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Chapter7 - Episode 38


少しして。

私は夢中で動かしていた手を止め、等級強化を完了させた。


「完成しました」

『では試しに?』

「えぇ、封印は……大丈夫そうですね。巫女さんのエリアで試してきます」

『……大丈夫ですか?』


心配そうな巫女さんに、私は笑いかける。

恐らく、私が本調子ではない事を心配しているのだろうが……問題ない。

否、正しく新しくなったこの魔術が機能するならば封印など関係がない。


「じゃ、終わったらそのまま行ってきます」

『えぇ……お気をつけて』


私はボスエリアを後にして、『白霧の狐憑巫女』の再戦エリアへと向かう。

足取りは軽い。



数十分後。

劣化ボスとの戦闘を終えた私は、上層のボスエリア……『白霧の森狐』の社へと続く道の前に立っていた。

狐面の封印は解け、HPもMPも、装備も万全の状態だ。

……よし、行こう。


一歩一歩、前へと足を進める。

いつも通りのボスエリアへと続く道。

しかしながら、何処かいつもとは違う空気が漂ってきている。

この先に居る狐も分かっているのだ。

今日はいつもの和気藹々とした歓談の場ではなく、殺伐とした試練の場になることを。


しばらくして、私はボスエリアへと辿り着いた。

白く巨大な狐が行儀良く座り、こちらを見据えている。


「やぁ」


あくまで自然体で話しかけた私に対し、向こうは無言。

そんな態度に軽く笑いながら、私は言う。


「試練、受けにきたよ」

『……資格は充分。我と出会った時とは見違えたな』

「当然。初心者だった頃と比べないでよ」


『面狐・始』を抜き、しかし構えない。


「試練、受けれるんだね?」

『あぁ。これより行う試練は、狐の女子が先へと手を伸ばす為の物。地の力を引き上げる物』


白狐は立ち上がる。

いつもよりも巨大に見える姿は私の目には威圧的に映った。


これまで『白霧の森狐』と戦った事は何度もある。

それこそ再戦エリアでの戦闘も含めればキリがないが、彼の意志が宿っている状態での戦闘は約4度ほど。

私が初心者でしかない時に。その後、劣化ボスとして。

次に辻神の件。そして最後は記憶に新しい、瘴気に浸食された時の事。

劣化ボスの時は置いておくとして、それ以外の全てで私は彼を内側から壊す事で倒している。

まともに真正面から戦った記憶が一切ないというのが中々に私らしいと言えば私らしいのだが。


『さぁ見せよ、視せよ、魅せよ。この場、この試練の場において、我は神の代わりとなって貴様を審判しよう』

「偉そうに言わないでよ。結局やるのは殺し合いなのに」


そう言った瞬間、視界が一瞬白く染まり。

次に色が戻った時、私と『白霧の森狐』が立っていたのは境内ではなく……どこか空を感じさせる、まっさらで何もない空間だった。

パッと見る限り果てや障害物といった類は存在せず、私達以外の生物も見当たらない。

ただ空には雲一つない青空が広がっているだけ。


【試練が発生します】

【該当プレイヤー:アリアドネ……承認】

【担当NPC:『白霧の森狐』……承認】

【試練内容:『白霧の森狐』を討ち倒せ……承認】

【試練を開始します】

【5】


ウィンドウが出現し、カウントダウンが始まる。

私は狐面をしっかりと被り、『面狐・始』の柄を軽く握った。

……大丈夫、勝てる。勝てるって信じてる。

1つ息を吸い、そして大きく吐く。


【4】


『白霧の森狐』に特に変わった様子はない。

今回は正真正銘、一番最初に出会った時以来の彼との戦いだ。


【3】


対して私は、見た目も中身も大きく変わった。

武器も、防具も、狐面も、魔術も、技術も。

彼と戦う前とは大違いになった。


【2】


これは試練。白狐は審判と言った。

だけど、私にとっては少しばかり違う。


【1】


これは試練ではなく、成長を見せつける為のモノ。

言うなればちょっとしたテストのようなモノ。

試練なんて大層な言葉なんて似合わない、学校の小テストのようなものだ。

だから、


【0】

【Ordeal Start】


「満点取るしかないよねぇ?」


瞬間、場に濃い霧が満ちる。

私と『白霧の森狐』が戦う為に霧を放出したからだ。

お互いに基本的な能力を霧に依存しているのだから当然の初手。

だが、次の一手は違う。


『白霧の森狐』は四肢に力を込め、弾丸のような速度でこちらへと駆けてくる。

身体には何かの魔術を使っているのか、霧で出来た甲冑のようなものをいつの間にか身に纏っている。

巨体を活かしたチャージであり、普通に受け止めようとするだけ無駄の力任せの一撃。

一瞬で彼我の距離がゼロになる……ものの、それは当たらない。


「危ないな」


寸での所で私はそれを避け、逆に大きく距離を取る。

足に『脱兎之勢』を展開する事で、私自身の機動力を底上げし……あとは勘。

こいつなら最初に真っすぐ突っ込んでくるだろうなという、ある種の信頼と共に私は身体を動かしていた。

……あっぶなぁ……!

内心、今の一撃で終わっていたかもしれないと思い死ぬほど焦りながら。


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