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第366話、生と性?


 ツラを貸せと言われた時は、罠を踏み抜いたようにゾッとしたが、クレハさんは、俺たちの婚約を祝福した。


 ナサキさんも、娘シィラとの婚約に反対することもなくあっさり了承した。


「うちの旦那も認めたのだろう? まあ、一族の伝統に則れば、これは最良案件。反対する理由はない」


 強きことが全て。


「それは、ここにいる皆も認めているからな」


 ナサキさんが言った。魔王崇拝者たちとの戦い、召喚された化け物を退治したことなどなど。


 コスカさんがユーニを見た。


「それで、ユーニちゃんは、ヴィゴ君とはいいの?」

「な、何を言うんですか!?」


 ユーニは真っ赤になって動揺した。


「わ、わたしとヴィゴさんとの間には、そういう関係はなくてですねっ! そ、それはヴィゴさんは、とてもお強いですが、ルカ姉と、シィラ姉が――」

「いいんじゃないか?」


 シィラが深く考えていない顔になる。


「姉妹全員が同じ人を好きになったって」

「シ、シィラ姉!」


 凄まじく動揺し続けるユーニである。……この反応をみると、クランメンバーとしての付き合いは浅いが、少なくとも俺に対して好意を持っているとみてもいいかもしれない。


 もしそうなら、本当なら姉妹違う相手を選んで、ドゥエーリ族に強い戦士を引き込むという流れが、むしろ減るということになるのでは……。


 3人の子供がいて、3人の異性が加わるはずが、1人に集束するとか、皮肉である。……そうと決まったわけではないが。



  ・  ・  ・



 和やかな雰囲気で、婚約の報告が終わり、リベルタクランは集落のお世話になった。


 もっとも、いい話ばかりではなくて、ラーメ領に遠征に出たドゥエーリ族の戦士たちの中には、命を落とした者たちがいる。


 生き残った者たちの名を聞き、安堵する家族もいれば、戦死を聞き落胆する者もいた。


 集落の人間が集まって、略式の鎮魂の儀式をして、戦死者たちの霊の安息を祈る。戦士の正式な葬儀は、遠征した戦士たちが戻ってからになるという。


 魔王の娘がからんだ騒動。汚染精霊樹に、黒きモノ、邪甲獣と強力な敵を相手にした今回の戦いでは、討伐軍にも大きな被害が出た。


 第一次討伐軍はほぼ全滅。第二次討伐軍も、終わってみれば半数が失われた。多くの……本当に多くの死者が出た。勇猛果敢なドゥエーリ族の戦士にも。


 俺たちリベルタクランも、幸い死者はいなかったが、死にかけた者は何人もいて、決して他人事ではなかったんだ。


 誰が死んでもおかしくなかった。だからこそ、無事だったことはとても喜ばしいことだ。


 そうやって生を実感しながら、戦闘民族の集落で、しばしの休養をとった。ラーメ領遠征の疲れというものはあって、仲間たちにも休みが必要だった。


 俺は俺で、ドゥエーリ族とはより接していくことになるだろうから、休息がてら、一族の風習に慣れていった。



  ・  ・  ・



「で、下世話なことを聞くけれど、ヴィゴ君。もうあの子たちとはシたの?」


 クレハさんが突然、振ってきた。いきなり何を言うんだこの人。


 ドゥエーリ集落の族長の家である。夕食の支度をしているクレハさんに呼び出された俺である。室内にはクレハさんの他、ナサキさん、コスカさんがいた。


「心配しなくても、ルカたちは外にいるから大丈夫よ」


 カイジン師匠が、ドゥエーリ族の戦士たち相手に剣の稽古をつけているので、ルカ、シィラ、ヴィオはそちらに行っている。


 なお最近、カイジン師匠が冷たい。あの人、複婚をしない国の出身だからちょっと思うところがあるらしい。クレハさんから、そう耳打ちしてもらうまで、何でカイジン師匠がよそよそしいのかわからなかった俺だけど。


 まあ、今はそれはよくて――


「シたとは、その――」

「ナニかは言わなくてもわかってるし、わかるでしょう?」


 クレハさんは、スープの入った瓶を回す。野菜を切っていたコスカさんが、ニコニコしながら言った。


「で、どうなの?」

「シたのか? シていないのか?」


 ナサキさんまで言えと圧をかけてくる。ルカの母であるクレハさん、シィラの母であるナサキさんは特に気になっているのだろう。


 何故、それを俺に聞くのか? 二人に聞いてくれ、っていうのは逃げだろうか。


「こういうのは、あまり軽々しく言うものではないでしょう?」

「お母さんたちは気になるわ」

「言えよ」


 だから、ナサキさん圧が……。まあ、直にお義母さんたちになることだし、ご機嫌はとっておくべきかもしれない。


「正直に言えば――添い寝はしています。でも、そこから先はまだ……」

「まあ」


 コスカさんが驚いた。ナサキさんが冗談だろう、という顔になった。


「この二日、同じ寝所で寝ているのに、ヤってないのか? ヘタレか!」

「ナサキ」


 クレハさんが笑顔で、第二夫人を睨んだ。


「きちんと結婚の式を上げるまで、肉体の交わりはしないという国や民族もあるの。一概にいくじなしなんて言うものではないわ」


 ……ありがとう、クレハさん。ちゃんと結婚するまでは、お触りまででその先は、我慢しています。


 でもこういうところ、親子で似るんだなぁ。ルカとヴィオは、ベッドで寝ても、するのは結婚してから、と言うけど、シィラはより先を求めてくるところとか。でも肌は触れているから、その……すごくムラムラするんですけどね。


「私は安心したわ」


 そう言うクレハさん。対して、ナサキさんは複雑な表情する。


「族長たちが帰ってきていないが、新郎も新婦もいるんだ。私たちで結婚の儀をやってしまおう。やれる時にやる、それが生きているってことだ」


 戦いに身を置くことが多いドゥエーリ族の、刹那的人生に関係する人生観である。今回の遠征で、集落では何人かの未亡人が発生したから、特にそういう思いが強くなるのだろう。


「まあまあ、慌ててもろくなことはないわよ」


 クレハさんは、なだめるのだった。


「ごめんなさいね、ヴィゴ君。それはそれとして、子供は何人作る予定?」

「はい……?」


 子供――まあ、結婚して家庭をもつとなれば、それは子供ができてって話になるよな。


「何人、ですか……」

「3人奥さんがいるのだから、最低3人でしょう?」


 クレハさんが言えば、コスカさんは頷いた。


「私たちのとこは、皆女の子だったもんね」

「一人くらい男の子がいてもよかったのにな」


 とは、ナサキさん。


「ヴィゴは、どう思っているんだ?」

「男の子も女の子も欲しいですね」


 どちらが生まれても可愛がるだろうけど。そうか、家庭作ったら、子供か……。これまで全然、考えてなかったよな。


 将来のこととか。俺は、これからどうするんだろう?

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