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冒険者ギルド結成に向けて

 結局、先輩に土下座で頼まれて私も参加することになりました。私が土下座を要求したわけじゃないですからね?


「この三人なら問題ないでしょう。私からも推薦させてもらいますよ」


 宰相のクレメンスさんが認めてくれました。これで先輩の夢の第一歩である冒険者ギルドの結成は確実となりましたね。


「開拓技能者をまとめる組合なら、名称は開拓技能者組合ということで」


 冒険者ギルドではないんですよね。商人ギルドも正式名称は別にあるので特におかしくはないんですが、冒険者という単語の入る余地が無いような気がします。


「さて、組合を作るなら実際に活動拠点を作らなくてはなりません。資金は国費から出しますので、必要な施設を教えてください」


 おおっ、太っ腹ですね。何でも作れるのでしょうか?


「では後ほど設計図を提出します」


 さすが地図製作者マッパー。製図はお手の物です。ずっと計画していただけあって用意周到ですね。


 かなり大掛かりな施設を作るつもりらしく、建物が完成するまで二年ぐらいかかるみたいです。国のお金だからって贅沢しすぎなのではないでしょうか?


「開拓事業は国力を増大させるものだからね。国のメンツもあるから粗末なものは作れないんだよ」


 そういうものですか。


◇◆◇


 あれから一年半ほど、私達は冒険者ギルドのシステムを作るのに専念していました。主に冒険者を管理する『魔法書庫マジカルアーカイブ』の作成ですが、サリエリ先生が手伝ってくれたおかげでかなり楽が出来ました。


盗賊シーフの加入は断られたの?」


「宰相閣下は前向きだったんだけど、他の貴族達がいい顔をしなくてね」


 先輩が浮かない顔をして貴族のサロンから帰ってきたのを見て状況を察しました。実は冒険者ギルドを正式に稼働させる上で必要な技能者のリストを上げたのですが、その中に盗賊がいることを好ましく思わない貴族が反対しているのです。盗賊といっても犯罪者ではなく、罠や仕掛けを解除する技能に特化した技能者なのですが、開拓初期からの名残で風評被害を受けているんですよね。名前を変えればいいのではという意見は何度も出ていますが、定着してしまった名称はそう簡単に変えられません。何より、本当の盗賊もいくらか存在する上に、そちらの方が腕が良かったりするから排除するわけにもいかないのです。


 そんな貴族達は自分が開拓を行う時にも技能者に盗賊を加えません。そのせいでろくな開拓が出来ていないのはいい気味ですけどね、そんな無謀な開拓を任される技能者達が可哀想で仕方ありません。


「こうなったら盗賊の必要性を示すデータを提出するしかないね」


「どうするつもりだ?」


「ネーティアの森やダンジョンを調査して、危険な罠の多さを記録するんだ。魔法書庫を使えば貴族達に直接見せられるからね」


 なるほど。そんな危険なことを誰がやるのでしょうか?


「エスカ、魔法書庫の調整をお願い」


 そうですね、登録した人が実際にダンジョンに向えばここからでも現地の様子を見ることが出来ます。それで登録する人は誰でしょう?


「まず僕から登録してもらおうかな、記念すべき第一号冒険者として」


「登録するのは良いけど調査に行くのはダメだからね?」


 分かっていましたが、やっぱり先輩が自分で行くつもりですね。言い出したら聞かないから、ダメと言っても無駄なのですが。


「危険なことを他の人にやらせるわけにはいかないよ。僕なら遠視魔法で危険な仕掛けも見つけられるし」


「でも強力なモンスターが出たら戦えないでしょ」


 こうなるとジョージ・アルジェントが仲間にならなかったのは痛いですね。彼なら罠にもモンスターにもやられるようなことはないでしょう。まあ、盗賊程度で猛反対するような貴族達が不死王リッチを受け入れるわけがないのですが。


「俺が一緒に行こう。冒険者ギルドを成功させるためには盗賊の加入が不可欠だからな」


 サラディンさんが同行を申し出ました。この二人なら大丈夫そうですが……。


「じゃあ私も――」


「エスカは残ってて。魔法書庫の管理をしてもらいたいし、何より僕達に何かあった時に冒険者ギルドを引き継いでくれる人がいないと困るんだ」


 ついて行こうとしたら断られました。何かあったら、なんて不吉なこと言わないで下さいよ、もう。


「分かったわ。実はサリエリ先生から魔法書庫を使った遠隔魔術リモートマジックの使い方を教わってるから、危ない時は助けてあげるね」


「遠隔魔術? それはどんなものなんだ」


 サラディンさんが不思議そうな顔で聞いてきます。ふふふ、宮廷魔術師のとっておきです。


「魔法書庫で見ている冒険者のいる位置に、ここから魔法を使えるんです。攻撃も治癒も出来ますよ」


 本当に便利な技です。サリエリ先生に感謝ですね。


「それは凄いね、ならいざって時はお願いするよ」


 そうは言っても出来ることは限られているので、過信は禁物ですけどね。本当はこんな危険なことをこれから立ち上げる組織のリーダーにやらせてはいけないんですよ。


「話は聞いたわ。エスカの代わりに私がついていってあげる」


 そこに、宮廷魔術師仲間のミラさんことミランダ・トゥルダクスさんが声をかけてきました。いつの間にきたのでしょう?


「サリエリ先生が協力しろって言ったの。宮廷にいるより楽しそうだしね」


 先生……ミラさんも本当に優しいなあ。


 こうして、先輩達三人は罠の調査に向かうのでした。目指す先はエルフ領ネーティア、グラズグ川流域にある人類共通の開拓目標となっている場所。その名も『無帰還の迷宮』です。

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