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第310話、意外な解決策?


 討伐軍がニエント山トンネルに到着した。俺たちリベルタと、ドゥエーリ族の傭兵団が敵の妨害を警戒する中、兵士たちはトンネルを潜り、黄金領域へと足を踏み入れた。


 トンネルを出て東側の平原に、順次、通過した部隊は集まる。全軍がトンネルを通るまで、守りを固める。


 すでに地平線には、ラーメ領の領主町と、異様にそびえ立つ汚染精霊樹が目視できる。討伐軍の指揮官、末端の兵まで、初めてみる黄金の精霊樹と町に呆然としてしまう。


 ……まあ、あんな馬鹿デカい木なんて、見たことないだろうし、無理もないけど。


 俺は、ニエント山頂上の見張り台から、下の兵たちの動揺の気配を感じて苦笑してしまう。


「それはそれとして、お疲れさま、ラウネ」

「本当よ」


 セッテの町にて、瘴気対策ポーションを延々と量産する作業を手伝っていたラウネが、ようやくリベルタに合流していた。


「材料に使う薬草と種のために、毎日毎日……」


 ドリアードの魔女は苦り切った顔で愚痴るのだ。


「とりあえず、討伐軍全員に支給したとして1週間分の対策ポーションの素材を作ったわ」


 7日分か。


「で、討伐軍は5日分持たせてある。領域侵入して、領主町に攻め込むまで約1日。黄金領域を解除できなければ、領域外に移動するまで1日は掛かるとみて、戦闘できるのはおよそ3日!」

「帰りを気にせず攻撃に全フリして4日か」

「汚染精霊樹をぶっ倒して、汚染をばらまいているのを全部潰せればね。可能でしょうよ。まあ余裕があるほうが、安心して戦えるでしょ?」

「そりゃそうだ」


 対策ポーションがあと一日しかもたない! 攻略できなきゃ、敵に殺されなくても瘴気にやられる!――などなど、タイムリミットに気を取られて焦るとか、墓穴を掘るのは勘弁である。


「残り2日分は、生産中?」

「ええ。まとまった数が完成したら順次、町から前線へと運んでくるわ」


 ラウネは頷いた。なるほど、町ではまだ絶賛、対策ポーションを増産中であり、討伐軍の兵站部門が輸送する算段となっているわけか。


「ハクが、神船を再現しているんだけど、それが出来たら、輸送に使えるな」

「空を飛ぶ船でしょ? 地上を行くよりは断然速いでしょうね」


 ラウネはニヤリとした。


 現在、ハクを主導に、マルモ、ファウナの精霊たち、作業補助としてベスティアが、神船を製作中である。完成したら、リベルタクラン全員を乗せてもまだ余裕があるくらいの船となる。


「早く移動できる手段があるってのはいいことだよな。使い道もありそうだし」


 ダイ様の使い魔や、ゴムの分裂体を変身させなくても、空を飛行できる乗り物に乗せて移動できるというのは、仲間たちにとっても大きい。


 さっきの、領域外へ脱出するのに1日、というのも移動短縮できるから、時間ギリギリまで残って戦ったり、あるいは救助したりもできるわけで。


 ま、汚染源を絶ってしまえば、そんな心配をしなくてもいいわけだが。


「もう、討伐軍が領域に入っちゃってるから、いまさらなんだけど、個人の汚染対策じゃなくて、浄化したり、安全な領域を作れたりしないものかな」


 それがあれば、対策ポーションの在庫を気にしなくてもよくなるのだけど。


「まあ、あるにはあるわよ」

「本当か、ラウネ?」


 そんな簡単に出て来るとは思わず、思わず彼女をガン見してしまった。


「ワタシだってね、延々とポーション素材を作るのに飽き飽きしてるんだもの、そりゃ考えるわよ」


 薬草と種を昼夜問わず作り続けた人が言うと、説得力が違う。


「メントゥレが、神聖系の結界を張るって防御対策があるって話は覚えてる?」

「ああ。ハクが効果範囲や持続時間があるから、集団だと不向きだって言ってたやつだよな?」

「あれ、ファウナじゃなかった? 言っていたの」

「そうだっけ?」


 まあ、どちらでもいいや。用は結界での瘴気対策もあるが、範囲が限定されるから使いづらいってことだ。


 自分の周りだけ守る結界っていうなら、対策ポーションを飲めば一日は保つわけだし。


「結界の問題は、範囲と時間なわけだけど、たとえば町ひとつ分の範囲をカバーして、数日とか一カ月とか持続すれば、話は変わってくるわよね?」

「そうなれば、対策ポーションを節約したり、結界内に数日こもれるな」

「そういうこと。で、ここで注目すべきは、敵が瘴気をばらまく水晶柱を使ってきていることよ」


 ラウネは自信たっぷりに言った。


「あの水晶柱は、地中や大気中の魔力を吸収して、それをエネルギーに汚染を拡散している。もしこれを、拡散するのを瘴気ではなく、浄化魔法だったなら?」

「!」

「それか、結界に置き換えるか。魔力は自動的に集めてくれるから、放っておいても、水晶柱が壊されない限り、永続的に結界を張り続けることができるわ」

「凄ぇ、天才かよ!」


 敵が使う汚染源のひとつでもある水晶柱を利用して、浄化で汚染を取り除いたり、結界を張ったりなんて。俺が絶賛したからか、ラウネは得意げになった。


「で、その水晶柱を作ったりはできるのか? それとも、敵が使っているのを奪って、置き換えってやつをするのか?」

「こっちで一から作るのは、ちょっとね……。どれくらい時間が掛かるかわからないわ」


 ラウネは腰に手を当てて、考える。


 決戦を控えている今、すぐにでも欲しいものだから、一から開発している余裕は残念ながらない。


「じゃあ、敵が使っている水晶柱に手を加えるか?」

「敵が使っているものを利用するのは、『できるのなら』かなり手間が省けると思うわ」


 いちいち壊さなくてもいいし、汚染範囲がそのまま浄化なり、結界の範囲になるのだから。だが――


「できるなら?」

「そ、今のところ、どういう仕組みで汚染をばらまいているのかわからない」


 ラウネは肩をすくめた。


「だから、それを調べて、置き換えるとしても、やっぱりどれだけ時間が掛かるか見当もつかない」

「それって、案はいいけど、結局のところ即実行できないってことか?」


 意味ないじゃん。思わずため息をついたが、ラウネは首を横に振った。


「そこに力技ってものがあるのよ」

「というと?」

「世の中には、不思議な力を宿した石とか、どうしてそうなるのかわからない仕組みのものが多々あるのよ」


 たとえば浮遊石みたいな? 何故かわからないけど浮かぶ石とか。


「だから、そういう浄化なり結界なりの力を秘めたものに変換してしまえばいいのよ!」


 どうやって? それがわからないから苦労しているんじゃないかい?


「アナタ、竜の宝玉を持っているでしょ? 所有者の願いを叶えるその力で、浄化の石とか結界の石とか願えばいいのよ」


 あ、ドラゴンオーブか。確かに竜神の洞窟で手に入れたな、そんな秘宝を。

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