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Chapter7 - Episode 42


私が行使した魔術は、少しというには特殊であり。

だがこれだからこそ私の魔術だと言える代物に仕上がっていた。


糸を何本か操り、首を含めた出血している部分に巻き付け止血する。

少しばかり息を吸うのが苦しくなったものの、もう関係がない。

少ししたら私はデスペナルティとなるのだから。


「最初は狐になろうかなって思ったんだ」


抑えていた白狐の足を徐々に上へ上へと糸が持ち上げていく。

思っている以上に糸の力が強いのか、それとも呆気に取られているのか白狐はそれに抵抗する事が出来ない。


「でもさぁ、私。狐以前にアリアドネだからさ?」


今も白狐が纏っている雷電、霧の甲冑のどちらもが効果を発していない。

糸が焼き切れず、転移させようにも私と直接繋がっているわけでは無い為に意味がない。

この糸は正しく言えば、攻撃手段でも・・・・・・防御手段でもない・・・・・・・・からこそ、恐らく白狐が他にも用意していたであろう対策が機能していない。


――――――――――――――――――――――

【偽霊像:アリアドネの糸】

【魔力付与】


種別:特殊

等級:上級


主行使:発声(詠唱)

副行使:動作(上から下に振るう)


主制限:【戦闘以外の用途を禁じる】

副制限:【戦闘以外の用途及び、武器以外での魔術行為を禁じる】


主効果:主効果使用時、行使者が発動中の魔術は全て解除され、一定時間後デスペナルティとなる

    {(解除した魔術数×2)+プレイヤーレベル}/2の本数の魔力の糸を出現させる

    解除した魔術の内、1つを選択しその魔術の効果を魔力の糸に乗せる事が可能

    行使中、行使者に対し『導き』を永続付与

    行使中、他の魔術を行使する事は出来ない

副効果:手に持っている道具に対し、ダメージ判定の発生する魔力の膜を張る

    魔力の膜の形状を変化させることが出来る

    ダメージ:道具の本来持っている攻撃能力+(自身の精神力の値)


詠唱:『我は望む』

『我が名、我が祖』

『その力を我は望む』

『我が血を、術を、そして魂を対価に』

『故に、我は祖の名を騙ろう』

『今は偽りである祖の名は』

―――――――――――――――――――――


――――――――――

Tips:『導き』


汝、怪物を狩り帰還する者也

汝、この糸を以て命を繋ぐ者也


――――――――――


現状、私にも全容が理解できていない魔術ではあるものの。

強化終了後に詳細を見た私が思ったのは、『まだ【魔力付与】は使えるのか』という安堵だった。

分かりにくいが、結局の所、この魔術は2つの効果に分かれている。

1つは、私が今操っている魔力の糸を出現させる効果。

そしてもう1つは従来の【魔力付与】の効果だ。

しかしながら、どちらかを使っている時にはもう片方は使えない。


だからこそ、糸で拘束したとしても白狐を【魔力付与】によって倒す事は出来ない。

だが、そこに関してはあまり心配していない。


装填セット


私は指を銃のように見立て、人差し指を白狐へと向ける。

何やら逃げようと藻掻いているものの、魔力の糸は逃がさない。否、逃げたところで意味がない。

この糸のモチーフは『アリアドネの糸』……道標の糸なのだから。


弾丸ブレット【血狐】」


宣言すると同時、私の周囲の糸から赤黒く染まっていく。

そしてそれが全体に行き渡った所で、私は軽く微笑んだ。


「BANG!」


そして、撃つ。

私が指の銃で狙っていた場所へと、赤黒い糸が殺到し触れていく。


『……?は、ハハッ!不発か!』


しかし何も起こらない。

白狐の身体の中へと糸が繋がっていくだけで、不調をきたす事も身体に傷が付く事もない。

私の事を笑いつつ、足に巻き付いていた糸も身体に吸い込まれたからか『白霧の森狐』は私の『面狐・始』が最低限届かない位置へと移動する。

そしてそこから、霧と雷電を纏わせた氷の槍を複数空中に出現させ、こちらへと放とうとして……身体をびくんと震わせた。


『……ごふッ』


白狐の口から、血が漏れる。

否、それは血ではなく、糸。赤黒く細長くなった糸状の狐達が口から漏れ出しているのだ。

だが私はそれを見ても動かない。動けない。

他の魔術が使えず、何なら魔術言語もそれに含まれているのか使えない。

私の強みであるものが使えないのだから、巨大な獣に対して走っていくわけにはいかない。


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