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Chapter7 - Episode 36


こちらへと迫ってきた剣持ちのミストヒューマンに対し、私は最低限の霧の操作を行いながら【衝撃伝達】を使って距離を取る。

ミストヒューマンはその身に他のモブを霧化させた上で纏う敵性モブ。

だが、その纏う能力自体は私にとって特段面倒な能力ではない。


『ッ?!』

「今回はタコかぁ」


ミストヒューマンの周囲の霧を、文字通り霧散させていく。

すると、だ。

霧散した霧が実体を持ち、バラバラになりながらタコ……ミストオクトパスが出現すると同時に光となって消えていく。


こうなってしまえばミストヒューマンを恐れる必要など何もない。

いつもよりも簡易的に展開した『脱兎之勢』によって緩く、しかしながら獣人の膂力をもって肉迫しその首目掛けて『面狐・始』を横に振るう。

急に詰められた為か反応出来なかったのだろう。三本の傷が首に刻まれ、そのまま光となって消えていった。


「さて、と。こっちは終わったけど……」


少し離れた位置……いつもならば見える位置。

しかしながら今は白く濃い霧に閉ざされている為、しっかりと見通す事が出来ないダンジョン内を見つつ、私は一つ息を吐いた。

新しく等級強化し、元から名称が変わった魔術【血求めし霧刃】の悪い所が浮き彫りになった為だ。

実際の戦闘ではあまり使用感自体は変わらない。

だが、それ以外……追加で加わった特性が今回の場合曲者だったのだ。


効果範囲内で血を流した者が居る場合、その相手に対して自動ターゲティングするという能力。

これが本当にダメだった。

何故なら【血狐】を出した状態で【血求めし霧刃】を使えば、私の操作を受け付けずに全てが【血狐】へ。

【血求めし霧刃】を使った状態で【血狐】を出せば、出している途中で私へとターゲティングされてしまう始末。

つまるところ、この魔術を使うと決めた場合。

私のほぼメイン魔術と化してきている【血狐】がほぼ使えないという欠点が出来てしまったのだ。


「……んー、【血液感染】とかは大丈夫なんだけど。やっぱり出してる液体ものの差かな」


同じように『血』の文字が入っている【血液感染】。

こちらは何の問題もない。

恐らく【血狐】が血液によって構成された魔術であるのに対し、【血液感染】は病魔を作りだすという魔術という違いがあるからだとは思うのだが……それでも、少しばかり使い勝手が悪いのは確かだった。


『――終了』

「お疲れ。【囮鳥】はどうだった?」

『――有用、操作必須』

「成程ねぇ」


という事で、メインでの確認は【囮鳥】に絞る事にして戦闘を行っていたのだが。

こちらもこちらで難航はしている。

現状、私の狐面が封印されているのも理由ではあるのだが……それ以上に。

単純にワシを操作するのが難しいのだ。

翼などを動かして……というのは必要ないのだが、少しでも気を抜いて操作を行った場合、霧が早すぎて【囮鳥】のヘイト集中効果が上手く使えない。

それならば動かすのを魔術側に任せると……それはそれで、動きがゆったりすぎて敵性モブに追いつかれてしまい意味がない。


……最低限、『狐軍奮闘』みたいに『氷の生成』でも仕込んでおかないと無理かな。

戦闘中、私のリソースを【囮鳥】に割けるのなら兎も角として、そんな余裕が生まれるような状況ならば【囮鳥】を使わなくても良いだろう。


【血求めし霧刃】も【囮鳥】も、狐面が封印されている状況でしか使っていない為、私の普段の霧操作能力でどうなるかによって評価が変わるだろうが……それでも、良い顔は出来ない。


「練習と……あとは使い方。霧の見通しも含めて現状じゃ評価できかねるって感じかな」


そう言いながら、私は【霧式単機関車】を呼び出し巫女さんのボスエリアへと戻る事にした。

当然、自分では動かない。自分の方向音痴と現状の霧が見通せない状況を考えると下手に動いたら戻る所か深層の行った事がない所まで歩いていきそうな気がしたからだ。



「……という事で戻ってきました」

『それで沢山の動物みたいな霧と一緒に……』


という事でボスエリア。

巫女さんが言うように、私の周囲には現在、多種多様の霧で出来た動物達が闊歩していた。

普段から作っては遊んでいる狐から、今回の課題であるワシ。

ダンジョン内で見かける狼に、大蛇、ネズミにウサギ。

それと最近作ったロバなど……ちょっとしたふれあい広場のような状態だ。


「実際、これ結構集中力使うんで……あっ消えた」

『それぞれに個別の動きをさせた上で動かし続けるわけですからね。単純に処理能力が上がるでしょう』

「そうですそうです……さて、これやりながらやりますか」


一息ついた後。

私はボスエリアに戻ってきた本当の理由である最後の等級強化……【魔力付与】に関して考える事にした。


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