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Chapter7 - Episode 37


【魔力付与】。

発動と同時に、手に持った武器に魔力の膜を張る事で攻撃力を高める魔術であり、私がArseareに降り立って最初に創った魔術でもある。

私のイメージと、システムの許す限りの形状変化を行う事が出来、その形は太刀や槍、盾など多岐に渡る。


最初の頃は、それこそ木の枝や素材などに使っていたものの、途中から武器のみという制限を付けたものの……今でも汎用性の高い魔術ではあるだろう。


……で、この魔術をどう改良するかだけど……。

魔力の膜を張る、と言う効果は中々便利であってそこを変えるのはしたくない。

だが、現状……強力とは言い難い魔術でもあるのだ。

何せ、他に私が習得している魔術に攻撃的なモノが多すぎる。


例えば【衝撃伝達】であれば、きちんと相手に当てる事が出来れば内部から破壊する衝撃波を発生させる事が可能。

【血狐】は言わずもがな、体内に入れば防御不可能の重症を与える事ができる。

【血求めし霧刃】は今や私の持つ武器を複製する為に、当て続けるだけで『面狐・始』によるラッシュを再現可能だ。


攻撃魔術ではないものの、【霧式単機関車】なんかは車両と敵が接触するだけで大ダメージを与える事が出来るし、何なら自律運行が出来る。

【血液感染】など【血狐】味方から忌避される程に面倒なものだ。


それらと比べると、やはりインパクトが薄く……殺傷力も低い。

幾ら切れ味が鋭くなろうが、一度防がれればそこで効果が切れてしまうのだから当然だろう。


「どんなのがいいかなぁ……」

『あ、でしたらそれ自体を纏う、なんてどうですか?』

「纏う……ですか?」

『えぇ。霧狐ちゃんみたいに』


【狐霧憑り】自体は私が服のように纏えると良いな、と等級強化時に編集した為にあの形になったものだ。

だが、それを【魔力付与】でするとなると……イメージが出来ない。


「……うーん?」

『例えば……そうですね。あの狼の子も、魔術で大きな狼になっていたでしょう?アレと似たようなモノですよ』

「あぁ、成程」


巫女さんが言いたいのは、フィッシュが以前このボスエリアから上層へと運んでくれた時の事だろう。

確かにあの時の彼女は、魔術によって私1人を余裕で乗せる事が出来るほどの大きな狼と化していた。

魔術によって狼の姿の魔力を纏い、思う通りに動かす。確かに方向性としては【狐霧憑り】に近いものなのかもしれない。


「でも【魔力付与】を基に……いや、魔力の膜って考え方が悪いのかな……もっとこう……フィッシュさんの魔術は『元の姿に戻る』みたいな感じだったし……」


思い返せば、似たような例は他にも存在する。

例えば、灰被りの使った【灰の女王】。そしてその派生だという【灰の姫騎士】だ。

周囲に対しての影響が強い為に忘れがちだが、アレもまた魔術によって違う姿を纏っているといっても良いものだろう。

あれらと似たような、というと私が創る意味がない。

あくまで私の普段の方向性で、尚且つ【魔力付与】という魔術の特徴を残したものを。


そう考え、1つ思い当たるものがあった。

私の名前だ。

現実の名前ではなく、今このゲーム内で使っているアバターの名前。

……リアルの名前からちょっと変える為に探したら出てきたんだっけ。


アリアドネは現実では、かのギリシア神話に登場する娘の名だ。

ミノタウロスを退治するために迷宮へと乗り込もうとしたテセウスに対し、命綱よろしく糸玉を渡し、それを辿る事でテセウスは帰ってくる事が出来た。

その事から、アリアドネの糸は困難に対しての道標という意味合いがある言葉となった。


「よし、決めた」


方向性は決まった。

ではそれを実行に移すだけの事。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【魔力付与】の等級は現在『中級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『霧人の刃片』、『狐憑巫女の刃片』が規定数必要となります……規定数確認】

【【魔力付与】の強化を開始します】


目の前に魔導書が出現する。

他の魔術とは違い、【魔力付与】の魔導書は霧術でも血術でもない。

まっさらな、専門性の無い普通の魔導書だ。

だからこそ、弄り甲斐があるというもの。

私は少しばかり頬を緩ませながら、出現した羽根ペンを握った。


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