目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

ShortStory1 - Episode 1


【始まりの街】。

Arseareというゲームに最初にログインする時に、必ず足をつけることになる街だ。

現在見つかっているゲーム内の街の中でも最大の大きさを誇るこの街には、様々なコンテンツを体験できるようにと、様々な用途の店や施設が存在している。


私が現在居る喫茶店もその1つ。

ゆったりとした雰囲気が流れるバーのようなそこは、もしかしなくとも夜にはバーに代わるのだろう。

飾られている酒瓶をちらと目で追いながら、人を待つ。


カランコロン、という音と共にこちらへと向かって歩いてくる足音が聞こえた。


「意外と良い所知ってるじゃない」

「ふふ、味覚も再現されてて人が少ないってなるとここくらいしかなくてね。さ、座って座って。立ってるのも何だし」

「……まぁ、遅れたアタシがとやかく言う事じゃないわね。はいはい座ればいいんでしょう?」


私が穏やかに笑うと、少しだけ毒気が抜かれたような顔をした後、しぶしぶと私の対面へと座る男性……何故かシスターを思わせる服を着ているキザイアは、NPCのウェイトレスに適当なものを注文すると、真面目な顔をしてこちらへと視線を向けた。


「で、今回は何の用よ。割とこれでも忙しいのよ、アタシ」

「いやぁ、少しだけ聞きたい事というか……多分色々知ってるだろうなってのがキザイアくらいしかいなくてさぁ」

「……何の話よ」

「ほら、このArseareってゲームは魔術ってものを創ったり、使ったり、操ったりしてるわけじゃん。で、そういえば魔術って色々と種類があるって聞くけど詳しくは知らないなぁと思ってさ」


そこまで聞いたキザイアは額に手を当ててため息を吐いた。

私が彼を選んだ理由は簡単。

彼の名前の元ネタが魔女だからという安易なもの。

それこそ、灰被りや……バトルールなんかも知っていそうな内容ではあるものの、態々魔女の名前を騙っている知り合いがいるのだ。そちらに聞いた方が色々と早いだろう。


「ある程度理解はしたわ、考えたくはないけど。……で、何処から話すのが良いわけ?全部っていうのはナシよ。流石に面倒だわ」

「じゃあまず最初に、魔術と呪術の違いからかな。正直名前の違いくらいしかわかんないんだよ」

「はぁ……本当、なんでアタシこんな子に負けちゃったのかしら……」


運が悪かったからだろう。

それはさておき。実際の所、魔術と呪術の違いに関して良く理解出来ていないのは事実だ。

何をもって魔術と呼称するのか、何が呪術と称するのが適当なのか。

それが分からなければ今後苦労するであろうことが容易に想像できてしまうのがこのArseareというゲームなのだから。


「まず、魔術についてね。……まぁ色々とあるんだけど、簡単に言えば不思議な技を使う事の総称を魔術っていうのよ。もう一つ、魔法に関しては……必要?」

「できれば」

「……魔法っていうのは、魔術の枠から外れている物ね。魔術が人に扱えるものならば、魔法は扱えないもの。それに則るしかないの」

「……どういう事?」

「なんていえばいいのかしらね……ほら、重力ってあるでしょう。アレと同じなのよ。『魔術はこうでなければならない』、みたいな法則が存在するわけ。それが魔術の法則……略して、魔法ってわけよ。分からなければ今はそういうものだって考えておいた方がいいわね」


予想以上に真剣に授業が始まり、少しだけ面食らったものの。

内容自体はわからないものではない。

……この言い方だと、多分近いうちに私の方でも魔法についてのチュートリアルとか入る感じかな。


そして使われる言葉から察することもできる。

今現在、私よりもゲーム内の進捗が進んでいると思われるキザイアの口から、私の方では欠片も話題が出ていない魔法について『今は』そういうものという認識でいいという言葉が出たのだ。

つまりは、キザイアに近づくにつれそういった新コンテンツが解放されていく、ということ。


「成程。じゃあ呪術ってのは?」

「そっちは簡単……とは言えないんだけど。魔術が不可思議な事を起こす術なら、呪術は超自然的な事を起こすための術、と言った方がいいかしらね。呪物と呼ばれる呪われた物や呪文なんかを使って、その場で自然に起こり得る事を引き起こすのが呪術なのよ」

「……それって、魔術と何が違うの?」

「変わらないわよ、基本的には。名称だけの違いとして認識されていることも多いし、それこそ魔法も含めて全部英語にすればmagicだし。でも呪術の方は2種類に分けられて考えられる事が多いわね。……魔術も系統分けするとなるとかなりの数にはなるんだけど」


呪術。

イメージ的には相手を呪ったりして不幸に陥れるのが目的の術だ。

他にも、ゲーム的に言うならば呪いとか怨念とかを操り攻撃するようなもの。

だからこそこのArseareで実際に呪術というものが存在しているのかは気になっていた。


「……ん?じゃあもしかして【創魔】で創れたりするの?呪術って」

「作れるわ。まぁその分特殊な……って多分アンタなら知ってるか。系統として呪術ってのがあるみたいね」

「へぇ、成程ねぇ……」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?