それから一月が経った。
夕方まで私兵団員達の訓練に出て体を作り、訓練後は別館に戻ってアインの鎧に付与を施すだけ日々が続いた。
ミスティさんとエマもやることがなくなってきたのか、訓練に顔を出す日が増えてきた。
私兵団員達はミスティさんの事を嫌っている様子は無かった。
どちらかといえば小さい頃ずっと訓練場に来ていたのを面倒を見ていたので、娘みたいな感覚なのかもしれない。
また私兵団に所属しているのは男性ばかりで華が無い。
そんな中にエマやラーニャさんが入ると、少しでも格好いいところを見て欲しいと思うのが男の心情だ。
エマやラーニャさんがいる時の皆のやる気は暑苦しいまで有った。
ついでに話したがラーニャさんも偶に訓練場の端っこでエマと一緒に体を動かしているのを見かける。
基本的にラーニャさんは屋敷に常駐している治療師に技術を教えているらしいが、何日かに一回は体を動かすために来ているようだ。
ちなみにカレン教授は一度も顔を出したことは無い。
アインさん曰くカレン教授は部屋に篭って論文を書いているらしい。
ちょうど学校自体が大型連休で授業が無いとはいえ、教授の本分は研究なのだろう。
鎧の方は順調でアインの要望通り軽量化、硬質化、炎熱抵抗、氷結抵抗、自動修復を付与出来た。
それと追加で反射の効果も付与した。
矢などが鎧に当たった際、同じ速度で同じ場所に反射する効果だ。
頼まれてはいないので必要ないかもしれないが、不慮の事故を減らせる良い付与だと個人的には思っている。
一緒に魔法反射も付与したかったが、反射を付与したら魔法反射が付与できなかったので、どちらか一つしか出来ないのだろう。
この辺りは実際にやってみないとわからないので時間が無駄に掛かっただけだ。
鎧に対しての付与は二回目。
且つ今まで付与したことの無い物ばかりだった為、少し時間が掛かったけれど要望通りのものが出来てよかった。
以前付与した魔鉄と比べると魔鋼は付与に必要な時間がかなり短かった。
ん?ならなんで一月も時間が掛かったかって?
そりゃ、鍛冶場に行って鍛冶もしてたからだよ!
屋敷に備え付けの鍛冶場に初めて行った時逃げるように帰ったので、行くのが躊躇われたがどうしても武器が作りたくなって観念して行った。
作業を始める前に常駐している鍛冶屋三人に根掘り葉掘り聞かれるかと思ったけど、向こうも自重してくれたみたいでそんなことは無かった。
作業の合間に話をしたけど、皆一流の鍛冶屋のようで店を構えていてもおかしくない技術水準だった。
おかげさまでさまざまな金属の事を教えてもらえた。
一人でやっていたら実際に触ってみるまで知り得ない情報だったので本当に勉強になった。
逆に僕からは効率化を図った手順なんかを提案したりして、WinーWinの関係になったんでは無いだろうか。
とまぁこんな感じで一月過ごしていた。
非常に有意義で自分が聖国に追われているなんて忘れるほどに目まぐるしい日々だった。
さて鎧が完成の報告をしたいので、訓練終わりにアインに声をかける。
「アインさん!頼まれていた鎧への付与、完了しましたよ!早速見せたいんですけど良いですか?」
アルージェが話しかけると、待ってましたと言わんばかりにアインは興奮する。
「おっ!本当かい?なんだかワクワクするね」
アルージェはアイテムボックスから完成した鎧を取り出し、アインに渡す。
「お納め下さい」
アルージェがアインに渡すとアインは「おぉ」と感嘆の声を漏らす。
少し触っただけで違いが分かったみたいだ。
アインは受け取った鎧を早速着用する。
「本当にすごいね、アルージェは。着ただけで分かるよ、鎧から力を感じる。それに軽いし、今までよりも硬くなっているがわかるよ」
アインは鎧をコンコンとノックしてみたりして、実際の効果を確かめているようだ。
「要望は確か
アインは鎧を脱いで、少し離れば場所に置いてアルージェの方に戻ってくる。
そして、ぶつぶつと魔法の詠唱を唱え始める。
「悪きものを浄火せよ。燃え盛れ炎熱。燃やし尽くせ
アインの目の前に魔法陣が現れて詠唱を完了すると、アルージェの方まで熱を感じる白炎が現れて、鎧を包み込む。
炎が収束すると鎧はまだそこに存在した。
アインは鎧の元まで駆け寄り鎧を手に取り確認する。
若干焦げていたところがあったが、すぐに
アインがアルージェの近くに戻ってくる。
「すごいね。予想以上の出来だよ」
そして、またアインの前に魔法陣が現れる。
別の魔法を魔法を試すようだ。
「氷の楔、聖なる氷雨。悪き物を貫け
アインが詠唱を済ますと細雪の様な氷が集まり、いくつもの氷の槍が形成する。
そしてアインが手を前に出すと一斉に鎧に向かい槍が放たれる。
氷槍はアインの狙い通り鎧に一直線に向かい、鎧と接触し破砕する。
「あぁ・・・。流石にやりすぎたと思ったのだろうか・・・」
アインは慌てて鎧の元に駆け寄る。
だが鎧には傷一つついていなかった。
アインは鎧を手に取り、顔をこわばらせて呟く。
「まさかここまでとはね。僕は君が恐ろしいよ。アルージェ」