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第百八十九話

鎧の耐久も確認できたので、辺境伯に鎧の納品が完了する。

鎧には軽量化フェザーの付与がついていたので、案の定訓練では使えないということになり有事の際に使うことになったらしい。


このままの流れで訓練に参加しようかと準備運動を初めていたら、

アインから声がかかる。


「アルージェ!さっきの言ってた付与の話なんだけどいいかな?」


「あぁ、大丈夫ですよ」

アルージェは準備運動を辞めて、アインの方へ顔を向ける。


「付与してほしい内容なんだけど、実は決まってて軽量化、硬質化、炎熱抵抗、氷結抵抗、自動修復の最低五つは付与してほしいんだ。出来ないものは無いかな?」


どれも魔法学校の図書館で付与魔法について調べて時に見たものばかりだった。

鎧の付与に困ったらとりあえずこれらを付与しておけば問題無いと書かれていた、優秀な付与効果だ。

その時にやり方をみたので何度か練習をすれば、付与出来ると思われる。


「ちなみに今は何か付与されてるんですか?」


「いや、何も付与していないんだ。シルバー帯になった時に少し背伸びをして鎧を買ったんだけど、あの時は買うだけで精一杯だったからね」

アインは恥ずかしそうに頬を掻く。


「なるほど実際に鎧見せてもらうことってできますか?」


「あぁ!もちろんさ」

アインがアイテムボックスから鎧を取り出す。


アルージェは鎧を受け取りマジマジと観察する。

「なるほど。鎧の素材はミスリルって感じじゃないですね。もしかして魔鋼ですか?」


「流石鍛冶屋だね。その通りだよ」

アインはアルージェに感心する。


魔力を帯びた鋼。

本来であれば、何かしらの付与が初めから施されているはずだ。


「魔鋼なのに付与効果が一つも無いなんて珍しいですね。僕も少し調べてみてもいいですか?もし何か付与されていたら、後から付与したものがうまく付与できない事があるんです」


「そうなんだよ。誰がどれだけ確認しても何にも付与されていなくて安くなっているのを発見したから即購入したんだ。詳しく見てもらえるなら僕としても助かるよ。何か付与されているのなら僕も知りたいからね」


「分かりました!ならちょっとだけお借りしますね」


アルージェはアインの鎧を自身のアイテムボックスに片付ける。

アインから受けた要望は忘れない様に紙に記載して、それも一緒にアイテムボックスに片付ける。


アインと話している間に私兵団員達は訓練を開始していた。

アルージェとアインは私兵団達に合流し、訓練を最後までこなす。


想像していた以上に厳しいがなんとか最後までこなして、クタクタの状態で別館に戻っていく。


だが、予想通りアルージェは敷地内で迷子になってしまう。

「あれ?まただ。はぁ・・・、仕方ない」


アルージェはルーネに念を送る。

(ルーネ、今って迎えに来てもらえたりする?)


(バウッ)

シュークリームを食べてる途中だったみたいだが、来てくれるようだ。


ルーネが来るまでその場でしゃがみ込み待機する。

その間、どうやって付与するかを考える。


魔鋼に対して付与をしたことがないと思ったが、確か今日辺境伯様に納品した鎧も元は鉄だったけど別の金属に変異してたことを思い出す。


あれがなんだったのかを師匠に聞くのを忘れていたけど、付与が施されている状態でもアインさんの鎧よりは硬くなさそうだ。


つまり辺境伯様に納品した鎧は魔力を含んだ鉄、魔鉄なのではと推測出来る。


魔鉄でも簡易付与テンポラリーを応用して魔力に浸しておけば、付与できたのだかた魔鋼でできない道理は無いだろう。

等と考えていると頬をちょいちょいと触れられた感覚がして、アルージェは手で払う動きをして思考を続ける。


魔鉄で五日あれば出来てたんだから、上位互換である魔鋼であれば三日くらい魔力に浸していれば出来るのではないだろうか。

と考え終わった後また頬をちょいちょいと触られる感覚がしたので、アルージェが視線を向けるとルーネの前足の肉球が見えた。


「あれ?いつの間に来てたの?気付かなかったよ」

アルージェが立ち上がりズボンをパンパンと叩くと、ルーネはやれやれと首を振る。


「さぁ、ルーネ!何してるの!ミスティさん達のところに戻ろ!」

アルージェはルーネに跨るとルーネは屋敷内なのでゆっくりと別館移動を始める。

その間もアルージェは魔鋼に対しての付与方法についてブツブツと呟きながら部屋に戻る。


部屋に戻る途中で一人のメイドとすれ違う。

すれ違ったメイドは一人ブツブツと言っているアルージェを見て、こいつも悪魔憑きかと内心で思うが言葉にはしなかった。

悪魔憑きという言葉はこの屋敷内ではタブーだ。


メイド業務で辺境伯邸程に高給で雇っている場所は無い。

辺境伯領は辺境と言っているので王国の端に位置する場所でかなり辺鄙な場所だが、高給故に求人募集を待っている者も少なくない。


メイドはただお辞儀をして、アルージェが通り過ぎるのを待つ。

悪魔憑きなら悪魔と会話していても、チラリとこちらに視線を向けるはずだ。

通り過ぎるアルージェをメイドはお辞儀をしながら、目だけはアルージェから視線を逸らさないで様子を伺う。


だがアルージェはメイドに対して見向きもしないで、ただブツブツと思考しながら通りすぎる。


あの子は悪魔憑きでは無く、ただ集中力が凄いだけの人なんじゃないかとメイドは考え始める。


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