黄金のカパルビヨ城は、周りを空堀に囲まれていた。入り口の門には跳ね橋があり、そこを閉ざされると、地上から侵入するのは難しい。
町中なので、攻城塔――ブリーチングタワーという、城壁突破用の移動兵器は、そもそも通れないので使用不可。
となれば、空を飛ぶのでなければ、長梯子を城壁にかけて登るしかないわけだが、まず梯子を持ったまま、空堀に下りるのに一苦労。その間に、城から矢など飛び道具がバンバン降ってくる。
で、ようやく梯子を空堀に入れて、そこから城壁に梯子をかけるのだが――もちろん、その間も攻撃される――空堀の深さ分、梯子に長さが求められる。届かないというのは論外だが、大きすぎる梯子は運ぶのも大変な上、窮屈な空堀内で準備までに手間取る。さらに無防備な登る時間もかかってしまう。
堅城だ。俺たちリベルタは、飛行手段を持っているから城壁を飛び越えるのは難しくはない。
が、城壁より内側は敵がウジャウジャいるから、少数で突っ込むのはリスキーだ。
そして、さらなる厄介要素があって――
「敵は、城の周りに結界を張っている!」
アウラは、渋い顔になる。
ご丁寧に、敵は結界を発生させている石の周りに、武装した黒きモノなどを守りにつかせていた。
「この結界石を破壊しないと、カパルビヨ城を攻撃どころじゃないわね」
「さっさと、精霊樹に行きたいところなんだけどな!」
しかしカパルビヨ城の突破口を作るところまでが、俺たちリベルタの役目だから、城への侵入口も作っていない状況で、精霊樹へ移動するわけにもいかない。
「いくつあるんだ?」
「さあ。でもこの様子だと、7か8くらいありそう」
「面倒だな。二手に分かれよう」
時短だ。聖剣持ちの俺と、ヴィオで分かれる。
右回りの俺のグループは、アウラ、シィラ、ネム、イラ、セラータ。
左回りのヴィオグループは、ルカ、カイジン師匠、カバーン、ガストンら3人、メントゥレ神官長。
早速、結界石を守る黒きモノたちの排除にかかる。……敵には黒きモノ化した大鬼――オーガがいやがった。こいつはタフそう。
「ホーリーランス!」
アウラが神聖魔法で光の槍を5本飛ばし、まず周りの黒オークを串刺しにした。
俺はダッシュブーツで加速し、のしのし歩く黒オーガへ挑む。人間を軽くミンチにしそうな金棒だ。飛び込んだ俺に、黒オーガは重々しい金属の塊を渾身の力で叩き込んできた。
無駄、だ!
真魔剣のパワーの前じゃ、軽すぎるんだ。叩きつけてやれば、金棒は黒オーガの手からもぎとられえて、自分自身に跳ね返り、その顔面を潰した。
ダッシュブーツで、その黒オーガを迂回。次の奴が向かってくるが――
「遅い!」
左手の神聖剣が光刃を放って、黒オーガの首を飛ばした。
「セラータ!」
「お任せを!」
アラクネの体、素早く跳躍したセラータが炎竜の槍を手に、まず一つ目の結界石を破壊――
「そうはさせんのよねェ!」
「!?」
結界石の前に、青い甲冑をまとった騎士が現れた。伝説の魔族と同じ灰色の肌――しかしいつか見たルースみたいだと思った。
その男が両手を突き出すと、防御魔法か見えない壁が発生して、セラータの突きを弾いた。
「何者!?」
「障壁のオンクル!」
騎士は名乗った。態勢を立て直したセラータが、槍を構える。
「魔族!」
「否、オレはハイブリッドなんだよね!」
武器はない。しかしその手には、光の膜のようなものが覆っている。
「ここの結界石は壊させるわけにはいかないんでねェ!」
『時間稼ぎか』
ダイ様が言った。
『大方、ここで時間を稼いで精霊樹から、邪甲獣でも呼び込もうとしておるんだろうよ』
「そういうこと!」
オンクルと名乗ったハイブリッドとやらは手を広げた。
「そんなわけで、君らをここで足止めさせてもらうよ!」
「面倒臭いわねぇ」
アウラが前に出た。
「ヴィゴ、この魔族野郎はワタシが引き受けるわ。他の結界石のほうをお願い」
「一人で残るのか?」
「一人じゃないわよ」
後ろから、ドゥエーリ族の戦士や、討伐軍の兵士がゾロゾロと追いついてくる。ハイブリッドとの戦いに役に立つかはわからないが、少なくとも、一人だけという状況にはならなさそうだ。
「勝算はあるのか?」
「さあね。まあ、何とかするわよ。ワタシを誰だと思ってる?」
アウラは胸を張った。
「前世では伝説級の魔術師だったんだからね!」
「わかった。任せる。だが危ないと思ったら、下がれよ!」
俺はシィラや仲間たちに合図する。セラータも下がって合流。移動しようとすると――
「おっと、ヴィゴ・コンタ・ディーノと聞いて、逃がすわけないじゃないの!」
オンクルは、腕に膜をまとい、それを俺のほうに向けようとして、突然生えてきた木のトゲに邪魔をされる。
「おおっと!?」
「どこを見ているの? アナタの相手は、このワタシよ!」
アウラが軽戦士モードに装備を変えると、手に刃を持って、オンクルへと肉薄した。
……無理するんじゃないぞ、アウラ。
俺は彼女の健闘と無事を祈りつつ、先を急いだ。結界石を破壊して、黄金城の突破口をこじ開けたら、討伐軍に城を任せて、汚染精霊樹へ。……忙しいなぁもう!
・ ・ ・
「強靱のフレール」
灰色鱗のリザードマンの戦士は言った。
「ここの結界石を守護する者なり」
「くっ、この忙しい時に!」
ヴィオは聖剣を構える。ヴィゴたちと分かれ、左回りに結界石を破壊しにきたら、しっかりと敵に妨害された。
「姐さんたち。ここはオレに任せてくださいよ」
手斧を手に、カバーンが前に出る。
「オレたちリベルタの邪魔をするトカゲ野郎は、ここでぶちのめしておきますんで」
その目はすでに血走り、獣人特有の戦意昂揚状態のカバーン。彼はリザードマン・ハイブリッドを睨みつけ、そして構えた。