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第113話、聖女と出会う仲間たち


「探しましたよ、ラトゥン」


 エキナは武装神官を葬ると、朗らかな笑みを浮かべてやってきた。待ち合わせしたのに来ないので心配しましたよ、という顔である。

 日は相当傾き、間もなく夜となる。ラトゥンは、これでは仲間たちが探しにくるのも仕方ないと自嘲した。


「ちなみに、ここはどこだ? 村の中ではなさそうだが」


 改めて当たりを見回せば、自分たちが出てきた地下出口以外、木々に囲まれた空き地のような場所で、民家は見当たらなかった。


「そうですね、村の外ですよ。そっちの林を抜けると、村が見えます」


 エキナは明朗に答えた。ラトゥンは頷く。地下をだいぶ歩いたが、やはりというべきか、村の外まで通じていたらしい。


「それで、ですね……」


 つかつかと、エキナが早足でラトゥンに詰め寄った。顔は笑っているが、何故か圧迫感があった。


「どうして、あちらに聖女様がいらっしゃるんです!」


 声を落として、聖女――アリステリアに聞こえないに、かつ離れている彼女にわからないように問いかける。


「わかる?」

「聖女様のことですか? ええ、見ればわかりますよ! わからないのは、どうして王都にいるはずの彼女が、ここにいるかってことです……!」

「あのー、もしもーし」


 そのアリステリアが、こちらに声をかけてきた。反応してエキナが振り返り、ラトゥンもそちらを見れば、聖女は手を振っている。わたくしのことを忘れないで――と言っているようだった。


「場所を変えよう」


 ラトゥンは提案した。武装神官に扮した悪魔たちの死体がある中で、立ち話もなんだから。


「そこに空き家があります」


 エキナは林の向こうを指さした。


「たぶん、空き家です。ひとまずそこで詳しく聞きましょうか」

「……ギプスたちと合流するのは駄目か?」


 どうせそちらでも同じ話をする羽目になりそうだからと、ラトゥンは提案したが、エキナは笑顔のまま。


「聖女様がどういう立ち位置か把握してからです。……ほら、クワンさんは聖女様に用があるので、絶対話の腰を折られますって」

「……それもそうだな」


 ラトゥンは同意した。アリステリアは疲れたのか、その場でしゃがみ込んで、こちらの様子を眺めていた。



  ・  ・  ・



「――空き家だって?」


 ラトゥンは、エキナに誘導された家を見回して、口を曲げた。

 明らかについ先ほどまで人がいたのがわかる。誰かがいて、生活していた。しかも、聖教会に関係する品や祭壇、神官服などもある。


「空き家ですよ。空き家になりました」


 エキナはまったく悪びれない。


「村で、武装神官を見かけたので、後をつけて始末しました。だから空き家です」

「……」


 表にいたカラド神父とその部下も全滅したので、空き家確定だろう。どうやらここが、彼らの隠れ家、拠点だったようだ。井戸の底に落としたアリステリアが戻ってくるまで、じっくり待つための。


「ということで」


 エキナは改まると、アリステリアに一礼した。


「ご無礼を、聖女様。このような場所でお会いするとは思いませんでしたが」

「……ええ、またお見かけするとは思いませんでした、しかもこのような場所で」


 アリステリアが教会の人間らしく振る舞いながら言えば、エキナはわずかに驚いた。


「わたしのことをご存じでしたか?」

「ええ、直接話したことはありませんが、以前、王都で何度かお見かけしました。……仮面、つけていらっしゃいましたね?」

「! ……はい」


 処刑人であることを知っている。エキナは古傷に触れられたように、わずかに表情を固くした。これからも彼女は、過去に触れられるたびに、気まずい思いをすることになるのか。


「お名前、聞いてもよろしいかしら?」

「エキナと申します」

「そう、エキナ。よろしくね」


 アリステリアは微笑んだ。エキナが処刑人だったとしても、差別もなければ、気にもしていないようだった。


「では、どこから話せばいいのかな?」


 少し砕けた調子で、アリステリアは言った。現在の立場、彼女がトバルの村の井戸に落とされた理由。カラド神父の発言からわかったことを説明する。


「エルレインの涙……?」

「そう、これ」


 アリステリアは、黄色く輝く宝玉を見せた。


「アーティファクトらしいのだけれど、カラド神父はこれを探していたらしいの。それでわたくしを井戸に落とすなんて、酷い話だわ。普通なら死んでいるわよ」

「まったくですね。……よく生きていましたね」

「そこは聖女ですから」


 胸を張るアリステリア。


「それはそれとして、どこかへ通じる鍵らしいのだけれど、よくわからないのよね」


 聖教会がそれを欲していた理由。悪魔たちが向かおうとしている場所。ラトゥンは、どうせろくなものではないと思う。できれば知りたくはないが、それがよからぬ企みであるなら、阻止する必要があった。


 せっかく手に入れたエルレインの涙。これを聖教会に渡さないようにしなくてはならない。


「大体の事情はわかりました」


 すっと、エキナは背筋を伸ばした。


「宝玉の件はとりあえず置いておくとして、これから聖女様はどうされますか? もう聖教会に戻るつもりは、ないんですよね?」

「ええ、さすがに、ああいう使われ方をしてしまうとね……。利用価値がある限りは、生かされるんでしょうけど、次同じようなことをやられたらさすがに死ぬと思うし」


 アリステリアは、視線を彷徨わせた後、ラトゥンを見た。


「せっかく、教会から出られたんですもの。このまま雲隠れ……と行きたいところだけれど、わたくし、よそに伝手がないのよね」


 暗に『守ってくれないかな』、という願望込みの視線。ラトゥンは腕を組んだ。


「確かに、あんたを聖教会の手元に置いておくというのはよろしくないな。護衛として雇いたいというのなら、報酬次第か」

「独立傭兵でしたっけ。……うーん、わたくし、手持ちがないのよね」

「それにですね――」


 エキナが口を挟んだ。


「わたしたち、これから王都に行くので、聖女様的には真逆じゃないかなって思います」

「王都へ? 一体何をしに?」

「ラトゥン」


 話してもいいんですか、とエキナが確認してくる。話せば後戻りできない。むしろ情報を明かせば、それこそ敵に話がいかないよう、アリステリアを放置できなくなる。


「聞けば、事が済むまで俺たちと一緒に行動することになるが……それでも聞くか?」

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