「訓練やめ!集合!」
スベンが号令をかけるとと、兵達はサッと訓練を終えて駆け寄ってくる。
「こいつはアルージェ。お嬢の婚約者らしい。無礼無いようにな。今から一戦交えるが、誰かやりたいやつはいるか?」
兵達はアルージェの姿を見て、小さい子供だぞとざわつき始める。
スベンは兵達を見渡し、立候補を待つが誰も手を挙げない。
「誰もいないなら、俺が決める。ジェスお前が相手してやれ。殺すなよ?」
「えぇ、俺ぇ?もう訓練で疲れてんだけど?」
「黙れ。さっさと準備しろ」
「へいへい。ならササっと終わらせますか」
出てきたのはサラサラの金髪をセンターで分けて、顎くらいまで伸ばした細めの男。
同じ金髪のアインとは系統が違うが、かなり整った顔をしている。
ジェスと呼ばれた男の動きをアルージェはしっかりと観察する。
動きに無駄がない。
言葉は軽いはこの男強い。
「ささっと準備しろ」
アルージェとジェスは少し離れた場所に移動し、両者武器を構える。
ジェスは背中に携えていた槍を構える。
思った通りジェスの構えには隙が無い。
アルージェもアイテムボックスから剣を二本取り出して、構える。
「初め!」
二人の準備が出来たことを確認し、スベンが開始の合図を出す。
「我が身に魔を宿し強化せよ。『
ジェスは詠唱をして自身に身体強化を施す。
そして槍を突き出し、アルージェの元へ駆け出す。
アルージェも魔力を操作して、身体強化を施す。
そしてジェスが突き出した槍を剣で弾く。
持ち手は木製ではなく金属製のようだ。
金属と金属がぶつかる音が響き渡る。
「へぇ、身体強化は出来るんだ。なかなかやるじゃん。けどこれはどうかな」
ジェスは槍を弾かれた力に抵抗せず穂先では無く石突部で追撃、さらに槍を回転させ穂先での連携攻撃を行う。
何度も槍を回転させ、穂先と石突部での刺突を嵐のように繰り出す。
アルージェは槍の軌道をしっかりと確認して、焦ること無く剣で弾き対応する。
ジェスは追撃を恐れて、少し距離を取る。
「これもダメか。まだ小さいのにやるじゃん。団長が興味持ったのがなんか分かるわ。俺もお前に興味湧いてきた」
ジェスはニヤリと笑う。
次はアルージェから攻撃を仕掛ける。
持っている二本の剣を巧みに操り、緩急をつけて対応しにくくする。
ジェスはアルージェの攻撃に対応しながらを受けながら声を掛ける。
「アルージェだっけ?お嬢の婚約者らしいけど、お嬢のあの噂は知ってるのか?」
「あの噂?」
アルージェも話を聞きながら、攻撃の手を緩めない。
「あぁ、その様子じゃ知らねぇみたいだな。お嬢は悪魔憑きなんだよ」
「悪魔憑きですか」
「そうだぜ、誰も居ないのに一人でボソボソとずっと喋ってんだ。気味が悪いよな。それのせいで両親にも見捨てられて、別館で暮らしてんだとよ。笑えるよな」
ジェスはミスティをバカにして、鼻で笑う。
「それのせいでお気に入りだったメイドも居なくなるしよ。街に駆り出されるし、こちとら良い迷惑だぜ」
「辺境伯様の私兵団なのにミスティさんに敬意はないの?」
アルージェはジェスから距離を取る。
「無いとしたらどうする?俺がここにいる理由が給金がよくて可愛いメイドが多いからだとしたら、お前に何か出来るのか?」
「何も出来ないけど」
アルージェが纏う魔力が膨れ上がり、魔力の奔流が起きる。
ジェスだけでなく離れた場所で見ているスベンも驚愕し、私兵団達はざわつき始める。
「おいおい、団長こんなの聞いてないぜ。冗談になってねぇって、何が殺すなよだよ」
ジェスは魔力を見ることは出来ないが、アルージェが纏っている魔力をビリビリと肌で感じる。
私兵団の一員として、何度も死戦を潜り抜けてきたが本能が警鐘を鳴らしている。
「婚約者を悪く言われてさ、ヘラヘラ笑って終わられる程、人間出来てないよ」
アルージェはアイテムボックスから槍を取り出す。
槍を構えてアルージェがジェスに駆け出す。
目にも止まらぬ速さでジェスの懐に入る。
「お前、剣士じゃねぇのかよ」
ジェスは咄嗟の判断で槍を前に出して、アルージェの一撃を止める。
アルージェの槍とジェスの槍がぶつかり金属音が響く、次の瞬間ジェスはアルージェの姿を見失う。
次は四方八方から投げナイフ・フランキスカ・ジャベリンといった投擲用の武器がジェスに向かって飛来する。
「槍士でもねぇのかよ」
ジェスは飛来する投擲武器を槍を使って弾く。
だが、目の前いっぱいに広がる投擲武器で弾幕が出来ていた。
「だから洒落になってねぇって」
個人での戦いの中で投擲武器で視界を埋め尽くされるなんて、考えたこともなかった。
物量が多すぎて次第に対応が出来なくなり、ジェスの体の至るところに切り傷が出来る。
「ガハッ」
弾幕に対応していたが横から衝撃を受けて、吹っ飛ばされる。
アルージェは武器を使わずに拳でジェスの顔を殴った。
ジェスはなす術なく地面に倒れ込む。
アルージェは倒れているジェスに駆け寄り更に拳を叩きつけようとした時、辺境伯が前に現れる。
「そこまでだ」
「へ、辺境伯様!?」
アルージェは咄嗟に拳をおろしたが、体の勢いを止めることが出来ずにそのまま転がっていく。