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Chapter7 - Episode 39


「【挑発】、【霧の羽を】」


魔術を続けて2つ発動させる。

どちらも個に対して効果的とは言えないモノだが、それで良い。

一瞬を稼げれば良いのだから。


私が避けたのを確認した『白霧の森狐』が再度四肢に力を込めようとした瞬間、その頭部に霧で出来た羽が大量に出現し視界を塞ぐ。

幾ら霧を見通せると言っても、魔術の効果である一瞬の妨害効果をNPCである白狐は無視できない。

そしてその一瞬があれば、


「【血液強化】、【衝撃伝達】」


『脱兎之勢』を展開したまま、強化魔術を発動させ、自ら離した距離を一瞬で詰めることが出来る。

巨大な身体を持つ相手と接近戦を行うのは危険ではある。しかしながら、私の得意な距離も至近である以上、いつまでも離れてはいられない。


それに、巨大な身体というのは時にデメリットにもなり得るものだ。

懐に入り込まれてしまえばその分、攻撃の幅が狭まり単調となる。そして単調となれば……こちらが攻撃を行える隙となる。

だから行く。

征った。


「――ッ」


浅く息を吐き出しながら、霧で出来た甲冑に対して『面狐・始』を軽く振るう。

力を込める必要はない。

まずはこの甲冑がどのような性質をもっているのかを確かめねばならない。霧による攻撃などを吸収する効果を持っていたら目も当てられないから。


短剣は狙い通りに甲冑へ刀身を触れさせ……私の視界は急に一面の青へと切り替わる。

地面が見えないほどの空中。幸いな事に寒さや高度による酸素不足などは無いようだ。

攻撃の際に発動するような魔術や魔術言語、技術の類を使った覚えはない。つまるところ、これは、


「転移かよッ!」

『我の元に挑む者は多い。その中でも……仲間の盾となって戦う者にはこういう術を持つ者も居てな。……我なりに改良してみたということだ』


転移の性質を持った甲冑。

反応リアクティブ装甲アーマーにそんな性質を持たせたらどうなるかなど分かり切っている。

近接攻撃の類をする者への絶対的な防御手段。無敵性がそこには存在していた。

……でもこれだけなら私には意味がないッ。

しかしながら私にとって触れただけで転移するような甲冑や、空中に投げ出された程度なら問題はない。霧の操作能力や、いざとなればクッションとして扱う事が出来る魔術を持っているからだ。


『無論、我も狐の女子にコレがもう効かない事くらいは分かっている』

「!」


私の考えに同調してくるかのように、白狐の声が聞こえる。

思えば、先程から私に対して返答しているこの声はどこから聞こえるのだ?そう思い、周囲を見ようとして……空中から落下しているというのに、霧が私の周囲に存在しているのに気が付いた。


『気が付いたか。だが遅いな』


その言葉に咄嗟に空中で身を捩る。

瞬間、私の顔のすぐ横を何かが通り過ぎていく。


「――管狐か!」

『コレは狐の女子のあの道具を参考にさせてもらった』


細長い霧の狐。私の持つ『煙管:【狐霧】』によって出現する管狐によく似たそれは、明確に私を殺すために動いていた。

今は避けれたものの、次避けれるかどうかの保証は一切ない。


「【血狐】!」

『――防御、及び着地補助』

「よろしく!」


身体から血が溢れ、それが私の身体に纏わり付くように絡み。

そして首付近に狐の顔が出現する。私の持つ魔術の中で意志を持つモノ。

物理的な攻撃などに耐性を有し、着地の際にはクッションとなってくれる使役物だ。

ある程度自由に姿形を変えられるからこそ、私は彼を今羽衣のように纏う。

次いで、私は焦りつつも歌うように声を挙げた。


「『目に見えぬ狐が走る』」

『詠唱か。それは……我の同類だな?』


管狐が私の身体を掠めていくのに肝が冷えながらも、私は詠う。

防御や着地は【血狐】がしてくれる。ならば、地面に着くまでの短い時間に出来る事をするべきだ。


「『戦場が白に染まり』、『狐は全てを知覚する』」


私が戦う上で、最善のパフォーマンスを発揮できる状況は限られる。

霧が存在し、相手との距離を詰める事が出来、魔術言語を十全に使える。

この3つの点が揃ってようやく私は強敵に対しての勝ち筋が見えるのだ。

そして現状、その中の2点……魔術言語以外の2点は達成出来ている。


「『これは我が理想』、『我が纏う恣意の具現也』」


首近くに巻き付いていた【血狐】の一部が管狐によって剥がされる。

血の塊であるソレを、何故か霧の塊であろう管狐が喰らっているように見えたのは見間違いだろうか。普通に怖い。

だが準備が整った。それと同時、地面も迫ってきており……数秒もしないうちに着地する事になるだろう。


推定の落下点の近くには『白霧の森狐』が待機しているのが見える。

だが、それだけだ。それだけならば対応は幾らでも可能だ。


「――【狐霧憑り】、召喚」


着地と同時、私はそれを口にした。

だが体勢をきちんと整える前に、霧の槍がこちらへ向かって殺到する。


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