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第323話、最短コースで行こう


 カパルビヨ城を目指す!


 俺たちリベルタ主力は討伐軍と共に、敵の本陣である黄金城へと突き進む。


 邪甲獣が行く手を阻むように出てくる。これと黒きモノで防衛線を張っているんだろう。だが――!


「それで止められると思うなよ!」


 真魔剣の一撃が、ワーム型邪甲獣を両断して吹き飛ばす。6万4000トンの一撃は、人間より巨体を誇る邪甲獣といえども、石のように跳ね飛ばしてしまう。


 だが、ダーク・プルガトーリョを取り込んだ魔剣は、傷つけた相手から魔力を根こそぎ奪うことができるようになっていた。


 つまり、邪魔をする敵を切り倒すごとに、魔力が魔剣に集まっていき――


「インフェルノ・ブラストォッ!」


 地獄の業火が奥の建物ごと、黒きモノたちの陣地を吹き飛ばす。倒した敵から吸収した魔力を使って、真魔剣の圧倒的火力を気軽に使用する。


「ヴィゴ!」


 俺のすぐ後ろに続くシィラが、声をかけてきた。


「そんなに力を使って、大丈夫か?」

「飛ばし過ぎじゃないかって? 大丈夫だ」


 俺自身の魔力はほとんど食われないから、大技を連発しても、ほとんど影響しない。まさに、圧倒的アタッカー!


 黄金城までの最短ルートをこじ開ける。建物も陣地化しているのなら、それごと吹き飛ばしてしまえばいいのだ。


「アニキ、ヤバいっすね!」


 カバーンがニシシと笑った。


 普通に町を進んだら、立ち並ぶ建物を迂回したりするものだが、こちらは地形ごと破壊しているのだ。


 瘴気と魔物のせいで一般人がいないからこそできる力技である。領民は全滅しているから、たとえ建物を破壊しても、すでに悲しむものもいない。


 それに、こうして威力を絞っているとはいえ、大技を使えるのも、俺が先頭だからってのもある。


 黄金瓦礫の陰から、黒ゴブリンが飛び出してきた。不意打ちのつもりだろうが、カバーンの斧のほうが早かった。獣人の繰り出した斧で、黒ゴブリンの体が裂けた。


 いい腕だ。他の仲間たちも順調だ。


 おっと、黄金城の最短ルート上に、またも建物の壁。


 城下町のメインストリートが、城へ真っ直ぐ伸びていないせいで、真面目に道沿いに進むと、グルっと遠回りさせられる。これも防衛上の城下町レイアウトなんだけど、俺たちは、最短の道を『作る』のだ!


「面倒だから城までの建物を、全力で解体しよう。ダイ様、一発強いの行くぞ!」

『おうさ!』


 インフェルノ・ブラスト――レベル4! 地獄竜のブレスの如き灼熱が、正面の建物を貫通し、爆砕。その後ろの建物を根こそぎ巻き込み、城下町に道を啓開する。


 黄金の城カパルビヨ城が、真っ直ぐ行った先によく見えた。


「障壁でもあったのかな? 城は無傷っぽく見える」

『前回の襲撃で、より警戒したんだろうよ』


 ダイ様は快活だった。無理矢理こじ開けたルートを通り、俺たちは町を横断した。討伐軍も俺の後に続きつつ、後続は染み出す水のように町全体に広がっていく。


 何せ俺たちは最短コースを作ったが、敵は町の中でそれぞれ防御陣地を築いて、守りについていたので、こちらの侵入を防ごうと向かってくるのだ。それを阻止しないと、討伐軍は逆包囲もあり得る。


 それに、ラウネたちの仕事もあるしな。


 俺は後ろを一瞥する。町の中にいくつかある黄金領域を展開している水晶柱。これを手中に収める必要もあったのだ。



  ・  ・  ・



 その頃、ラウネはリベルタ別動隊を率いて、領主町を移動していた。


 別動隊は、ラウネをリーダーに、サポートのファウナ。護衛にマルモ、ベスティア、ニニヤ、カメリア、ディー、ゴムの分裂体たちである。


 彼女たちは、町にある黄金水晶柱を目指していた。目的は、瘴気発生ポイントを聖域化することになる。


 最初は、ドラゴンオーブを使えるヴィゴがやるという方向だった。だが彼をもってしても、オーブを用いての浄化に消費する魔力が大きく、かつ戦線突破と汚染精霊樹の排除もやらねばならないと、役割過多である。


 だから、魔力が豊富で、オーブを複数回は使えるだろうラウネとファウナで、浄化を行うこととなった。持ち運びは、ドラゴンオーブを見つけた時に収納してあった箱に収めることで、持っただけで魔力を失う現象に対策した。


「見えた! 水晶柱!」


 町中にそびえる巨大な水晶柱。そしてその周りには、黒きモノが守りについていた。


「ここの敵は一段強いわよ、注意!」


 瘴気のパワーをガンガンに浴びて、強化されている黒オークや黒リザードマン。ベスティアがガガンⅡを連射しながら先陣を切る。


 神聖属性付加の魔法弾は、黒オークを蜂の巣にし、マルモもオリジナル・ガガンで援護。ファウナの召喚した幽霊騎士とゴムの分裂体が前衛を張る中、そのファウナと共に、ラウネは走った。


 ニニヤが、神聖攻撃魔法で、弓持ち黒ゴブリン・アーチャーを逆狙撃する。仲間たちが奮戦する中、ラウネは水晶柱の根元に辿り着いた。


「ファウナ!」

「……お待たせしました」


 エルフの巫女姫が、わずかに息を切らしながら到着した。召喚使い魔に持たせていた宝箱を開けて、ドラゴンオーブを取り出す。


「大丈夫?」

「……はい。手早く浄化しましょう」


 ファウナは目を閉じると、悪しき汚染をばらまく水晶柱に向かって、オーブを掲げた。


「魔の瘴気を祓い、清き聖域をここに!」


 ドラゴンオーブは光輝く。ファウナの魔力を用いて、願い事を執行。水晶柱は濁った黄土色から、光輝く宝石のような煌めきを発する。


 ふぅ、と一息ついて、ファウナが浄化を確認して、宝箱にドラゴンオーブをしまった。


「……これで、この水晶柱は汚染浄化空間を拡散するはずです」

「安全地帯をどんどん作っていかないとね」


 黒きモノたちにとっては不利な空間を、街中に広げていかなくてはいけない。


「立てそう、ファウナ?」

「……はい、大丈夫です」


 エルフは魔力が豊富だ。ドラゴンオーブへの願いが、一定量の魔力と引き換えな以上、複数回の使用を考えれば、適任者ではある。


 ――まあ、それはドリアードであるワタシもだけど。


 自然に魔力を生み出すドリアードもまた、魔力は豊富だ。しかもラウネの場合は、ドラゴンブラッドとの混血のため、依り代となる木がなく、魔力の過剰消費によって本体が駄目になる、ということもない。魔力の再生速度は、通常のドリアードとは比べものにならないほど早いのだ。


「ま、ヤバくなったら無理しないで言ってね」


 ラウネは、エルフの巫女姫にそう声をかける。討伐軍の後続部隊がやってくるのを見て、ラウネは別動隊の仲間たちを見回した。


「じゃ、次に行くわよ!」


 汚染精霊樹から増援がきても、戦いにくい環境になっているようにするためにも。

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