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第322話、物量とは


「ヴィゴ・コンタ・ディーノめ……!」


 スヴェニーツ帝国特務団のボーデンは、黄金の城カパルビヨから、領主町に侵入を果たした討伐軍を見下ろしていた。


 町を城として、敵を迎え撃つプランは王道中の王道戦術だった。防壁を利用し、敵に消耗を強いる――その常道は、魔剣の圧倒的力の前にあっけなく崩壊した。


 外壁が、いとも簡単に破砕されたのだ。


 攻城兵器を多数揃えて、物量をもって攻めるところを、たった一本の魔剣によって覆されてしまった。


 防壁や門があっての拠点防御力。それが取り除かれてしまえば、防戦能力は途端に失われる。


「またしても奴に……!」

「落ち着いてください、ボーデン卿」


 ペルドル・ホルバは注意する。


「まだ戦いは始まったばかりですよ?」

「余裕だな、ペルドル」


 ボーデンは、しかし表情から苛立ちを消せない。


「本当ならもっと敵を苦しめるはずだったところを、連中はほぼ損害なしで、外壁を突破したのだぞ」

「しかし、市街戦となれば、敵味方が入り乱れ、ヴィゴも魔剣の力を使うことはできません。……少なくとも、カパルビヨ城を吹き飛ばすような真似はしないでしょう」

「どうしてそう言い切れる? 連中にとって我々は敵だぞ?」

「今回のラーメ領を陥れた黒幕の正体を、彼らは掴もうとするでしょう」


 ペルドルは、じっとボーデンを見た。


「少なくとも、騒動の黒幕が何者か知る前から吹き飛ばすようなことはしませんよ」


 魔族の仕業か、魔王復活を企む狂信者か、あるいは他国の介入か。ウルラート王国の者たちも、その正体を知りたいだろう。


 まあ、そんなの関係ないというのなら、もうすでにこのカパルビヨ城は、魔剣の力で破壊されていただろう。敵しかいないうちに城を吹き飛ばせば、討伐軍にとって圧倒的有利なのだから。


 つまり、それがない時点で、ヴィゴの攻撃で黄金城を一撃で破壊される心配はないということだ。


「討伐軍は、町を制圧しつつ、城を目指してくるでしょう。我々は、黒きモノたちと邪甲獣を差し向けていればよい。精霊樹が無限に魔物を吐き出し続けてくれるのです。兵力はむしろ、こちらが圧倒しているといってもよい」

「……確かに、そうだ」


 ボーデンはソファーに腰掛けた。


「その通りだとも。兵力は我らが圧倒している」


 黒きモノは、ただの武器では対抗できず、邪甲獣もその凄まじく高い防御力で倒すのは困難。仮に数が互角だったとしたなら、討伐軍など容易く踏み潰すことができる。


 だが――


「奴らは、対策してきている。瘴気はもちろん、神聖属性の武器で黒きモノとも戦える」

「だから何だというのです?」


 ペルドルは小さく肩をすくめた。


「神聖属性で傷つけることができるようになった、それだけです。それを扱う人間の性能が上がるわけではない。しかし黒きモノは、常人以上のパワー、身体能力を持っています。邪甲獣にしても、熟練の冒険者でも腕利きでなければ対抗できない強力な魔物です。そこらの雑兵でも束にならねば相手できませんよ」


 束になったところで、無傷で勝てるというものでもない。一体倒すごとに何人か道連れだ。敵はそうやって数をすり減らすが、こちらは精霊樹が、不足を補充する。


 敵に勝ち目はない。


 天守閣の窓に陰が差した。ペルドルはそれを見やり、ほくそ笑む。


「さあ、連中にはない航空戦力が、町に入る前の討伐軍の後続戦力を叩きますよ? 連中は袋のねずみです」



  ・  ・  ・



「来た! 来た! 来たぁー!」

「うるさいです、リーリエ」


 ユーニは、肩口で騒ぐフェアリーに文句を言った。


 汚染精霊樹の上のほうから、鳥型邪甲獣――アルバタラスが群れをなして降下してくる。その数は優に二桁を超えて、三桁に達するかもしれない。


「あれで、討伐軍の後衛を叩くつもりです!」


 ユーニは叫んだ。まだ討伐軍の半分くらいが町に侵入していない。敵味方が入り乱れていないうちに、多数の邪甲獣が空から襲撃してくれば、討伐軍の兵はたちまち数を減らしてしまうだろう。


「よーし、ゴムちゃん! 行け!」


 ぺしぺしとリーリエが、ダークバードのゴム分裂体を叩く。すると後続のダークバードとハヤブサ編隊が一斉にアルバタラスの大群へと突撃を開始した。


『敵は空からも攻めてくるわよ』


 攻撃前の作戦会議で、アウラは言った。ヴィゴも――


『精霊樹周りには、アルバタラスが沢山飛んでいたから、けしかけてこないわけがないんだよな』


 そうした空からの攻撃を迎え撃つべく、討伐軍の空を警護していた、サタンアーマースライム分裂体による変化したダークバードとハヤブサが、これまた多数上空に待機していた。


 ゴム分裂体の攻撃はこれまで通り、敵邪甲獣にひっついて、その翼を喰らい飛べなくすること。撃ち落としてしまえば、ただの地上にいる邪甲獣と変わらない。


「でも、数が多いっ!」

「それも承知の上!」


 ユーニはダークバードの上で、弓を構えた。


「光弓スヴェート改め、ドラゴンブラッドの力で進化した聖竜弓スヴェート、行くわ!」


 放たれた光の矢は、まるで生き物のように曲がり、ユーニが狙ったアルバタラスを直撃。そしてその胴体を一撃のもとにバラバラした。


「……え?」


 自分でも思っても見ないほどの威力に、ユーニは一瞬絶句した。リーリエもポカンとなる。


「すっご……」


 元々光の属性を持っていた魔法弓スヴェートである。アウラが回収させたドラゴンブラッドを使って強化した結果、神聖属性を獲得。元からの相性のよさから、とんでもない魔弓と化したのである。


「呆けている場合じゃなかった!」


 ユーニは自分が戦場の空を飛んでいることを思い出し、僅かとはいえ呆けた自分を恥じた。だがこのスヴェートがあれば、自分は働けることを確信した。


「次、撃墜する! 下にいる味方をやらせない!」


 収束、そして拡散! 魔力をチャージし練り込んだ光を放つと、空中で十数本の光の矢となり、同数のアルバタラスに直撃、そして四散させた。

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