俺たちリベルタが、討伐軍陣地に到着すると、マルテディ侯爵の周りが騒がしかった。
「おお、ヴィゴ殿」
「何か、あったのですか?」
ざわつく周りを尻目に、侯爵に確認する。
「ニエント山の見張り陣地が、襲われ全滅した」
「何ですって?」
ニエント山の頂上に作られた見張り台と、応急陣地。領主町を観測するのに悪くない場所なので、討伐軍の小部隊が配置についていたのだが。
「襲われた」
「全滅だ。敵の死体はなかった。鋭い刃を持つ武器で斬られていたらしい。そこらの魔物の仕業とは、考えにくい」
マルテディ侯爵は渋い顔をした。
「敵がこちらの背後にいる、と?」
「ニエント山トンネルにも敵が入ったようで、西口警備の兵もやられた。だが敵の姿は確認されていない」
「トンネル地下に入った可能性も――」
「おそらくな。だが、もう外に出たと思う」
最初に遺体を発見した際、報告に伝令が走ったが、その間見張りに立った兵が、その後殺されていた。報告を受けて、増援が駆けつけるまでに、侵入していた敵が出てきて、見張りの兵を殺害したのだろう。
「一体何のために……」
何かを探していたのか? 一瞬、マニモンの黄金宮のことが浮かんだ。魔王の娘が、マニモンと接触した?
嫌な予感がする。だがまた、あそこに行って確認している時間はない。こちらは領主町攻略が始まる。
そして俺たちリベルタは、その先陣を切るのだ。
マルテディ侯爵は口を開いた。
「警戒はするが、今のところ、それ以上の知らせはない。間違っても、敵の大部隊が潜んでいるとか、そういうことはない。我々は、予定通り、町へ進撃する!」
退路を断たれた、とか考えたくはないが、侯爵の言うとおり、今は進むしかない。
・ ・ ・
討伐軍は進撃を開始した。
対する敵は、町の外に黒きモノの軍勢を出すことはしなかった。領主町の外壁を盾に、断固立てこもるようだった。
「敵は平野での戦いではなく、攻城戦、いや籠城に出たか」
「まあ、賢明な判断よな」
ダイ様は鼻をならす。
「平地で部隊を構成していれば、我と神聖剣で一掃だからな!」
ドラゴンと平地で戦えばブレスで薙ぎ払われる。俺の持つ真魔剣と神聖剣には、それだけの火力がある。
「籠城か」
こちらは城攻めということになる。討伐軍は高い壁に阻まれ、侵入するには門を突破するか、外壁を乗り越えないといけない。敵は弓矢などで、侵入を試みる討伐軍兵を撃ってくるだろう。
高いところから見下ろして射撃ができるのは、矢などの投射武器が豊富ならば、存分に攻め側に出血を強いることができる。
「まあ、結局のところ、こちらとしてはあまり関係ないんだがな」
『フフ、ドラゴンが怖いのは平地だけではないのじゃ』
神聖剣からオラクルの声がした。そうとも、ドラゴンのブレスは城壁だって破砕する!
討伐軍の先頭に立つ俺。正面には、領主町の黄金の外壁がそびえ、町を取り囲んでいる。
どうせ住民は残っていないのだ。容赦なく吹き飛ばせ!
俺は右手の真魔剣を正面に向ける。西側外壁を、インフェルノブラストで蒸発させる。魔力収束。剣先に、深紅の魔法陣が出現し、赤い光が宿っていく。高温のエネルギー体が球形となって、ダーク・インフェルノの剣先に集まる。溜めて、溜めて……。
「インフェルノ・ブラスト!!!」
地獄竜のブレスの如く、強烈な熱線が放たれた。それは領主町の外壁の門に直撃し――凄まじい高熱で溶かした。
内側の町にもインフェルノブラストが届いているのだろうと思う。範囲内にいた敵も、同じく蒸発しているだろう。
俺はインフェルノブラストを放ちながら腕を左右に軽く動かした。門の左右の壁もブラストで溶かしていく。
後ろで見守る討伐軍兵士たちが感嘆する。俺の後ろに控えていた仲間たち、そしてヴィオが目を見開いた。
「これが、真魔剣の力……!」
ダーク・インフェルノとダーク・プルガトーリョ、二つの魔剣を合わせた力だ。領主町の西側外壁は、ずべて溶け落ち、さらに町にも食い込んだ圧倒的火力が晴れた時、蒸気の霧から、黄金の町が無防備に露わになった。
先制攻撃。
領主町の外壁を破砕し、平地同然に変えてやった! まず、第一撃、成功!
討伐軍の中から、力強い角笛の音が響き渡った。
『全軍、突撃せよ』の合図だ。
もはや壁はなくなった。このまま一気に町へと侵入だ。
「突撃っー!」
討伐軍は一斉に前進した。黄金の町めがけて、騎兵が先陣を切り、歩兵たちも続く。町に入れば、大きな陣形を組むことは困難となる。一気呵成に攻め上がり、洪水時の川の如く、流れ込む!
壁がなくなったことで、弓矢などを撃ち下ろす高台もない。侵入すればすぐ町の中だ。
と、そこで邪甲獣が複数出てきた。大蛇型、ワーム型などが、解き放たれた猟犬のように、討伐軍へと突っ込んでくる。
さらにその後ろに、黒きモノたちの弓兵たちが陣を構築しようとしていて。
「薙ぎ払う!」
俺はオラクルセイバーを構える。
「ディバインブラスト! 薙ぎ払いっ!」
今度は光の一撃。ドラゴンのブレスのよう右から左へ。ディバインブラストに飲み込まれた邪甲獣たち、そして黒きモノたちが神聖属性に溺れて蒸発した。
そして、俺たちリベルタ、ドゥエーリ族傭兵団を中心に、討伐軍が黄金の町へ侵入を果たした。
ここからは市街戦だ。
ゾロゾロと町の中の道を通って、黒オークの一団が現れる。ブラストで薙ぎ払うような規模ではないが、それなりの人数がいる。
シィラが前に出た。風竜槍タルナードに魔力を集めて放つ!
「吹き荒れろ、光の風!」
光の力を帯びた風、否、突風が黒オークたちを切り裂き、吹き飛ばす。ドラゴンブラッドで進化した魔法武器の力、恐るべし。
領主町を巡る攻防は、始まったばかりだ。