目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第百六十五話

「アル坊、シェリーの事。もう忘れろよ」

ロイは真剣な顔つきでアルージェの目を見つめる。


「今を生きろ。聞いた話じゃもう婚約者までいるらしいじゃねぇか。婚約者を大事にしろよ。アル坊みたいな決めたことを突き通すやつ嫌いじゃ無いけどよ。ただ、そろそろ自分を許して良いんじゃないか?」

ロイはアルージェの頭を撫でるのを辞める。


いつの間に家事が終わったソフィアも側に来ていた。


「そうよ。私達は娘だから一生背負っていかなきゃダメだけど。アル君が背負う必要は無いのよ。そこまで想ってくれてるって知ったら、あっちの世界に居るあの子だって喜ぶわ」

ソフィアもアルージェの頭を撫でる。


アルージェは二人の言葉に俯く。


「シェリーは・・・」

だが、アルージェは言葉を止める。

神様が言っていたシェリーがまだ生きているという話をするべきなのか?


二人はもうシェリーのことを乗り越えて、前を向いて進んでいる。

そんな二人に今どこで何をしているか分からないシェリーの話をして、期待させるのも違うと思った。


それに神様と話したなんて突拍子もない話を信じてくれる訳もない。


「そうですね。けど、まだ僕の中では整理がついていないんです。もう少しだけシェリーの事、考えたいと思います」


「あぁ、早く整理が着くと良いな」


ロイの言葉を最後に沈黙が訪れる。


「あ、そうだ。アル君、ご飯は食べた?ちょっと作り過ぎちゃったから、良かったら食べてく?」

ソフィアが気まずい雰囲気を打開しようと、アルージェに提案する。


「あっ、大丈夫ですよ。きっと家に帰ったら、母さんが作ってくれてると思うので!お腹空いたし、そろそろお暇しますね!急に来ちゃって、すいません!」


「気にすんな!いつでも顔出してくれよ!ライも喜ぶからよ」


「ありがとうございます!また弓が出来たら持ってきます!では!」

アルージェはロイの家から逃げるように出ていく。


シェリーの事、忘れるつもりはない。

聖国の読み手ライブラリアンを倒せば神様が神様がシェリーの場所を教えてくれる。

その為に力を付けている最中だ。


今自分が出来ることをやっている。


「シェリー、絶対見つけるからね」

アルージェは拳を握る。


少し気持ちを落ち着けてから家に戻ると家の外でミスティが待っていた。



戻ってきたアルージェに気付きミスティが駆け寄ってくる。


「アルージェ、少しいいか?」


「どうしました?」

ミスティの深刻そうな顔を見て、聖国の刺客が来たのかと思いアルージェは気持ちを切り替える。


「あぁ、実は・・・」

体を震わすミスティ。


「家事を手伝おうと思ったんだが、お義母様に止められてしまってな」


「・・・。あ、あぁ、そうですか。あはは」


身構えていたアルージェの気持ちが緩む。

そりゃそうだ。ミスティさんは貴族だと分かっているのに、家事をさせるなんて出来ないだろう。


「何か私にもこの村で出来ることはないだろうか?手持ち無沙汰なんだ。時間が流れるのが遅いのは良いんだが、申し訳なくてな」


どうやら何もしていない居候みたいな状態が本当に嫌で悩んでいるようだ。


「んー、そうですねー」

アルージェも少し考える。


「あっ、ありますよ!この村の為に出来ること!ニツールにも一応衛兵みたいな方達がいるんですけど、稽古をつけてもらえたりしませんか?」


「ほう!やはり村にもそういう人達は居るんだな」


「はい。もちろん専業という訳ではないですけど、今は農業もそこまで忙しくないので集まって訓練してると思いますよ」


「ふむ、だが私なんかに指導役出来るだろうか?」


「充分ですよ!それに男ばっかりなので、みんなやる気が出ると思います!」

アルージェは親指をあげて渾身のキメ顔をする。


「ははは、そうか。ならエマも誘ってみるかな。せっかくだ。アイン達も誘ってみるか!」


「良いですね!僕は少し鍛冶をしたいので、一緒に行けそうにないですけど、場所の案内だけはさせてもらいますね!」


「そうか!私にも出来ることが有るのか!そうか、そうか!」

どうやらミスティは自分にも何か仕事があるのが嬉しいようで、ニマニマと笑っている。


「そういえば。さっき近所の子が来ていたな。マールに何か自慢して、マールが悔しがっていたが」


「あはは、茶髪の男の子ですか?」


「うむ、そうだ」


「あぁ、それならあの子に特製の弓を作ってあげることになったので、それを言いに行ったんでしょうね。なんかマールと競ってるみたいですし」


「なるほどな。マールもあの少年もよほどアルージェが好きなんだな」


「どうでしょうね。ただの近所のお兄さんって感じで懐いてるだけですよ」


「それでも、いいじゃないか。貴族ではあまりそういう関係は聞かないからな正直羨ましいよ」


「ならミスティさんも二人と話してみます?もしかしたら姉ちゃんって懐いてくれるかもしれないですよ」


「いやー、どうだろうな。何故かマールからは避けられている気がしてな」


「そうなんですか?照れてるだけかもしれないですね」

アルージェのグゥとお腹が鳴る。


ミスティはアルージェのお腹あたりに視線を移す。

「あぁ、すまない。引き留めてしまっていたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。続きは食事を食べながら話ましょう!」


家の中に入ると母さんとマイアさんが食事を作ってくれていたので席に着き食事を始める。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?