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第百六十七話

訓練場に向かう前にアイン達が泊まっているロイの家に向かう。


アインはロイの作業を手伝い、ラーニャはソフィアと一緒に炊事、カレンはライに絡まれていた。


アルージェが来たことに気付き、アインが手を洗ってから寄ってくる。

「おはようございます。みなさん忙しそうですね」


「忙しい訳では無いんだ。出来ることが少ないからね。ロイさんの手伝いをして毎日過ごしてるよ」


「あぁ、そうなんですね。今からミスティさんとエマが訓練場にいくらしいんですけど一緒にどうですか?」


「おっ、いいね!偶にはちょうど剣を振りたいと思っていたんだ」

アインがロイの家に入って行きラーニャとカレンを誘って、結局みんな一緒に訓練を見にいくことになった。


村人皆んなが訓練に使っている広場に行くと、既に何人かが集まって武器の素振りをしていた。


ゾロゾロとアルージェ達が来たので、皆手を止めてこちらを見てくる。


「アルージェじゃねぇか。ゾロゾロとみんな揃ってどうしたんだ?なんかあったのか?」

サイラスが駆け寄ってくる。


「あっ、サイラス。みんな暇だから訓練に出たいんだってさ」


「おぉ!ならビシバシ鍛えてやるぜ!」


「だってさ、それじゃあ僕はこれで!皆頑張ってくださいね!」


「おいおい、アルージェは一緒に訓練しないのかよ?」

サイラスがアルージェに声をかける。


「あはは、ごめんね。僕はグレンデ師匠に会いに行くからさ!」


「ちぇっ、そうかよ。それにしても本当に大丈夫なのか?女だっているけどよ」

サイラスはアルージェに耳打ちをする。


「あははは、大丈夫。それより自分の心配した方がいいよ!」

アルージェは後ろ手にサイラスに別れを告げて、グレンデの元に向かう。


「おい!どういう意味だよ?」

サイラスが叫ぶが、アルージェの姿が見えなくなる。


アルージェはグレンデの家に到着する。

今は金属を叩く音が聞こえてこないので、朝食を食べているのだろう。


「師匠来たよ!」

アルージェは勢いよく扉を開けて、家の中に入る。


家に入ると予想通りグレンデは食事を摂っていた。


「おぉ、来たか!アルージェ!」


「昨日ゴブリンの集落は潰してきたからね。師匠は休憩中?」


「そうじゃな。急ぎの作業はないからの。そうじゃ時間があれば手伝って欲しいことがあるんじゃがよいか?」


「あぁ、やりたいことが有るからそれ終わったらいつでも手伝えるよ!」


「おぉ、助かるわ。一人でやるにはちょい多くてな」


「なら、僕はライに頼まれてた付与魔法しちゃおうかな」

アイテムボックスからスラ弓すらきゅうを取り出す。


グレンデが食事を摂っている机に弓を置いて、どんな風にするかを脳内で整理していく。


「よし決まった!」


魔力を込めて手際良くスラ弓すらきゅうに刻印を刻んでいく。

手慣れた物であっさりと刻印が終わる。


「よし、弓の方はこんなものかな?」


「相変わらず、作業の手際が良いな」

グレンデは歯に引っ掛かった肉の繊維を爪楊枝で取りながら、話す。


「あはは、そうですか?こっちで出来ることは終わったので、僕は鍛冶場に行きますけど師匠はどうします?」


「儂も行くかの飯も食べ終わったしな」

グレンデが立ち上がる。


「なら、行きましょ!」

アルージェはグレンデの背中を押して、鍛冶場に向かう。


「これ!アル!押すでない!」


鍛冶場に着くと炉に火を付けて、アルージェは早速作業に取り掛かる。


まずは昨日のゴブリンを倒す時に使った武器の手入れを行う。

「あれ?そういえば、最近武器を折ったり修復不可能になるまでに、壊れることなくなったなぁ」


「それはアルージェが使い手として成長してる証じゃな。そもそも戦える鍛冶屋なんて聞いたこと無いがな。カカカカカ」


「僕もここまで戦えるようになると思ってなかったですよ。けど、いつの間にか戦いに巻き込まれてしまって・・・」


「カカカカカ。じゃが、戦える力は無いよりはあった方がいいんじゃ。どれだけ強くなっても良いと思うぞ」


「そうですね。守りたいものは増える一方ですからね。もうあんなこと起きないように強くならないと・・・」

アルージェは作業の手を止めて俯き、シェリーのことを思い出す。

槌を握る力が強くなる。


グレンデがアルージェの頭にチョップを入れる。


「いてっ!」

アルージェが頭を抑える。


「シェリーの事、忘れろとは言わん。じゃが、そうやって全てを自分のせいだと思い込むのは良くないと思うがの。あれは事故じゃよ。誰のせいでもないんじゃ」


「頭では分かってるんです。けどやっぱり割り切れない自分が居て・・・」


「そうじゃな、簡単では無い。それでも人は前に進むしかないんじゃよ。けどアルは本当に頑張っておるよ。立ち直って鍛冶だけじゃなく武器の扱いや付与魔法まで学んでおる。そこまで多才なのに、自分の現状に満足していないように見える。儂はお主ほどの努力家は見たことが無い」


「あははは、褒めすぎですよ!」


「これほどに言ってくれる人は周りにおらんのじゃろ?師匠である儂が褒めてやらんとな」


「あはは、ありがとうございます。ちょっと気が楽になりました。よーし!続きやるぞー!」

アイテムボックスからゴブリンの集落で取ってきた武器を取り出す。



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