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第324話、黄金城への道


 黄金のカパルビヨ城は、周りを空堀に囲まれていた。入り口の門には跳ね橋があり、そこを閉ざされると、地上から侵入するのは難しい。


 町中なので、攻城塔――ブリーチングタワーという、城壁突破用の移動兵器は、そもそも通れないので使用不可。


 となれば、空を飛ぶのでなければ、長梯子を城壁にかけて登るしかないわけだが、まず梯子を持ったまま、空堀に下りるのに一苦労。その間に、城から矢など飛び道具がバンバン降ってくる。


 で、ようやく梯子を空堀に入れて、そこから城壁に梯子をかけるのだが――もちろん、その間も攻撃される――空堀の深さ分、梯子に長さが求められる。届かないというのは論外だが、大きすぎる梯子は運ぶのも大変な上、窮屈な空堀内で準備までに手間取る。さらに無防備な登る時間もかかってしまう。


 堅城だ。俺たちリベルタは、飛行手段を持っているから城壁を飛び越えるのは難しくはない。


 が、城壁より内側は敵がウジャウジャいるから、少数で突っ込むのはリスキーだ。


 そして、さらなる厄介要素があって――


「敵は、城の周りに結界を張っている!」


 アウラは、渋い顔になる。


 ご丁寧に、敵は結界を発生させている石の周りに、武装した黒きモノなどを守りにつかせていた。


「この結界石を破壊しないと、カパルビヨ城を攻撃どころじゃないわね」

「さっさと、精霊樹に行きたいところなんだけどな!」


 しかしカパルビヨ城の突破口を作るところまでが、俺たちリベルタの役目だから、城への侵入口も作っていない状況で、精霊樹へ移動するわけにもいかない。


「いくつあるんだ?」

「さあ。でもこの様子だと、7か8くらいありそう」

「面倒だな。二手に分かれよう」


 時短だ。聖剣持ちの俺と、ヴィオで分かれる。


 右回りの俺のグループは、アウラ、シィラ、ネム、イラ、セラータ。


 左回りのヴィオグループは、ルカ、カイジン師匠、カバーン、ガストンら3人、メントゥレ神官長。


 早速、結界石を守る黒きモノたちの排除にかかる。……敵には黒きモノ化した大鬼――オーガがいやがった。こいつはタフそう。


「ホーリーランス!」


 アウラが神聖魔法で光の槍を5本飛ばし、まず周りの黒オークを串刺しにした。


 俺はダッシュブーツで加速し、のしのし歩く黒オーガへ挑む。人間を軽くミンチにしそうな金棒だ。飛び込んだ俺に、黒オーガは重々しい金属の塊を渾身の力で叩き込んできた。


 無駄、だ!


 真魔剣のパワーの前じゃ、軽すぎるんだ。叩きつけてやれば、金棒は黒オーガの手からもぎとられえて、自分自身に跳ね返り、その顔面を潰した。


 ダッシュブーツで、その黒オーガを迂回。次の奴が向かってくるが――


「遅い!」


 左手の神聖剣が光刃を放って、黒オーガの首を飛ばした。


「セラータ!」

「お任せを!」


 アラクネの体、素早く跳躍したセラータが炎竜の槍を手に、まず一つ目の結界石を破壊――


「そうはさせんのよねェ!」

「!?」


 結界石の前に、青い甲冑をまとった騎士が現れた。伝説の魔族と同じ灰色の肌――しかしいつか見たルースみたいだと思った。


 その男が両手を突き出すと、防御魔法か見えない壁が発生して、セラータの突きを弾いた。


「何者!?」

「障壁のオンクル!」


 騎士は名乗った。態勢を立て直したセラータが、槍を構える。


「魔族!」

「否、オレはハイブリッドなんだよね!」


 武器はない。しかしその手には、光の膜のようなものが覆っている。


「ここの結界石は壊させるわけにはいかないんでねェ!」

『時間稼ぎか』


 ダイ様が言った。


『大方、ここで時間を稼いで精霊樹から、邪甲獣でも呼び込もうとしておるんだろうよ』

「そういうこと!」


 オンクルと名乗ったハイブリッドとやらは手を広げた。


「そんなわけで、君らをここで足止めさせてもらうよ!」

「面倒臭いわねぇ」


 アウラが前に出た。


「ヴィゴ、この魔族野郎はワタシが引き受けるわ。他の結界石のほうをお願い」

「一人で残るのか?」

「一人じゃないわよ」


 後ろから、ドゥエーリ族の戦士や、討伐軍の兵士がゾロゾロと追いついてくる。ハイブリッドとの戦いに役に立つかはわからないが、少なくとも、一人だけという状況にはならなさそうだ。


「勝算はあるのか?」

「さあね。まあ、何とかするわよ。ワタシを誰だと思ってる?」


 アウラは胸を張った。


「前世では伝説級の魔術師だったんだからね!」

「わかった。任せる。だが危ないと思ったら、下がれよ!」


 俺はシィラや仲間たちに合図する。セラータも下がって合流。移動しようとすると――


「おっと、ヴィゴ・コンタ・ディーノと聞いて、逃がすわけないじゃないの!」


 オンクルは、腕に膜をまとい、それを俺のほうに向けようとして、突然生えてきた木のトゲに邪魔をされる。


「おおっと!?」

「どこを見ているの? アナタの相手は、このワタシよ!」


 アウラが軽戦士モードに装備を変えると、手に刃を持って、オンクルへと肉薄した。


 ……無理するんじゃないぞ、アウラ。


 俺は彼女の健闘と無事を祈りつつ、先を急いだ。結界石を破壊して、黄金城の突破口をこじ開けたら、討伐軍に城を任せて、汚染精霊樹へ。……忙しいなぁもう!



  ・  ・  ・



「強靱のフレール」


 灰色鱗のリザードマンの戦士は言った。


「ここの結界石を守護する者なり」

「くっ、この忙しい時に!」


 ヴィオは聖剣を構える。ヴィゴたちと分かれ、左回りに結界石を破壊しにきたら、しっかりと敵に妨害された。


「姐さんたち。ここはオレに任せてくださいよ」


 手斧を手に、カバーンが前に出る。


「オレたちリベルタの邪魔をするトカゲ野郎は、ここでぶちのめしておきますんで」


 その目はすでに血走り、獣人特有の戦意昂揚状態のカバーン。彼はリザードマン・ハイブリッドを睨みつけ、そして構えた。

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