死霊術師は恵みの森のもう少し奥に自分の城を作っているようです。城と言ってもアーデンにあるような巨大な城ではなく、ちょっと豪華な家ぐらいのようです。
私達は先輩の案内でそちらに向かいます。先輩の魔法は戦闘向きではないですが、こういう探索には絶大な効果を発揮しますね。どういう仕組みかは分かりませんが、常に自分の周囲の詳細な地図が見えているそうです。
「死霊術師の城はまだー?」
ドライアドのところからもうずいぶん歩いている気がします。
『呼んだかね?』
先輩が答えるよりも早く、目的の相手が返事をしてきました。と、同時に周囲の地面から多数の腐乱死体が這い出してきます。やっぱりミラさんが適任だったのではないでしょうか。
「アー……」
ありきたりなうめき声を上げながら私達を囲むゾンビに、
「どうしてアンデッドは数で勝負するのかしら?」
「うわわっ、のんびりしてないでエスカも戦って!」
襲い掛かってくるゾンビに魔法の石つぶてをぶつけながら先輩が情けない声を上げます。先輩は宮廷魔術師という地位ではありますが、
「あれ? さっき任せろって言ってなかった?」
「それは死霊術師の相手だよ! 僕はアンデッドに有効な魔法を覚えてないんだ」
仕方ありませんね。サラディンさんも凄い勢いでスケルトンをバラバラにしていますし――ゾンビは腐ってるから斬りたくないんでしょうか?
「はーい、
私が頭上にかざした手から光が生まれ、それに照らされたゾンビ達がサラサラと砂のように崩れていきました。この程度なら余裕ですね。
「通常聖職者にしか使えない
サラディンさんが解説してくれましたが、この手の魔法は聖職者が得意とするものです。でも別に聖職者しか使えないというわけではないんですよね。使い方を教団員だけにしか教えない門外不出の技なだけで、自分で編み出せばこの通り魔術師でも使えます。
『ほう、聖職者がいるのか。だがその程度で
私を聖職者と勘違いしているようですが、それでも余裕の態度を崩さないということは、聖魔法が効かないモンスターも使役できるということでしょうか。アンデッドに限定しても聖魔法が効かないモンスターは何種類か思いつきますからね。
「倒せるの?」
でも先輩が任せろって言ってましたから、この死霊術師の相手をするのは私ではありません。
「まあ、見てなよ」
何やら自信ありげな笑み。本当に大丈夫でしょうか?
『ククッ、儂を甘く見るなよ?』
「あれは……トロール!」
森の奥から醜い巨人が現れました。これもジョージ・アルジェントが使役しているのでしょうか?
トロールは耳が大きく尖り、鼻がいびつに膨らんだ巨大な人型の妖精です。身体能力が高く、異常な再生能力を持つのが特徴で、腕を切り落とされてもくっついて治るほどだといいます。
「コロ、ス」
トロールは近くに生えていた木を引っこ抜き、それで私達を殴りつけてきました。とんでもないパワーです!
「はぁっ!」
その攻撃を華麗にかわし、トロールの両腕を切り落とすサラディンさん。
『腕を切り落としても無駄だぞ』
ジョージ・アルジェントが
「どこまで細かくしても大丈夫なのか、試してみようか」
ええと、わりとグロテスクな光景なので説明はやめておきましょう。しばらくすると、トロールだったものが森の土と同化していました。
『ほほう、やるではないか』
それでも余裕の態度です。三つの都市を困らせるほどの力を持つドライアドが脅威と認識するだけのことはありますね。ただ、こちらの戦力は国家レベルなんですよね。
「ここが死霊術師の城かー」
あれから何度か襲いかかってきた配下を撃退し、ついに目的の城に到着しました。その間、ジョージ・アルジェントは無言のまま。ふふふ、我々の強さに驚いているようですね。
ここで先輩が不敵な笑みを浮かべて扉の前に立ちます。どんな秘策があるのでしょうか?
「すいませーん、お届け物でーす!」
先輩は扉を叩きながら呼びかけました。
いやいや、何やってるんですか?
「はーい」
ドアが開いて、中から老人が出てきました。間違いなく死霊術師ジョージ・アルジェントその人です。
なんで!?
「出てきましたね」
「はっ!? まさか儂をたばかったのか!」
いやいやいや。さっきまでの強者っぽい語りはなんだったんですか?
「なんで出てきたんですか?」
戦闘態勢を取るジョージに質問してみます。
「寝ぼけてた」
寝てたんですか。道理で無言なわけですね。そういえば先輩は遠くの様子が魔法で見えるんでした。
「さて、ここで戦ってもいいんですが、ちょっと話し合いませんか?」
そして、先輩がなんと話し合いを要求しました。ギルドを運営するために問題児を粛清する覚悟を見せるんじゃなかったんですか?
「……」
サラディンさんは黙って成り行きを見守っています。どうするつもりなんでしょう?