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第百九十話

ただ集中しているだけ。

そうなのだとしたら悪魔憑きだと深読みしている自分が滑稽に思えた。


自分の愚かさに耐えかねてメイドは「フフフ」と声を出して笑ってしまった。


「ん?」

アルージェは首を傾げ、アルージェが視線をメイドに向ける。


メイドはしまったと内心慌てる。

変わった人だがアルージェはあくまで辺境伯様のお客様。

そんな人を笑ったとなれば、クビにされてもおかしくない事案である。


「いえ、なんでも有りません」


「今笑った?」

アルージェの言葉にメイドは冷や汗をかく。


「申し訳ございません。本意ではございません」

メイドはアルージェに必死に頭を下げる。


アルージェは無言でメイドを見つめ続けている。

メイドの如何にこの状況を乗り越えるか必死に考えている。


「ここのメイドさんも笑うんだね!」

アルージェがルーネから降りて近づいてくる。


「ここのメイドさん達みんなマイアさんよりも完璧な人達ばっかりで、なんか話しにくかったんだよねー。だから道も聞けないで迷子なっちゃったし。あははは」

アルージェは恥ずかしそうに後頭部を掻く。


メイドはキョトンとする。


「ここのメイドさん達ってみんな話しかけたら道とか教えてくれるのかな??」

右手で口元を隠すようにアルージェはこそこそとメイドに話しかける。


「は、はい、もちろんです。知っている事ならすぐに答えてくれると思いますよ」

アルージェがグイグイと話しかけてくるので、メイドは困惑する。


「そうなんだー、なら初めから話しかけたら良かったなぁ。今度から道はちゃんと聞こうっと!それじゃ!」

アルージェは待っていたルーネに跨り、別館に戻っていく。


その後アルージェが話したメイドは自分の業務を終わらせ休憩室に戻る。

そして他のメイドにアルージェの話をする。


一人でブツブツと話してるところを見てあの子もお嬢様と同じかと思ったけど、ただ集中力がすごいだけみたいだった。

あと道によく迷うらしいから道を聞かれる可能性があることもメイド仲間に話した。


その日中にメイド達の中で広まり、翌日からメイド達はアルージェに対して態度が軟化した。


アルージェも話しかけたら返してくれると聞いたので、翌日からメイドとすれ違ったときはなるべく挨拶するようにしている。


元気よく挨拶してくれる子。

辺境伯邸にそんな無邪気な子はいなかった。

ミスティは別館で暮らし悪魔憑きだと言われていた為、ほとんど関わりが無い。


本館に住んでいたライナは亡き辺境伯夫人がどこからかつれてきた子だが、辺境伯の子供である自分は偉いと勘違いしており、メイドへの当たりが強かった。


素直で性格の良いアルージェ。

それに加えてアルージェはあどけない可愛らしい顔をしている。

それだけでメイド達か評価は鰻登りだった。

もちろん中には悪魔憑きの婚約者だからと言って嫌がる物も居た。


だが、道を聞かれて現地まで連れ行く間、少し話をしただけで素直な良い子なのだと分かり、アルージェを嫌がるものはいつしかいなくなっていた。


アルージェがキョロキョロしてると近くにいるメイドさんが率先して道に迷ったのか聞いてくれるので、道に迷うこともだいぶ減った。


メイドによっては手を繋いで、現地まで連れて行ってくれる人が出てくるほどだ。


「十二歳だからもうそんな歳でも無いはずなのに・・・」

とアルージェは嘆く。


そんなこんなで屋敷で過ごし始めて一週間が経った。

訓練にも何度か参加した。

かなり厳しい訓練ばかりだったが毎日必死にこなした。


私兵団員達は自分達でもしんどい訓練を子供ながらにこなすアルージェに声を掛ける。

特にジェスはアルージェを気に入ったようで何か有る度に話しかけにくる。


ハードな訓練が終わった後は別館に戻り、ミスティさん達に誘われて食事を取るのが日課だ。


食後はアインに頼まれていた鎧の付与を試みる。

何度も魔力の流れを見たが、本当に付与されている効果は無いみたいだ。

だとすれば本当にブランクの魔鋼だったのだろうか。


鋼が魔力を長時間浴びることで魔鋼になる。

ならその魔力はどうやって発生したのか?

どこでみつかった物なのかなどが分かれば、もっと詳しく分かるのだがその辺は一切不明なのでどうしようもない。


ただ、検証では無くて実際にアインさんが使っている大事なものなので、もう少しだけ鎧の様子を見てから付与作業に移ろうと思う。


ついでに先日作った槍にも付与か刻印を施そうと思う。

コンセプトは既に決まっている。どんな人でも最強になれる槍。

これが今回のコンセプトだ。

槍自体に型やら使用者動きを学習させ、使用者がずぶの素人でもこの槍に身を任せれば達人と同じ動きができるみたいなのが理想だ。


学習させなきゃいけないからいろんな人に使ってもらう前提にはなるが、自分で勝手に学習して、更にその動きから最適な動きに派生させるみたいなのが出来れば上出来だ。


「ちょっと大変そうだなぁ」

アルージェは前世のことを思い出す。

元いた世界ではすでに自動運転やらが導入されてる国も有った。

AIの進歩は早すぎでニュースで見た翌日にはもう新しいこと出来て見たな状態だったな。

AI黎明期はルーチンワークなんてAIがすれば効率いいじゃんってニュースでやってるのを見たが、死ぬ前なんてAIを利用した兵器の話をしてた気がする。


それと同じことがこの世界でもできるんだろうか。

泥人形ゴーレムを自動で戦わせるとか・・・?

有りえない話じゃないな。

まぁ、まずは刻印とか付与で本当に実現できるのか色々と検証してみないとだけど。


「よーし!じゃあやっちゃうぞ!!」

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