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第321話、討伐軍、攻撃開始!


 俺たちリベルタが、討伐軍陣地に到着すると、マルテディ侯爵の周りが騒がしかった。


「おお、ヴィゴ殿」

「何か、あったのですか?」


 ざわつく周りを尻目に、侯爵に確認する。


「ニエント山の見張り陣地が、襲われ全滅した」

「何ですって?」


 ニエント山の頂上に作られた見張り台と、応急陣地。領主町を観測するのに悪くない場所なので、討伐軍の小部隊が配置についていたのだが。


「襲われた」

「全滅だ。敵の死体はなかった。鋭い刃を持つ武器で斬られていたらしい。そこらの魔物の仕業とは、考えにくい」


 マルテディ侯爵は渋い顔をした。


「敵がこちらの背後にいる、と?」

「ニエント山トンネルにも敵が入ったようで、西口警備の兵もやられた。だが敵の姿は確認されていない」

「トンネル地下に入った可能性も――」

「おそらくな。だが、もう外に出たと思う」


 最初に遺体を発見した際、報告に伝令が走ったが、その間見張りに立った兵が、その後殺されていた。報告を受けて、増援が駆けつけるまでに、侵入していた敵が出てきて、見張りの兵を殺害したのだろう。


「一体何のために……」


 何かを探していたのか? 一瞬、マニモンの黄金宮のことが浮かんだ。魔王の娘が、マニモンと接触した?


 嫌な予感がする。だがまた、あそこに行って確認している時間はない。こちらは領主町攻略が始まる。


 そして俺たちリベルタは、その先陣を切るのだ。


 マルテディ侯爵は口を開いた。


「警戒はするが、今のところ、それ以上の知らせはない。間違っても、敵の大部隊が潜んでいるとか、そういうことはない。我々は、予定通り、町へ進撃する!」


 退路を断たれた、とか考えたくはないが、侯爵の言うとおり、今は進むしかない。



  ・  ・  ・



 討伐軍は進撃を開始した。


 対する敵は、町の外に黒きモノの軍勢を出すことはしなかった。領主町の外壁を盾に、断固立てこもるようだった。


「敵は平野での戦いではなく、攻城戦、いや籠城に出たか」

「まあ、賢明な判断よな」


 ダイ様は鼻をならす。


「平地で部隊を構成していれば、我と神聖剣で一掃だからな!」


 ドラゴンと平地で戦えばブレスで薙ぎ払われる。俺の持つ真魔剣と神聖剣には、それだけの火力がある。


「籠城か」


 こちらは城攻めということになる。討伐軍は高い壁に阻まれ、侵入するには門を突破するか、外壁を乗り越えないといけない。敵は弓矢などで、侵入を試みる討伐軍兵を撃ってくるだろう。


 高いところから見下ろして射撃ができるのは、矢などの投射武器が豊富ならば、存分に攻め側に出血を強いることができる。


「まあ、結局のところ、こちらとしてはあまり関係ないんだがな」

『フフ、ドラゴンが怖いのは平地だけではないのじゃ』


 神聖剣からオラクルの声がした。そうとも、ドラゴンのブレスは城壁だって破砕する!


 討伐軍の先頭に立つ俺。正面には、領主町の黄金の外壁がそびえ、町を取り囲んでいる。


 どうせ住民は残っていないのだ。容赦なく吹き飛ばせ!


 俺は右手の真魔剣を正面に向ける。西側外壁を、インフェルノブラストで蒸発させる。魔力収束。剣先に、深紅の魔法陣が出現し、赤い光が宿っていく。高温のエネルギー体が球形となって、ダーク・インフェルノの剣先に集まる。溜めて、溜めて……。


「インフェルノ・ブラスト!!!」


 地獄竜のブレスの如く、強烈な熱線が放たれた。それは領主町の外壁の門に直撃し――凄まじい高熱で溶かした。


 内側の町にもインフェルノブラストが届いているのだろうと思う。範囲内にいた敵も、同じく蒸発しているだろう。


 俺はインフェルノブラストを放ちながら腕を左右に軽く動かした。門の左右の壁もブラストで溶かしていく。


 後ろで見守る討伐軍兵士たちが感嘆する。俺の後ろに控えていた仲間たち、そしてヴィオが目を見開いた。


「これが、真魔剣の力……!」


 ダーク・インフェルノとダーク・プルガトーリョ、二つの魔剣を合わせた力だ。領主町の西側外壁は、ずべて溶け落ち、さらに町にも食い込んだ圧倒的火力が晴れた時、蒸気の霧から、黄金の町が無防備に露わになった。


 先制攻撃。


 領主町の外壁を破砕し、平地同然に変えてやった! まず、第一撃、成功!


 討伐軍の中から、力強い角笛の音が響き渡った。


『全軍、突撃せよ』の合図だ。


 もはや壁はなくなった。このまま一気に町へと侵入だ。


「突撃っー!」


 討伐軍は一斉に前進した。黄金の町めがけて、騎兵が先陣を切り、歩兵たちも続く。町に入れば、大きな陣形を組むことは困難となる。一気呵成に攻め上がり、洪水時の川の如く、流れ込む!


 壁がなくなったことで、弓矢などを撃ち下ろす高台もない。侵入すればすぐ町の中だ。


 と、そこで邪甲獣が複数出てきた。大蛇型、ワーム型などが、解き放たれた猟犬のように、討伐軍へと突っ込んでくる。


 さらにその後ろに、黒きモノたちの弓兵たちが陣を構築しようとしていて。


「薙ぎ払う!」


 俺はオラクルセイバーを構える。


「ディバインブラスト! 薙ぎ払いっ!」


 今度は光の一撃。ドラゴンのブレスのよう右から左へ。ディバインブラストに飲み込まれた邪甲獣たち、そして黒きモノたちが神聖属性に溺れて蒸発した。


 そして、俺たちリベルタ、ドゥエーリ族傭兵団を中心に、討伐軍が黄金の町へ侵入を果たした。


 ここからは市街戦だ。


 ゾロゾロと町の中の道を通って、黒オークの一団が現れる。ブラストで薙ぎ払うような規模ではないが、それなりの人数がいる。


 シィラが前に出た。風竜槍タルナードに魔力を集めて放つ!


「吹き荒れろ、光の風!」


 光の力を帯びた風、否、突風が黒オークたちを切り裂き、吹き飛ばす。ドラゴンブラッドで進化した魔法武器の力、恐るべし。


 領主町を巡る攻防は、始まったばかりだ。

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