俺は文章を打ち終えて、皆が要望書の書類を読んでいる間、一番最初に読み終えた延岡理事と松尾さんと俺で雑談を始めた。
ちなみに荒巻さんは、ノートパソコンの画面で要望書を読んでいる。
松尾さんが読み終えて率直な意見を俺にぶつけた。
「普通の子はね、男子でも、この状況だと気が動転して、こんな文章を書けない学生も多いけど、サラッと書いてしまうのが凄いね。しかし、あの文化祭のトークイベントが裏目に出てしまって、学生達から声をかけられた影響で、三上くんも霧島さんも目立つから、闇サークルから狙われやすい格好になってしまったのだね…。」
「松尾さん、私や陽葵は、朝から大変でしたよ。学生たちからズッと声をかけられっぱなしで、人によっては握手を求められたりするから目立ちました。陽葵は経済学部のキャンパスは本館の隣だし、もっと酷かったようです。それに、駅の構内でも、すれ違った学生から相次いで声をかけられるから、見張りに集中できずに警戒ができないし、相手にとっては、見つけやすかったと思います。」
それを聞いた延岡理事が溜息をついた。
「行動心理学専攻の学者肌で声が大きい理事がいたりすると、理詰めになるから、こういう馬鹿な事態になるのだ。明日の理事会は荒れると思うが、三上くんたちが警察に保護された挙げ句、被害学生の生の声が書かれたこの要望書があれば、もう、黙りざるを得ないだろう。ここに書かれているとおり、カルトに洗脳されている相手に、一般常識や普通の子の心理なんて通用しないからな。」
俺は長い溜息をついて延岡理事に少しだけ聞いてみた。
「延岡理事。その理事の名誉のために、名前なんて聞こうとは思いませんが、文化祭のトークイベントを許可したのも、嫌になるぐらいの学生から声がかかって目立ちまくって狙われやすい環境を作ってしまったり、それに、私や霧島さんの学生委員会入りを支持したのも、その理事が主な原因でしょうか?」
「うむ、その通りだが、学生委員会に関しては半分ぐらい私の責任もある。明日の理事会は、最初は相当に荒れるが、その理事は完全に失敗を認めて折れるだろうね。それと三上君の寮内の仕事の忙しさが、今日は理解できたので、事件解決後に学生委員会を抜ける理由も分かるが、事件の長期化も懸念されるだろうから、しばらくは名前だけでも在籍して欲しい。」
学生委員に関しては、小さくうなずいたが、相当に面倒臭いし、かなり負担がかかるので、俺は即座に辞めたいことをグッとこらえて、みんなが提案書を読み終えるまでジッと待った。
そして、これを読み終えた棚倉先輩から、率直な感想を俺に言ってきた。
「三上よ、かなり踏み込んで書いていると思うぞ。しかし、いかがわしい店が並んでいる中で、仲村はよく尾行犯を出し抜いて、うまく警察署に飛び込んだな。仲村は、友人のせいで、あの手の店でバイトをしていた話を新島から聞いていた。バイト代は高かったけど、まぁ、ちょっと教育上はまずいわな…」
「先輩、仲村さんの件はともかく、このさい、隠しても仕方がないので、実情をそのまま書いてしまったほうが、俺しては気持ちが良いですよ。それに、今回の件で分かったのは、理事たちが考えている対策と、俺たちが大学に求めている対策の乖離が凄まじくて、当事者の俺たちが困惑していますからね。一部の理事には、俺たちを研究判断材料で使うのは勘弁して欲しいし、俺や陽葵の身の危険もあるから、学術よりも俺たちの命を優先させて欲しくて書きましたよ。」
俺の発言に、延岡理事や延岡さん、高木さんや荒巻さん、松尾さんが拍手をしている。
「三上君、その言葉をその理事に会って、そのまま強い言葉でぶつけてもらいたいが、巻き込まれると大変な事になるので、私が君を守るのが明日の仕事になる。」
「理事、ありがとうございます。それと、寮の幹部の皆さんには、一週間もいないことで受付や色々な細かい仕事に負担がかかると思いますが、埋め合わせは何処かでしますから、どうか、今週は耐えて頂きたく…」
俺がそう言うと、先に村上が俺に前に来て首を振った。
「三上、そんな気を悪くするな。お前はやるべきコトをしっかりとやってるし、こうなった以上、奥さんを守って大学に連れて行くことが使命だからな。あいつらに追われなくても、あれだけしつこいぐらいに声をかけられれば、お前が守らないと奥さんが参ってしまうよ…」
続いて棚倉先輩も前に進み出た。
「そんなに気にするな。今は諸岡もいるし、村上もいるから、なんとかなるだろう。俺も今は院試や卒論で色々と面倒だが、合間をぬって受付ぐらいはやろう。それに、もう、文化祭の報告書を出した時点で、お前は十分に役割を果たしている。」
「三上寮長、あまり気にしないで下さい。怪我をして入院していた時も何とかなりましたし、今は村上さんもいるから大丈夫ですよ。」
諸岡が俺にそう言ったところで、俺は大きくうなずいて、皆に感謝を述べた。
そして、緊急の寮長会議は散会になったのである。
◇
俺たちは高木さんの旦那さんの車で、最寄りの駅まで送られていた。
最初に泰田さんや守さんが、別の駅の近くで降りて、既に泰田さんのお母さんと守さんのお母さんが駅まで迎えに来ていた。
泰田さんや守さんの母親と、高木さんや俺も交えて、今回の案件の詳しい話をすると、2人は安堵した表情をした。
そして、守さんのお母さんは俺の背中を思いっきり叩いた。
「三上さん!!。これで負けちゃ駄目よ。絶対に霧島さんを守らなきゃ!!。和奏(守さん)も、結菜ちゃん(泰田さん)も、明日から1週間、一緒に霧島さんを守るために付き合うわ。そして、金曜日の夜は実行委員チームのコンパをするわよ!。」
俺はそれについて、高木さんにNGを出されそうだから、とっさに予防線を張った。
「高木さん、監督とコーチが見ていることや、陽葵は泰田コーチの車で送り迎えする態勢なので、大丈夫だと思いますが…」
高木さんは苦笑いしながらうなずいた。
「たぶん、このあたりは闇サークルにバレてないから、今のうちよ。そういう息抜きが大切になるから、私は理事達に黙っておくから大丈夫よ…」
泰田さんや守さんの親子と別れて、しばらく車に乗っていると、陽葵の最寄りの駅についた。
俺たちが車から降りるときに高木さんが声をかけた。
「2人は駅前で大丈夫よね。ゆっくりしてから家に戻ってね。三上くん、霧島さんは気持ちが疲れていると思うわ。しっかりと三上くんの愛情で癒してあげなさい…」
高木さんの言葉にうなずくと、高木さんは手を振って車に乗り込んで、車が動き始めた。
俺と陽葵は車が見えなくなるまで見送ると、陽葵が俺の右手に抱きついて少し体を寄せた。
「恭介さんがいなかったら、私たちは、あんな人たちに襲われていたかも知れない。怖かったわ…。でもね、恭介さんがいたから、みんな勇気を出して頑張ってくれたのよ。」
陽葵の泣き出しそうな顔を見て、俺は頭をなでるのが精一杯だった。
ここで、陽葵を抱きしめてしまいたかったが、人前では恥ずかしすぎて流石に無理だった。
俺と陽葵は一緒に手を繋ぎながら陽葵の家の方に向かっていった。
ただ、途中から陽葵が手を引っ張って、いつもとは違う道を歩き始めた。
空を見上げると、夕暮れで、うろこ雲まで綺麗に赤く染まっていた。
「恭介さん、気分転換に、家の近くにある公園に行きたいわ」
陽葵の気持ちを考えると、ここは否定できない。
しばらくすると、少しだけ大きな公園が見えて、子どもたちも今日は学校があるから、遊んでいる姿もなく、閑散としていた。
俺と陽葵は公園の中に入ると、陽葵の腰に腕を回した。
陽葵は俺に体を少しだけ寄せて微笑んだ。
「恭介さんが暖かいの。わたし、恭介さんがいれば、どんな事があっても乗り越えられそうな気がするの。これから、恭介さんは坪宮さんが言うとおり、茨の道が待っているかも知れないけど、こんなコトなんて序の口かも知れないわ…。」
「陽葵、男として、陽葵を守りたいから、できる限り厳しい道は選びたくないけど、たしかに俺の将来は順風満帆ではないと思う。ただ、それでも、陽葵がついてきてくれるのは分かっているから、できる限り必死にやって、もがいて頑張るよ。そして陽葵を生涯、愛したんだ。」
その決意を聞いた陽葵は、完全に体を俺に寄せながら嬉しそうにしていた。
「恭介さん。わたしは絶対にあなたについていくからね。何があっても離さないわよ。辛くてもわたしは絶対についていくからね…」
それを聞いて、陽葵を生涯、愛する覚悟を決めていた。
だからこそ、若い時は苦労しても、年を取る頃には、陽葵を楽にさせてあげたいとも考えていた。
俺たちは、そんな話しながら公園をぶらついていた。
そしたら、近くに、陽板町でみたようなホテルが、ふと見えた。
陽葵も同じ建物が見えたらしく、顔を赤て微笑んだ。
お互い、思っていたことは一緒だった。
ここは俺から話を切り出した。
「今は陽葵を激しく抱きたい。陽葵はいいか?。まだ、時間はあるし、7時ぐらいまでに家に戻っていれば大丈夫だよね…」
なんで、こんなに自然に話が切り出せたのか、ちょっと不思議だったが、これは俺が陽葵と付き合うときに周りが、陽葵と俺をくっつけるように、お膳立てをしすぎて、内心は困っていた心理があったのが原因であった。
でも、この状況は自分で作り上げたものだったから、陽葵に対して凄く積極的になれたのだろう。
陽葵は即答だった。
「はい♡。今日のことを忘れるぐらい激しく抱いて♡。もう、わたしを滅茶苦茶にしてほしいの♡。ここは最近になって、できたホテルよ…。今までは見たこともなかったもの…。」
しばらく歩くと、そのホテルは、人通りの少ないところにあった。
ホテルは新しくできたばかりで綺麗だったが、なにぶん、陽葵も俺も、こんな場所に入るのは初めてである。
中に入って、俺たちはキョロキョロしながら、部屋を選ぶボタンを適当に押して入ると、俺も陽葵も、激しく愛し合う前に、この部屋の中にあるものに興味が及んだ。
俺たちは冷蔵庫の中のお茶を取り出して飲むと、最初にお風呂にお湯を入れた。
どうやら、豪華すぎるジェットバスで光るような風呂らしく、陽葵はスイッチを確認してクスッと笑った。
「恭介さん♡。なんだかお風呂に入るのも楽しそうだし、今まで、こんな所に入ったことがないから、この部屋の中が気になってしまうわ…。」
俺は静かにうなずいた。
「俺も当然、初めてだから、何があるのか凄く興味があるよ…。でも、目の前にいる綺麗な陽葵を抱きしめたくて仕方がないから困っちゃった…」
「ふふっ♡、それは、わたしもそうよ♡。恭介さん、大好き♡」
俺と陽葵は互いに服を脱がせると、抱き合って激しいキスをした。
そして、一緒にお風呂に入ると、陽葵が興味津々でジェットバスのスイッチを入れた。
「なんだか面白いけど、ちょっとだけくすぐったいわ…。なんだか、そんな気分にさせそうな感じよね。」
陽葵を少しだけ風呂の中で抱き寄せると、互いに見つめ合って微笑み合うのが何度も続いた。
風呂もそこそこにして出ると、互いの愛の感情が限界に近かった。
そこからは、皆さんの想像にお任せするが、ここで恭介と陽葵は、激しく何度も結ばれたことは確かである。
ここは、陽葵の家とは違って、激しく愛している時に声が出ても誰にも聞かれないし、大きな声で何度も互いが名前を呼び合って、激しく何度も愛しあった。
それは時間を忘れるほどに続いたのだった…。
◇
俺たちがホテルを出ると、ちょうど夜の7時頃だった。
そして、陽葵は、俺と手を繋ぎながら陽葵の家までの道を案内しながら歩いていった。
「恭介さんと一緒なら、道が暗くても一緒に歩けるわ。親たちが帰ってこないうちに、早く帰りましょ。家で少しゆっくりして、少し気持ちを落ち着かせないと、また、恭介さんを欲しくなってしまうわ…♡。」
「俺も、陽葵がまた欲しくてしかたがない。今夜も激しく抱きしめたい…」
陽葵の耳元でそっと本音を吐くと、陽葵は少しだけ顔を赤らめて、俺を後ろからキュッと抱きしめて、再び歩き始めた。
「もぉ~~♡。恭介さんのエッチ♡。わたしも激しく抱かれたいけど、でもね…♡。寝るときまで、お・あ・ず・け・よっ♡」
こうなったら、2人の爆発的な愛に関して、誰も止められなかった…。