王都に出かけてからはミスティとエマを心配させないように、部屋に篭りすぎないようにしている。
なるべく午前中はカレン教授の授業に出て、午後から図書館に行く。
もしくは鍛冶をしたり、付与魔法を練習したりと午後はやりたいこと重視で時間を使う。
おかげさまで今まで知らなかった攻撃魔法を実際に見ることが出来て、魔法の形をイメージしやすくなった。
一度見てしまえば魔力がどのように流れているのかを見ることができるので、新魔法体系で同じ魔法を発動するのは容易い。
後は反復練習で同じように魔力を流し、発動させて発動時間を早めるだけである。
付与魔法についてはいまいち進展は無い。
そもそも事前に付与を施すよりもどちらかというと
こちらは日に日にうまくなっていっている自覚がある。
付与魔法関連で言えば魔道具製作はかなり順調である。
最近は転生する前に使っていた家電を意識して作成していて「エアコン」「ウォシュレット」「冷蔵庫」やらもともと日本では当たり前にあったものを再現している。
だけどこんなもの世に出していいのかなと思い、基本的には私的に利用するだけにしていてミスティにもそのように話している。
だが辺境伯様への報告は包み隠さずしているので、辺境伯様分は製作して送っている。
恐らく辺境伯邸はだいぶ近代化が進んでいると思う。
簡単にいえばシャドーボクシングの様なものだ。
戦闘を想定しての訓練で、どんな時でもタイムラグ無く
ただ問題が一つ有って、実際に戦う相手がいないのでずっと素振りをするしかない。
僕がイメージしている仮想敵は幼い頃にずっと打ち合いをしていたシェリーの影で仮想相手としてでも一度も勝てたことは無い。
このイメージトレーニングをするたびにシェリーを探したくなるけど、この程度じゃきっと見つける前に魔獣に殺されてしまうだろうとなんとか思い留まっている。
「もっと自分を高めないといけないな」
素振りを終わり、汗を拭いながら呟く。
「そういえばこの学校には決闘部みたいなのないのかな?」
アルージェはふと考えた。
剣術をしていれば誰がこの中で一番強いかって話は絶対に挙がる。
魔法も同じで誰が一番魔法をうまく扱えると言う話は挙がるはずだ。
つまりこの学校内にも何処かにも実戦に重きを置いてる研究部だってあるはずだ。
「探してみよう!」
だがただでさえ広い学内、ただ歩き回るだけでも骨が折れる。
ある程度当たりをつけて回るべきだろう。
「よし、こう言う時はまず広くて魔法が打ち放題なところグラウンドから探してみよう!」
アルージェがグラウンドに向かおうとすると、後ろにいたルーネに襟を咥えられる。
「あれ?グラウンドってこっちじゃなかった?」
アルージェがルーネに尋ねると、ルーネはやれやれと首を振る。
そして背中に乗るように促す。
「ありがと!」
アルージェはルーネの言葉に甘えて背中に乗ってグラウンドに向かう。
グラウンドに到着すると、案の定的を狙って魔法を放ったり、カカシのような人形の的に魔法を放ってどれだけ威力があるかを計測していた。
せっかくなのでカカシ人形相手に魔法を行使しようとしている貴族がいたので見てみる。
「あ、あれは食堂で絡んで来た、貴族じゃん」
貴族はカカシ人形相手にツラツラとやたらと長いを詠唱をしていた。
そしてようやく詠唱が終わり、魔法を行使する。
魔法自体はかなり派手で威力の高い魔法だった。
貴族は表示された数値を取り巻きに自慢するように見せつけていた。
だがそれをみたアルージェは違和感を覚えた。
「確かに威力は高いけどあんなにつらつらと詠唱してる間に僕なら接近して斬るかな。それとも拠点防衛を意識してやってるのかな?まぁ、それならあれだけ長くても問題はないだろうけど、あそこまで無差別に攻撃する魔法だと味方巻き込んじゃいそうだし、所詮は遊びって感じだね」
違和感の正体が分かったのでアルージェはその場を離れようとするが、それを聞いていた貴族に引き止められる。
「お前、誰に対しても物を言っている?」
貴族は顔を赤くして明らかに怒っていた。
「あぁ、別のことを考えていて、ただの独り言です。失礼しました」
内心では「うわ、めんどくさそうなのに絡まれちゃったよ」と思っていたが、言葉にすると余計にめんどくさそうだったので飲み込んだ。
そしてその場を離れようとするが、その貴族の取り巻きに行く手を塞がれる。
アルージェは「なんだよ、このめんどくさい定番の流れ」と毒を吐く。
取り巻きが数人がかりでアルージェを囲む。
「あの建物の裏で少し話す必要があるみたいだな」
貴族がそういうと取り巻き達に無理やり連れていかれる。
「は、はぁ、僕は用事ないんだけどな」
アルージェは呟くが、囲まれていて抵抗すると余計に時間を使いそうなので、そのまま素直についていく。