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第365話、報告と祝福


 マルテディ侯爵から、ヴィオとの縁談の話を持ちかけられて受けた俺。相談すべき家族というものがない以上、まず言っておかないといけないのが、すでに結婚を約束したルカとシィラである。


 だが結果報告の前に、やはり一言言っておくべきだったかもしれないルカだったが、当人は笑顔だった。


「侯爵に呼ばれた時点で、こうなるんじゃないかとわかってましたから」

「……」

「そこまで鈍くないですよ、私は」


 優しい……。


「そうだな、ヴィゴじゃあるまいし」


 シィラも豪快に笑うのだった。彼女たちの中では、ヴィオが俺と婚約するところまでは想定内だったということらしい。……まあ、俺抜きで、3人で話を進めていたみたいだしな。


「しかし、これでヴィゴも妻3人かー」


 シィラは目を細めた。


「親父と同じだな」


 ルカ、シィラ、そしてユーニの父であるボークスメルチ氏は、3人の妻がいる。……そういえば、王都カルムの冒険者ギルドのマスターであるロンキドさんも、奥さんは3人だった。


 いまリベルタクランにいるニニヤと、同行しているカメリアさんもロンキドさんの娘だが、母親は違う。


 ……何か凄い人たちと同じようなことになっているな。


 というところで、ヴィオがやってきたので、改めてリベルタクランの皆に、ご報告する。

 このたび、俺はルカとシィラに続き、ヴィオとも婚約しました。


「おめでとう、ヴィゴ」


 アウラが手を叩けば、双子のような関係のラウネが「ヒュー、ヒュー!」と囃し立てた。


「おめでとうございます、お義兄さん!」


 ユーニが『お義兄さん』呼びをする……! ルカとシィラの妹だから、俺にとって彼女は義妹になるわけだけど。


「おめでとぅございますっ!」

「おめでとうございます、守護者様」


 マルモが満面の笑顔で、ファウナが柔やかに言えば、ネムが「おめでとーっ!」とパチパチと手を叩いた。


「おめでとう、ヴィゴ」

「兄貴、おめでとうございますッ!」


 ハク、そしてカバーンが言い、ディー、ニニヤ、イラ、セラータ、カメリアさんも穏やかに拍手した。何か知らないが、リーリエが俺たちの頭上をぐるぐると飛んで、光る鱗粉のようなものを巻いている。それ、祝福してる?


 アウラが意地の悪い笑みを浮かべた。


「この分だと、奥さんはもっと増えるんじゃないかしらね」

「きっと行列ができるわね」


 ラウネが同意するように真顔。おいおい、冗談じゃないよ。万年モテない冒険者だった俺が、これ以上モテても困る。


「どうかなぁ」


 シィラが皮肉げな顔になった。


「次からヴィゴに縁談を来ても、あたしたち3人が『うん』と言わなきゃ、無効だぞ」

「それもそう」


 ヴィオが頷いた。


「僕たちも認めなきゃ、複婚は成立しないからね」


 片方の都合だけでは、本来は認められない。複数の妻ないし夫がいるなら、全員納得しないと駄目というのが、複婚の基本的形だ。


 ……うん、俺、ちゃんとルカとシィラに確認しないまま、侯爵に返事してしまっていた。大丈夫だろうとは思っていたが、本当ならこれもよくないよな。もちろん、駄目そうだなと思っていれば、一度相談を、と言って返事保留していたんだけど。


 まあ、結果的に大丈夫だったわけだけど、次があるなら気をつけよう。……というか、次なんてあるのか?


 マルテディ侯爵も、アウラも、さもこれから大変だって言っているが、本当に婚約が殺到するような状況になるだろうか?


 魔剣使いになっても、神聖騎士になってSランク冒険者になった後も、婚約の話なんてなかったわけだし。


 何より俺だぞ? 肩書き増えたって、それでモテるわけないじゃないか。……仮にモテたとしても、相手の意思――家族とかじゃなくて、本人の意思を優先したいから、そう受けるようなことはないと思うんだ。


 俺には、幸せにする女性が3人もいるんだから。ボークスメルチ氏のところも、ロンキドさんのところも、奥さんたちは仲がよくて、俺もルカたちと、そんな家庭を築きたい。



  ・  ・  ・



 討伐軍は、一部の部隊を残して、王都への帰還の途に就いた。


 俺たちは神船があって空から移動できるのだが、王都には、討伐軍と一緒に到着すると話し合いで決まったために、ちょっと日程的に余裕ができた。


 そんなわけで、ドゥエーリ族の療養が必要な怪我人と共に、彼らの集落へ立ち寄ることにした。


 俺としては、ルカとシィラと婚約したので、お義母さんたちにご報告にあがるというところか。


 以前行った時は、大歓迎されたリベルタクラン。ルカのお母さんであり、カイジン師匠の娘であるクレハさんからは、次に来るときは『孫を連れてきてもいい』なんて言われたから、結婚の話をしても追認いただけるとは思うが……。


 という感じで、ドゥエーリ族の集落へ到着。帰ってきたら、何者かに滅ぼされていて……なんてことにはなっていなくて安堵。まあ、戦闘民族の集落に喧嘩を売るやつがいるのかって話なんだけど、メインとなる戦士たちは集落を離れていたからな。


「ヴィゴさまーっ!」


 ドゥエーリ族の娘たちから黄色い声が……。ここに来ると、俺は大人気らしい。


 ルカ、シィラ、ユーニにとっては里帰りということで、それぞれのお母さんたち――クレハさん、シィラのお母さんであるナサキさん、ユーニのお母さんのコスカさんたちと再会!


「お帰り」と言って迎えるお母さんたち。少し照れたようなルカやシィラだけど、最年少のユーニは、感極まってコスカさんの胸に飛び込んでいた。……うん、感動の親子対面だ。


 普段から凛として真面目なユーニだけど、年相応なところもあるわけだ。


「お母さん……」


 ルカが、どっちが親かわからないほどの身長差があるクレハさんを見下ろした。


「私たち、ヴィゴさんと結婚します……!」

「私たち――?」


 クレハさんが笑顔のまま固まった。シィラが照れながら髪をかいていると、その母であるナサキさんが腕を組んで、フッと笑った。


「お前もそうなのか、シィラ?」

「お、おう……。結婚する、ヴィゴと」


 体は大きいのに、そうしていると子供みたいに照れ照れのシィラであった。クレハさんが、やはり笑顔のまま俺を見た。


「ようし、ヴィゴ君。話を聞きましょうか。ツラを貸しなさい」

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