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第309話、口頭だけど


 ――まったくとんでもないヤツらだ!


 マニモンは、ヴィゴという騎士が、魔剣を一つにしてしまうところを見て、戦慄した。


 ――ダーインちゃんが、ダープルちゃんを喰らってしまった……!


 この二つは、マニモンにとっては傑作の部類に入る剣だ。それを作った本人の目の前で一つにしてしまうなんて。


 魔剣同士の戦いは終わった。そのせいで、ヴィゴが攻撃してきたらどうしよう、とマニモンは思った。


 彼女たちが煽り合って、戦いとなった時、マニモンは自分は無関係を宣言し、距離を置いた。それを信じて、このまま黄金宮から立ち去ってくれればいいのだが。


「マニモン」


 ヴィゴが顔を上げ、玉座の上に浮いているマニモンを見た。


「な、何かしらっ!?」


 マニモンの声が上ずった。動揺しているとバレれば、その神聖剣で攻撃してくるかも――


「ダープルに挑まれたが、あなたは無関係でいいんだよな?」

「そうよ! 私は無関係!」

「ラーメ領を巡って、魔王の娘のいる軍勢にまつわるあらゆることに干渉しないってことでいいんだよな?」


 干渉しないことを約束する代わりに何か見返りで契約でも――などと反射的に脳裏に浮かんだが、すぐにマニモンはそれを打ち消した。


 ヘタなことを言えば、せっかくやり過ごせそうになっていた空気を、一変させかねない。


「人間同士の争いに、興味はないわぁ」


 こうでも言っておかないと、攻撃対象になりそう、という予感があった。


 彼らは、この辺りで猛威をふるう魔物勢力の討伐にきているようだ。それを操っているのが、魔王の娘と人間たちであることを知っている。


 本来は戦いや混乱につけこんで、色々悪さをしたり、力に縋ってきた愚か者を玩具にして玩ぶのだが、自らの命にかかわるような場合は話は別だ。


 せいぜい傍観者という立場で、見物するに留めよう。


「魔王の娘が助けを求めにきたら?」


 ヴィゴの仲間の魔女、いや精霊が聞いてきた。


 それに答えてほしければ、何か代価を寄越せ――と、いつもの癖で言いそうになるが、これも引っ込める。


 大悪魔と話そうとか、情報を得ようとするのが、すでにおこがましいのだ。だが、そうも言っていられない状況である。神聖剣、怖い。


「さあ? 条件次第ってところかしらねぇ」


 あくまで余裕ぶるマニモン。この発言は、かなり危ないのはわかっている。ヴィゴたちが敵対しているウルラに対して、頼まれれば手を貸すなど、彼らの宣戦理由に充分になり得るのだから。


 だが、あくまで大悪魔らしく振る舞わなくてはいけない。他の種族に舐められてはいけないのだ。


「彼女が、私にどこまで献身的な代価を支払えるか、でしょうね。私は、そんなに安い女じゃないのよ」


 玉座に降り立ち、マニモンは言う。


「まあ、あの娘がここを訪れることもないでしょう。私は色々見ていたけど、彼女は私がここにいることも知らなさそうだし。……来ないものには、私もどうしようもないわ」


 これがマニモンが言える妥協線である。


 嘘をつくこともできるが、説得力というのも大事である。こいつは口ではこう言っているけど嘘だろう、と思われたら、やはり騙される前に攻撃してしまえ、となってしまうかもしれない。


 慎重に用心深く、敵にならないアピールをしなければならないのだ。


「わかった。ならいい」


 ヴィゴは頷いた。彼とその仲間たちは矛を収める。


「ではお邪魔した。俺たちはここを退散するとしよう」

「ええ、行きなさい。あたなたちが、二度と私の黄金宮に足を踏み入れないことを祈っているわ」


 捨て台詞じみているが、マニモンの本音はそれである。――神聖剣を持って人の城に来るな!


 かくて、ヴィゴとその仲間たちは玉座の間を後にした。彼らが出て行くまで、魔法の目で監視していたが、特に黄金宮内を巡ったり、お宝探しと称して略奪などはしなかった。


 していたら、温厚なマニモンでも、何かしらの報復をせねばならないところだった。


 彼女は、自分のモノを奪われるのが、死ぬほど嫌いだったのだ。


 ――魔剣……魔剣は、そうねぇ。一度人に授けたものだから、それはまあ、別かしらね……。



  ・  ・  ・



「あれでよかったのか、ヴィゴ?」


 黄金宮の外に出て後、シィラが聞いてきたので、俺は頷いた。


「ああ、大悪魔で地獄の大魔王なんだろう? 無理して戦うことはないって」


 こちらにも、討伐にも邪魔はしないって言うんなら、それでいいじゃないか。俺たちは、別にマニモンを討伐しにきたわけじゃないんだから。


 大局を見失ってはいけない。


「でも、もったいなかったわね」


 アウラが口を開いた。


「大悪魔の黄金宮なんだから、きっとすっごい、お宝とか魔道具とかあったかもしれない。いえあったに違いないわ!」


 Sランク魔術師としては、貴重なお宝に興味があったんだろうな。気持ちはわからないでもないが。


「城の主がいるんだぞ? 手を出したら、ただの窃盗じゃないか」


 大悪魔の報復なんて、まっぴらごめんだ。それでなくても、悪魔に恨まれたら、生涯付け狙われそうだし。


 ニエント山地下、ドワーフの廃集落に戻ると、ハクが、ドワーフの図面を頼りに神の船の修復を行っていた。


「やあ、ヴィゴ。お帰り。その様子だと、あったのは普通の遺跡だったみたいだね」

「普通の遺跡? とんでもない! 大悪魔マニモンの黄金宮だったよ」


 俺が答えると、ハクは目を見開いた。


「大悪魔だって?」

「ああ、本気で戦うことがなくてよかったよ」


 その時は、こうして無事に帰ってこられなかったかもな。それよりも――


「だいぶ、らしくなってきたじゃないか」


 神の船とやらが、かなり綺麗になっていて、前回見た時より、取り付けられている部品も増えているような。


 大抵のことができる魔術書であるハクのことだから、部品とかも魔法か何かで作っているんだろうな。


「ありがとう。でもオレとしては、黄金宮と大悪魔の話も聞きたいね」


 好奇心旺盛なハクだった。

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