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Chapter7 - Episode 40


場に霧とは別の、白い土煙のようなものが立ち昇る。

それだけ勢いが凄まじかったのだろう。

霧に対しての透視能力はあるものの、それに対しては見透かすことが出来なかった。


『終了――』

「――なわけねぇだろ」


残念そうな声音で言った白狐に対して、無数の氷の槍が飛来する。

私の使った魔術言語による攻撃だ。

しかし狙いは甘く、直撃する物は少ない。

直撃するコースの物も、反応が間に合った白狐の尾によって叩き落とされた。


『何故、というのは野暮か』

「聞いてくれて良いんだけど?」


煙……否。

濃い冷気・・・・が晴れていく。

私の周囲には球体の氷の膜が何重にも張られており、何本もの槍状の氷が突き刺さっていた。

その中に居る私は、擦り傷などを負っているものの、ほぼ無傷だった。

……あっぶないなぁもう。間に合ってよかったけど。


当然ながら、種も仕掛けもあるマジックのような物。

いつも通りの魔術言語による、『触れたものを』、『氷の生成』を【狐霧憑り】の補助能力によって多重に構築。

結果として、多量に水分を含んだ霧で出来た槍は凍結し……その余波で濃い冷気が場に満ちただけの事。

唯一の想定外といえば、術者の私自身がここまでの出力になるとは思っていなかった点だ。


咄嗟だった為にその場で適当に魔術言語を構築しすぎた結果とも言えるだろうが……以前までの私だったらここまでにはなっていない。

恐らくはこれも、ランクアップによる影響。

言語に特化した故の結果だろうと結論づけた。


「【ラクエウス】」


一瞬の静寂。

だがすぐにまた戦況は動き出した。

『白霧の森狐』は霧による攻撃は効果が薄いと考えたのか、その身に雷電を纏い出す。

以前イベント中に見たものと同種のものだろう。

あれに向かって近接戦闘を仕掛けたらどうなるかは分からない。だからこそ、私は距離を離しつつも霧の罠を周囲に展開していく。


初級ではあるものの、トラバサミや落とし穴といった、高機動の相手を一瞬でも足止めが出来る罠。

それを私と白狐の直線上だけでなく、満遍なく地面に設置しつつ出方を見ようとしてやめた。それが出来るような相手ではないからだ。


次の魔術を発動させる為、口を開こうとした瞬間。

白狐が動いた。

纏った雷電を空中に放出し始めたのだ。

だがそれだけならば問題ないと思い……すぐに血相を変え、叫ぶ。


「【血狐】ッ!波!」

『――了承』


空中に放出した雷電が無数の球状となり、こちらへと襲い掛かってきたからだ。

当然ながら、そんなものに当たったら良くて半死。悪くて狐獣人の丸焼きの完成となるだろう。


自身の足元に板状の氷を魔術言語によって創り出し、その下から掬うような形で【血狐】が波となる。

『瞬来の鼬鮫』へ会いに行った時にした移動方法を改良し、船ではなくサーフィンのように波に乗る。当然ながら私はリアルでも、ゲーム内でもサーフィンなどした事がない為にバランスを崩しかけるものの……波になっている【血狐】が私の足と氷の板を固定する事でサポートしてくれている為に転覆する事はない。

どちらかと言えば、サーフィンよりもスノーボードの方が近いのかもしれないなと思いつつ。


「移動任せるよ」

『――後日、褒美』

「分かってるッ!」


こんな時でも自身の要求を通そうとする【血狐】の言葉を聞きながら、私は次に使う魔術の準備を始める。

インベントリ内に仕舞っていたソレを取り出し語りかける。


「出ておいで、私の管狐」


ソレ……『煙管:【狐霧】』から出現する管狐に少しだけ笑みをこぼしつつ。

すぐに息を吸いこみ詠唱を開始した。


「『霧は全てを形取る』、『音は恐怖を形取る』」

『次はそれか!だが乗り込む隙など与えると思うかッ!』

「『逃げろ、逃げろ』」


白狐が何か言っているが、関係がない。

確かにこの魔術は、私が乗り込んでこそ真価を発揮する……というより、そもそもが補助魔術。

攻撃用の用途を元は想定されていないものだ。しかしながら、何の因果か自律行動が出来る魔術でもある。


「『脱兎の如く、狐のように狡猾に追ってくるそれから』」

『霧よ、雷鳴よ!』


白狐が叫ぶと同時、無数の霧の槍と雷の球が出現し私へと迫る。

しかしながら【血狐】が当たらないように速度を出しつつ避けてくれる為に、追いつかれない。おかげで上に立っている私は左右上下に視界が揺れて酷い事になっているが。

背後で爆発音や破裂音が聞こえる事に肝を冷やしながら、私は詠唱の最後の一節を詠いきる。


「『これは我が理想』、『我が走らせる恣意の具現也』」


……さぁ、一緒に走ろう。


「【霧式単機関車コンクラー封印オール解除アボード


霧が機関車の形となり、独りでに走り出す。

操縦席の窓には既にコンダクターの姿があり、こちらの方を見て溜息を吐くような仕草をしているのが見えた。

つい最近も彼からそういう用途ではないと言われていたものの……結局こういう使い方が一番使いやすいのだから仕方がない。


これでまた1つ場が整った。

壁の無い広い場所で、赤の波と白の機関車が縦横無尽に駆けていく。


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