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Chapter6 - Episode 50


不思議な事に、私が何をすればいいのかははっきりと分かった。

私が持っている限り際限なく灰が集まり大きくなっていく『面狐』を下段に構え直す。

狙うは紫の液体……恐らくはフールフールの血液であろうソレが流れ出ている場所だ。

その場所自体はすぐに見つかった。

灰被りが先ほど吹き飛ばされるまで居た場所から見える位置。そこは牡鹿の太い脚があった。


しかし先ほどまで灰被りが攻撃していたそこには灰しか塗られていなかった。

だが今、私の肉眼で見える位置には灰はない。

代わりにそこに在ったのは、我武者羅に傷つけられたであろう牡鹿の皮膚だ。

これが灰被りの攻撃というのならば……彼女が発動させている【灰の姫騎士】という魔術は、予想以上に回りくどい攻撃魔術であるのだろう。


彼女はフールフールの『耐性ごと削る』と言っていたのだ。

そしてその言葉の通り、私の目の前にある物理的な防御力が高いであろう皮膚は切り裂かれている。

なら私のやる事は当初と変わらない。


『狐ェ!』

「まず一本ッ!貰うよッ!!」


フールフールはその背に瘴気を集め、槍を持った騎士のような形を作り出す。

恐らくはこれが牡鹿の悪魔の本当の姿。瘴気の騎兵と、悪魔の牡鹿。2体で1体の姿なのだろう。

その騎士は私に対してほぼほぼ直下に存在している私に対して、その手に持った瘴気の槍を突き出してくるのと同時。

私は『面狐』を斜め上に対して、牡鹿と瘴気の騎士を振り抜いた。


槍と灰の大剣は交差する。

【血狐】の鎧は槍の勢いを削いでくれるだろう。しかし直上から放たれたそれはどんなに勢いを殺されていようと悪魔の膂力をもって私の身体を、左肩を貫いた。

だがそれと共に私の剣は、牡鹿の前側左足と瘴気の騎士を斜め右上に切り裂いていく。

灰の大剣は形を変えながらフールフールの身体を傷つけていく。


先ほどまで弾かれていたとは思えないほどに、するりと肉を断ち牡鹿はバランスを崩していった。

だがそれだけでは終わらない。

大剣を振り抜いた形となった私とは違い、瘴気の騎士の持つ得物は瘴気そのものだ。

だからこそ。先程から私や灰被りに攻撃していた時と同様に。

私の肩を貫いた瘴気の槍を一度霧散させ、すぐさま新しい槍を作り出し斜めになっていく体勢のままに私を再度貫こうとしてくる。


だがそれは私には届かない。

届くことはない。


「『我が眷属は我が友を護る』」

『『アァ!?』』


灰被りの声が灰色の部屋へと響いた。

瞬間、私へと迫っていた瘴気の槍は『面狐』に集まってきていた灰によって阻まれる。

阻まれ、浸食され、そして灰へと変わり瘴気の槍を食っていく。


「二本ッ!【魔力付与】ッ!!」


大きな隙。その隙を見逃す程に私は甘くはない。

発声行使によって発動させた【魔力付与】。だがその膜の形をきちんと整えている時間はない。

大まかに剣の形に整え、大きく開いた身体を戻すように斜め上から振り下ろした。

その太刀筋は先ほどの逆回しのように返っていく。

灰被りによる支援はないものの、私が大きくつけた傷へと魔力の膜の刃が入り再度その傷を抉った。


ガチッ、という音と共に一瞬『面狐』が止まったものの。

獣人の膂力をもって押し切った。


『ぐ、ぅ……!』


フールフールはその足を切り飛ばされ、更にその体勢を崩していく。

瘴気の騎士はといえば、一度その姿が搔き消えていった。

本当の、本気の姿と言えど瘴気は瘴気。身体の大部分を袈裟斬りにされた為に、一度構築し直すのだろう。

そこまで見て、やっと私は牡鹿から距離を取る為に背後へと跳んだ。

再度攻撃するにしても攻撃が徹るであろう灰被りによる傷が見当たらないからだ。


「……直接攻撃はしないんですか?」

「すいません、出来ないんです。【灰の姫騎士】この魔術を使っている間は私自身の与えるダメージは強制的に・・・・ゼロになるんです・・・・・・・・


近くに来ていた灰被りへと問いかける。

しかしながら返ってきた答えは驚きと疑問を私に浮かばせた。


「でもアイツの皮は剥げてましたけど……?」

「恐らくは痛みすらないでしょうし、血が流れ出たのはその副次的な効果ですよ」

「な、なるほど?」


更に1つ疑問が浮かび上がったものの、今も今後も追及するつもりはない。

魔術師プレイヤーなのだ、隠し事や嘘の1つや2つはあるだろう。

だからこそ、灰被りの言葉をそのまま飲みこみ頷いた。


「それに、この魔術がきちんと効果を発揮してくれて助かりました。……次で決めます」

「次の狙いは?」


私が問うと、彼女はフェイスヴェールを付けているにも関わらず分かる程に笑みを浮かべながら、


「決まっているでしょう?首ですよ」


私の頭の中に響く声でそう言った。

その言葉に私は頷き、次の狙いを聞いた上で傷を負った左肩に対して重点的に【血狐】を纏わせこれ以上傷が広がらず、血が出ないように応急措置を行わせた。

血に関係する魔術だからこそ出来る応急措置だ。しかしながら実質的に傷が塞がっているわけではない。

その証拠に、左肩から先は既に力が入らなくなっている。

だからこそ、次の。

灰被りが次で決めると言った首を、二撃ではなく一撃で獲るのだ。


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