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第311話、浄化の石、結界の石を作ってみた


 便利だからと何でもかんでも、それに頼るのはよくない――そう言ったのはハクだったか。


 他の方法でできるなら、そちらでやり、必要だけど実行が困難なもの、できないものに対して、便利アイテムを使う。


 なるほど、いざという時とは、こういう時のことを言うんだな。


 俺は、ラウネから提案された、瘴気を拡散させる水晶柱を、ドラゴンオーブを使って浄化ないし結界に置き換えるというプランが、実行できるか検討した。


 とはいえ、手近なところに水晶柱がないので、まず竜の宝玉で付与ができるかどうか試すことにした。


 やり方は簡単だ。そこらに転がっている適当な石に、浄化効果と結界効果をそれぞれ付与し、ハクに魔法で鑑定してもらえばいい。


 それで、本当にドラゴンオーブにその力を付与できるのかわかる。……しかし、この宝玉を使うと、ガッツリ魔力を持っていかれるような感覚がくる。


 でも他の人だと、持つだけでも魔力を吸われているみたいだし。持てるスキルがなかったら、それはそれで中々扱いが難しい品だ。


 というわけで。


「どうだい、ハク?」

「これは、いいね」


 ハクは鑑定魔法で、さっそく、石に効果が付与されているか確認した。


「こちらは結界効果、こっちは浄化効果が確かにあるね」

「成功だ」


 俺が振り返ると、言い出しっぺのラウネと、オリジナルであるアウラの二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。


「ただ……これ、時間制限があるね」


 ハクの言葉に俺たち一同は真顔に戻った。


「やっぱり、内包魔力が小さいからね。これ特に深く考えずに選んだでしょ。効果範囲を広げたら、その分さらに短くなるだろうね」


 とはいえ、とハクは、しげしげと浄化の石を眺めた。


「古来より伝わる不思議な効果のある石って、どうしてこうなったんだろうって謎なものが多いけど、中には、竜の宝玉みたいなアイテムで効果を付与されたものもあったかもしれないね」


 魔術師としては興味深い、とハクは頷いた。アウラは口を開く。


「でも、そういうアイテムって、効果が永久に持続とかしてない?」

「そうだよ。だから大昔のものでも、現代でも見つかってるんだ」


 さも当然という口ぶりだった。


「効果が持続しないものは、ただの石になって……そう考えると、そこらにある石も、昔は何か特別な効果があったかもしれないね」

「それで、効果時間を伸ばす方法は?」

「宝玉にお願いする時に、永久効果持続もお願いすれば解決するんじゃないかな?」


 ハクは答えたが、すぐに眉間にしわを寄せた。


「でも、そういうのは、お願いした時に取られる魔力の対価も跳ね上がりそうだよね。……常識的に考えて」

「効果が高いもの、性能のよい付与は、その分、魔力を使うわ」


 ラウネが腕を組んで難しい顔になった。


「あまり量産向きではないわね」


 数個ならまだしも、二桁、三桁も作るものではない。


「どうするのが一番、節約できるかしら?」

「実際、一個作ってみて、どれくらい魔力を食われるか見てからの話だけど」


 ハクは俺を見た。


「消費が変わらないんだったら、そのまま量産してもいい。ただやっぱりそれじゃ魔力が保たないというのであれば、敵が使っている汚染源である水晶柱の効果を書き換えするのが楽でいいと思うよ。それならお願いは一個だけで済むし」


 瘴気を浄化に変えろ――それだけで、あとは水晶柱の備わっている自動で魔力を吸収する能力と拡散範囲をそのまま利用できるから。


「わかった、ありがとう。試してみるよ」


 俺が礼を言うと、ハクは「どういたしまして」と、神船作りの作業に戻る。……だいぶ形になってきたようだ。


「船のほうはどうだい?」

「順調だよ。船体左右の可動翼が動くギミックが直ったんだ。これでこの船を前進・後退、上下移動ができるようになった」


 ハクは誇らしげだった。俺は首を傾げる。


「元々、浮けたよな、この船?」

「浮遊石の力でね。でも可動翼を利用すれば、さらに早く動けるんだ」


 その可動翼というのが、船の推進装置らしい。浮遊石はただ船を浮かせるだけである。ラウネがハシゴを伝って、船へ上がる。


「進めるようになったなら、後はどこを直すのよ? もう飛べるんじゃないの?」

「飛べるよ。でもこの船はしばらく放置されていたし、そもそも作りかけだったからさ。傷んでいる板を張り替えたり、未完成の部分は仕上げないとね」

「内側は木製なんだ……」

「何か武器はある?」


 アウラが外から聞いた。


「ないよ」


 即答するハクである。


「神様の船だよ? 武器なんて必要ないじゃないか」

「でも、ワタシたちにはいるかもよ」


 ラーメ領の空を飛ぶ限り、アルバタラスなどの飛行型邪甲獣と遭遇するかもしれない。


「その時は、乗っている人間が何とかするしかないさ」


 それはそうだ。俺は納得した。……でも、空中の邪甲獣に立ち向かう戦力となると、結構限られてくるぞ。ゴムの分裂体も何回か乗せて、向かってきた鳥型を落としてもらうほうがいいかもしれないな。


「ま、明日には出来上がっているから、楽しみにしていてよ」


 ハクたちの作業の邪魔をするのもあれなので、俺は退散する。竜の宝玉を使って、永久的に効果のある浄化石はできるか否か。



  ・  ・  ・



 結論から言えば、できた。


 ただし、浄化効果、永久持続、さらに範囲拡大と、三つを盛り込んだら、さすがの俺でも目眩がした。


 瘴気を拡散させる水晶柱と同様の、浄化効果を拡散させる石柱は作れたが、ドラゴンオーブを頼ってのそれは、魔力の消費が大き過ぎた。


 こんなものをいくつも量産していたら、戦場では戦うどころではないぞ。


「大丈夫ですか? ヴィゴさん」


 ルカが心配げに俺の顔を覗き込んだ。ひ・ざ・ま・く・ら――!


 俺がぐったりしたら、ルカさんが膝枕をしてくれた。優しい。ありがとう。何故か見上げると、彼女の顔半分、残りはその立派なお胸さんに遮られているけど。


「うん、やっぱ、敵の使っている水晶柱を書き換えたほうが、たぶん楽だわ」


 永久効果が、かなり俺の魔力喰った印象だ。ラーメ領領主町にある水晶柱を、浄化と拡散に変えていったほうが効率がいいだろう。


「領主町に入ったら、俺は汚染源の水晶柱をまず浄化していったほうがよさそうだな」


 浄化効果で、黒きモノたちの弱体効果が見込めるかもしれない――とは、アウラの意見。本当かどうかはわからないが、神聖属性付加とか結界にも、黒きモノへの影響が出ているのだから可能性はあるそうだ。


 もしそうなら、領主町の制圧をする討伐軍の助けにもなるだろう。まあ、最後は根本的汚染源である精霊樹をどうにかしないといけないわけだけど。

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