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第百六十四話

「なんだかこういうの楽しいですね」

秘密結社らびっといあー達が静かになった後、アルージェがボソッと呟く。



「そうだな。まさか私にこうやって信頼できる友が出来て、婚約者が出来て、普通の人としての幸せを謳歌できるとは思ってなかった」

ミスティもボソッと呟く。


ミスティの言葉にアルージェとエマが黙り込んでしまう。


「むっ、すまない。こんな雰囲気にしたかった訳ではないんだ」

ミスティは天井では無く、アルージェとエマの方に体の向きを変える。


「何言ってるんですか。ミスティさんは僕と初めて会った時からずっと普通の人だったじゃないですか。戦っている時だって、僕が死なないように手加減してくれてましたもんね」


「むっ、どうだろうな。もう覚えていないな、そんな昔のこと」


ミスティの隣にいる、エマがミスティへ視線を移す。

月明かりしか明かりは無いが、ミスティの耳が赤くなっているのが見えた。


エマは何も言わずに微笑む。


「えぇい!私はもう寝るからな!」

ミスティは寝袋に篭る。


「なら僕達も寝ましょうか!良い夢を!」

秘密結社らびっといあー達を少しだけ動かして、自分の寝やすいように整えて目を閉じる。


「はい、良い夢を」

エマも目を閉じる。


翌日、アルージェは村長にゴブリン退治が完了したことを報告しに向かう。


村長宅の扉をノックする。


「はいはい、今出ますよー」

リベルやサイラスでは無い初めて聞く声だ。


「あら、サーシャさんのところアルージェじゃないか」


「あっ、どうも、アイヴィーさん。おはようございます」

アルージェは頭を下げる。


「サイラスに用事かい?」


「いえ、今日はリベルさんに用事なんです」


「あぁ、そうなのかい。中に入ってちょっと待ってておくれ」

アイヴィーがアルージェを家の中に入るよう促す。


「なら、お言葉に甘えて、失礼します」

頭を下げて、家にお邪魔する。


「はぁ、アルージェはこんなにお行儀が良いってのにうちのサイラスと来たら。はぁ、少しは見習ってほしいもんだよ」


「そうですか?この間会った時、みんなから慕われてて村長になる為に頑張ってるんだなぁって思いましたよ?」


「あっはっはっは、アルージェがそう言うなら本当に頑張ってるんだろうね。リベルを呼んでくるから待ってな」


アルージェは椅子に座って待っていると、リベルが現れる。


「すまない、待たせたな。私に用ということだが、何かあったかな?」


「はい、昨日ゴブリンの集落を潰してきました。その報告に参りました」


「昨日?昼頃に家にきていたがそんな早く潰せたのか。確認に向かわせるから数日待ってくれないか?いや、疑っているわけでは無いんだ。何年か前に来た冒険者が終わってないのに終わったと報告されて大変な目にあってね。分かってほしい」


「あぁ、全然大丈夫ですよ。当分村にいる予定なので、確認終わったらまた声かけてください!」


「感謝する」


「それじゃあ、僕は帰りますね」


「あぁ、また確認が終われば家に行かせてもらうよ」


アルージェはリベルに別れを告げて、村長の家を後にする。


「んー、今からどうしようかなー?そういえば、帰ってきてからロイ先生のとこ行ってないじゃん!顔出さないと!」

アルージェはロイの家に向かう。


ロイの家の扉を叩くとソフィアが出る。

「あら、アル君!久しぶりね。アインさん達から帰って来たのは聞いてたけど、元気してた?」


アルージェはソフィアさんがもうシェリーのことを引きずっていないようで安心する。

「はい!もちろんです!」


「そう、良かった。中に入る?」

アルージェの言葉を聞いて、ソフィアは微笑む。


「いいんですか?」


「当たり前じゃない。何を遠慮してるのよ」

ソフィアの言葉に従い家の中に入る、アルージェ。


ロイは座って、食事を取っていた。

休憩時間だったのだろうか。


「おぉ、アル坊来たな!アインさん達から話は聞いてたぜ。まぁ座れよ」


「お邪魔します」

ロイの向かい側に座る。


「それにしても久しぶりだな!どうだ?弓はまだやってるのか?」


「いやー、実は魔法が使えるようになりまして、魔法を学んでからは弓はほとんど使ってないんですよね」

申し訳なさそうにアルージェは言う。


「魔法が使えるならそっちのが断然良いだろうな!矢の在庫も気にする必要ねぇしな!」

ロイがガハガハと笑う。


「にいちゃん!」

声の方を向くとライが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「おぉ!ライ元気してた?」


「当たり前だぜ!」

ライは元気に答える。


「それよりも、にいちゃんさ、マールのやつ最近魔法を教えたって本当かよ!?マールが水を動かして見せてくれてよ、にいちゃんに習ったって言ってたんだけど!」

ライがバタバタと動きながら話す。


「あぁ、確かに教えたよ」


「ズルい!俺も教えてくれよ!魔法俺だって使いてぇよ!」

アルージェはライの魔力を見る。

だが、魔法を使うには心許無い魔力総量だった。


「んー?ライって弓使えるんでしょ?」


「そうだぜ!父ちゃんに教えてもらってんだ!」

ライは自慢げに話す。


「ならさ、僕が付与魔法を施した弓作ってあげるよ!そこまで練習したのにいまから方向転換するのは勿体無いしさ!」


「うーん」

ライが少し考える。


「確かに!兄ちゃんの言う通りだ!にいちゃん、さすが!頭いいぜ!」


なんとか誤魔化せてよかったとアルージェは安堵する。


「なら村にいる間に弓を作るからさ、出来たらすぐに持ってくるよ!」


「おぉ!にいちゃんありがとうな!にいちゃんお手製の武器なんて、シシシッ!マールに自慢してやろっと!」

ライは嬉しそうに家を飛び出してマールに自慢しにいく。


「あはは、ライは元気だなぁ」

アルージェはバタバタと走っていく、ライの背中を見送る。


「アル坊、ありがとうな。ライは魔法使えないんだろ?」

ロイが立ち上がり、アルージェの側に来る。


「使えないことはないです。けど狩りで使ったり、威力の高い魔法を使うとなると少し心許なく感じました。それに将来村の狩人になるなら、魔法より弓の方が便利ですからね」


「シェリーについていくだけだった泣き虫が、いつの間にか大人になりやがってよ」

ロイはアルージェの頭をワシャワシャと撫でる。


「うわっ!ちょっと!」

アルージェは恥ずかしくなり、ロイの手を振り払おうとする。

だが、結局髪をボサボサにされる。


「もぉ!何するんですか!」

アルージェは恥ずかしさを隠すため、プリプリと怒りロイの方を見る。



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