血が必要だった血を分けてもらっただけだ。


だが痛みからかみんな気絶していた。


「貴族って平民を守るためにいるんじゃないの?こんなに弱いのはこの国の未来が思いやられるよ」


大きな魔力の流れ、そして建物の崩壊、ここまで騒ぎを起こしたら当たり前だが恐らく教授と思われる人が学生に連れてこられて、こちらに向かってきているのが見えた。


「やばい、逃げないと」

アルージェが慌てていると「こっちだ!」と言って手を振る男子学生がいた。


何処かで見た覚えがあった。


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