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第百三十六話

「確実ではないが、お前がここにいることが聖国の連中に漏れているようだ。だから雲隠れしろ」


「あぁ、そういうことですか。いきなり出てけなんて言うから驚いちゃいました」

アルージェはほっと胸を撫でおろす。


「あのなぁ、安心してる場合じゃねぇ。学園内だから暗殺者がまだ来ていないだけで、いつ来てもおかしくない状況だ。どこか隠れられる場所はねぇのか?」


アルージェはしばらく考える。

「今パッと考えられるのは、村に戻るとかくらいですかね」


「村か・・・。いいじゃねぇか、よそ者がいたらすぐにわかるし暗殺者も送りにくいだろう」


「学校での僕の扱いとかどうなるんでしょう・・・?」


「そんなこと今考えてる場合かよ。まぁ学園長の指示だから、籍はおいたまま課外学習という名目になるんじゃねぇか」

コルクスはため息をつきながら話す。


「とりあえず俺が妨害工作やらで聖国の邪魔をしといてやるから、一週間以内には学園から出ろ。以上だ」


アルージェはいきなり言われて思うことはあったが、暗殺者が来るといわれた以上、他の学生たちを巻き込んでしまう可能性がある。

それにコルクス教授がいつにも無く優しく感じた。

それほどまでに緊迫した状況なのかもしれないと、アルージェは村に戻ることを決める。


アルージェはコルクスとの話を終え、寮に戻る。


部屋に戻ると、ミスティとエマが楽しそうにお茶会をしていた。

マイアが自作の秘密結社らびっといあーのぬいぐるみを持って、報告会をしていたようだ。


アルージェは楽しそうな三人を見て、巻き込むわけにはいかないと覚悟を決める。

「戻りました」


「アルージェ、今日の晩御飯だがエマも一緒にいいか?」


「えぇ、もちろんですよ」


「アルージェ君、いつもお邪魔しちゃってすいません」


「気にしないで。ちょっと考えたいことがあるから部屋に戻るね」


「アルージェ」

ミスティがアルージェを引き留める。


「ん?なんですか?」

アルージェが振り返ると、秘密結社らびっといあーのうさぎを模った大きいぬいぐるみが目の前に現れる。


「それはマイアが作ったぬいぐるみだ。かわいいだろ?アルージェが浮かない顔をしているのが気になるらしい。そのうさぎに話を聞いてもらうといい。それでもまだ話したりなければ、私達がいつでも話を聞くからな」

うさぎのぬいぐるみを横に動かし後ろからひょこっとミスティが顔を出す。

ミスティが持っていたうさぎのぬいぐるみをアルージェに渡す。


ウサギを受け取りミスティを見るとミスティは優しく微笑んでいる。

エマのほうを見ると心配そうにアルージェを見つめる。


「ありがとうございます」

アルージェはうさぎをギュッと抱きしめて、そのまま部屋に入る。

うさぎを抱きながらベッドに寝転がる。


「二人と別れるのは辛いけど、ここで別れないとどんな危険があるか分からない」

うさぎを抱きしめる力が強くなる。


「ルーネ」

丸まって寝転んでいるルーネを呼ぶとアルージェに近づいてくる。


「ルーネはついてきてくれる?一人じゃちょっと不安なんだ」


「バウッ!」

ルーネは元気よく返事をする。


「そっかぁ、ありがとう。ルーネがいたら誰にも負ける気しないね。よし覚悟は決めたぞ。ミスティさんたちに話に行こう」


ベッドから立ち上がり部屋を出る。


ミスティとエマは紅茶を飲み、アルージェが出てくるのを待っていた。


アルージェが部屋から出ると二人ともアルージェに視線が移る。

「すいません。二人とも相談があります。今いいですか?」


「あぁ、いつでもいいぞ」

ミスティはいつものように大人の落ち着きがある雰囲気を醸し出していた。


「は、はい。だ、大丈夫です」

逆にエマは紅茶を持つ手が震えていて、見ているこっちが緊張してしまいそうだ。


「どうやら聖国が、僕の居場所を見つけたらしいです」


「聖国か、昔言っていたな命を狙われると」

ミスティが思い出しながら話す。


「はい、それでこの学園から出ていくことにします。他の学生に迷惑をかけられないので」


「ふむ、ならいつ出るんだ?私も準備をしないとな」


「違うんです。戦争ではなく、きっと僕に向けて暗殺者が送られてきます。だから一緒にいると危ないです」


「ここにいても危ないかもしれないじゃないか。暗殺者が私達のところに来ないとも限らないだろ」


「ぐっ・・・、それはそうですがこっちには来る可能性があるだけで来ない可能性もあります。でも僕といれば絶対に暗殺者が来ますよ」


「そうか、ならアルージェ一人で居るより私達が居るほうが応戦できるな」


「だめですよ・・・」

アルージェは言い返せなくなり、言葉に詰まる。


「私は行くぞ、何を言われてもな。前にも言ったが既に覚悟を決めている」


「せ、聖国に命を狙われてることは知りませんでしたが、私も一緒に行きます。首飾りの付与が無くなった時、父と母に誓いましたから」


一歩も引かない二人にアルージェは言い返すことができない。


「わかりました。ならもう死ぬ時はみんな一緒です」


「そうだな、私はアルージェと共に死ぬ覚悟まで出来ているからな」


「わ、私も出来てます!」

エマはミスティに張り合う。


「わかりました。二人の決意を教えてもらったんで、これからは一心同体です!」


「ちなみに学園を出ると言っていたが、行く当てはあるのか?」


「一度ニツールに戻ろうと思います。両親にも会いたいので」


「ふむ、ニツールか。なら、ついでにうちにもこないか?以前言っていただろ?見てみたいと」


「えっ?いいんですか?今の僕、完全にお荷物ですけど・・・」


「大丈夫だろ。辺境伯邸には戦える者しかいないしな」


「わ、私もせっかくだからミスティさんの家行ってみたいです!」


「僕もミスティさんの家に興味あります。フォルスタに戻れるなんてそうそうないかもですし」


「なら、父に手紙を書いておくとしようかな」

そういうとマイアがそそくさと紙とペンを用意する。


「あ、あと次の休息日なんですけど、カレン教授と一緒に知り合いに会いに行きますので、僕は留守にします」


「な、ならミスティさん、休息日に王都に行きませんか?私も外に出る準備したいので・・・」


「ん?それはいいな。私も少し買いたいものがあったんだ。マイアも休息日は休んでもらっていいぞ。秘密結社らびっといあーとしばらく会えなくなるだろうしな」


「お心遣いありがとうございます」

マイアはミスティに頭を下げる。


「はぁ、なんか全部話したら、お腹すいたな」

アルージェが自分のお腹を摩る。


「そうですね、私もお腹すいてきました」


「なら食堂に行くとするか」

ミスティの号令で、食堂に向かうことにする。


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