カパルビヨ城へ突入するための道を切り開くため、俺たちは、黄金城を覆う結界石を破壊しに回っていた。
「結界石!」
「また敵が来るぞ!」
シィラが警告する。黒オークに大鬼と、さっきも見たメンツだ。どうやら結界石の守備ついている連中は、似たような部隊編成のようだ。
「さっさと潰す!」
「邪魔しないでっ!」
ネムがショートドラゴンボウを構え、黒オークを射殺すれば、イラも長銃で素早く顔を撃ち抜いた。
「シィラ、セラータ!」
俺の前進に、二人も続く。黒オーガが三体。俺たちなら――瞬殺だっ!
真魔剣が、黒オーガを両断。風竜槍タルナードが、黒オーガを高速回転の風の刃でミンチにし、炎竜の槍が、黒オーガの頭上から脳天を貫通し燃焼させた。
邪魔な大柄黒きモノを倒したところで、結界石を――と、またいるぞ。灰色の肌のハイブリッドが。
「柔軟のタント」
三十代くらいの女性が立っていた。灰色の肌に長い髪。戦士? それとも魔術師? なんかよくわからないが、やたら体の線が強調されるピッタリしたボディースーツをまとっている。
「残念ながら、お兄さんとお嬢さんたちは、ここでおしまいよ?」
見たところ丸腰だが、魔術師か?
「武器もなしに、あたしたちに敵うと思っているのか?」
シィラが槍を構えて凄む。タントと名乗った女は、口元をニヤリとさせた。
「自信過剰なのは結構だけど、ご心配どうも。私はこの体が武器なのよ。……さっ、誰から殺されたい?」
「そうかい」
俺はダッシュブーツで踏み込んだ。やたら自信があるみたいだが、相手はハイブリッドか、それとも魔族のほうか? 丸腰に見える相手を攻撃するのって、やりにくいんだが、相手が人間じゃないなら、やるしかないよな!
バン、と後ろから銃声が響いた。額を打ち抜かれたタントが吹っ飛んだ。
「……お、おう、イラさん」
俺は加速を緩めて、おそらく即死だっただろうタントを見下ろしながら横を通過すると、結界石に近づき、真魔剣を叩き込んだ。
黒い大岩という外観の結界石が、粉々に砕けた。……うん、結界の光が若干薄くなった気がするが、消えるところまではいかなかった。1個壊した程度じゃ駄目みたいだ。
「とりあえず、次に行くか。……いい腕だったぞ、イラ」
「お役に立てて何よりです」
軽防具の下はメイド服である、微笑み狙撃手は、ニッコリと答えた。
次に移動しようとした俺たちだが――
「危ない!」
シィラの声と、直後の金属音。見ればイラの背後に、頭を撃ち抜かれたはずのタントが立って、シィラが槍で接近を防いでいた。
「あら、残念。せっかく死んだフリをしていたのにぃ」
「そんな……。あれで生きて――」
イラも驚きを隠せない。タントの額に、風穴は開いていなかった。
「よくも結界石を壊してくれちゃったわね。あなたたち、ここで始末するわ」
「あいにくと、年増に付き合っていられるほど暇じゃなくてなァ!」
シィラが風竜槍を振るって、タントを後退させた。
「ヴィゴ、この女はあたしが相手をする! 先に行け!」
「シィラ!?」
「大丈夫だ。すぐに追いつくさ。行け! 時間が惜しい」
「……気をつけろ」
頭に攻撃受けて生きているなんて、普通じゃないぞ。
俺たちは結界石破壊のために移動する。ネムが後ろ髪を引かれる。
「シィラ姉……」
「心配するな」
敵を見据えたまま、ネムに対して親指を立てる仕草で応える。
タントは言った。
「若いっていいわよね。……というか、あなた、色々大きいわね」
「ちょいとばかり、力には自信があるんだ。降参するなら今のうちだぞ、おばさん?」
「教育してあげるわ、小娘!」
・ ・ ・
「無駄、無駄、無駄! 無駄なのだよ!」
ハイブリッド戦士オンクルは、アウラの放つ魔法を、ことごとく光の壁で防いだ。
「なら、これでどう!?」
東洋のニンジャの手裏剣の如く、アウラの手から投擲される枝を尖らせた突起が、連続で放たれたが、これもオンクルの手前で弾かれた。
「物理も魔法も通さない、か」
「今度はこっちの番かなぁ? ……おおっと」
飛びかかろうとしたオンクルだが、足下から生えた巨大蔦によって三メートルほど地上から離されてしまう。
「一応、障壁が防いでいるけど、弾くわけじゃなくても、持ち上げることはできるわけか」
アウラは顎に手を当て考える。スパイクが弾かれたのは、投げられた石が壁に跳ね返るのと同じということだ。たとえば水の塊をぶつければ、おそらくあの障壁は跳ね返すのではなく、弾くに留まるだろう。
「やれ、随分と余裕なようだね、お嬢さん」
オンクルは巨体蔦から飛び降りる。
「今度こそこっちの――」
「あいにくと、まだ色々試したいことがあるから、ダメ!」
アウラの光の魔法が、オンクルの頭上から降り注いだ。ハイブリッド戦士の彼が反応する間もない、直撃だったが、これも頭の上で障壁が発生して、阻止された。
「うわぉ、今のはビックリした。無詠唱だもん。それはズルいよ」
飄々とした態度でオンクルは自身の髪を撫でた。
「でも無駄なんだなァ。……!」
背後から気配を感じるオンクルだが、遅かった。地面から飛び出した蔦の槍が、彼を串刺しに――ならなかった。
「だから、無駄なんだってば。まだわかんないかな」
「全方位からの攻撃を全て阻止、か」
死角を探したアウラだったが、ここまでの攻撃の通用しなさに、そう判断するしかなかった。
「アナタ、ズルいわ」
「ええっ、君がそれ言っちゃう?」
オンクルは、煽るように苦笑した。
「じゃ、今度こそ、こっちの番だからね」